強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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続編記念ss4

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お椀の半分くらいを食べたところで咀嚼が苦しくなってきて、由良さんはそれに気づいたのか匙を置き、ぎゅっと優しく目を細める。

「もうお腹いっぱい?」

「すみません…。」

せっかく作ってもらったのに、残しちゃった…。

「少しでも食べられて偉かったね。」

俺は俯いて謝ったけれど、彼は残したことを気にするそぶりを見せずに代わりに頭を撫でて食べたことを褒めてくれた。

「じゃあ、薬飲もうか。口開けて。」

由良さんのふしばった長い指がシートをぱちんと弾いて錠剤を取り出す、その仕草が色っぽい。

そんなことまで…、と思いながらも結局口を開けて錠剤を挟んだ彼の指先をむ。

「はい、水。」

由良さんから水の入ったコップを受け取り飲もうとしたが、上手に飲めずに大半をこぼしてしまった。

少しずつ錠剤が溶けてきて口の中が苦い。

それに由良さんの洋服にもすこし水がかかっている。

…今日俺、本当にだめだな…。

「すみません…。」

「謝らない。ほら、上向いて。」

ふと、なぜか俺が飲んでいたコップの水を由良さんが口に含んだ。

…喉渇いてたのかな…?でもうつるから俺の口つけたのから飲むのはあんまりよくないと…

ぼうっと考えている間に由良さんの指に顎を緩く持ち上げられる。

そのまま彼の顔がこちらに近づいてきて。

由良さんの紫紺の瞳が視界いっぱいに映し出されて、俺は驚いて目を見開く。

こんなに近くで見たら風邪のせいじゃなくても体温が上がりすぎてタンパク質が凝固して死ぬかもしれない。

あっ、でも由良さんに殺されるなら本望かな…。

本気でそんなことを考える程度には思考回路がおかしくなっていて、唇に何かがあたるまで由良さんの行動の意味を理解することができなかった。

見ると由良さんの唇が俺の唇に押し当てられていて、驚いて緩く開いた唇の隙間から、まだ冷たさを残した水が流し込まれてくる。

少しずつ流れ込んでくる水のせいで俺は反射的にこくりと喉を鳴らし、水と共に錠剤を飲み込んだ。

…水、気持ちいい…。

何が起こったのかに対する理解は唇が離れた後からついてきた。

由良さんの飲んだ水が俺の口の中に…しかもキスをしながら…。

「あ、あのっ…うつる… 」

動揺に目を泳がせながらしどろもどろに言葉を紡ぐ。

けれど由良さんは全く気にならない様子でくしゃりと笑って、

「看病の一環だよ。じゃあ僕は片付けをしてくるね。」

と言いながら椅子から立ち上がった。

「…幹斗君…?」

問いかけられて、反射的に彼の袖を掴んでいたことを悟る。

こんなに甘やかしてもらってさらにそばにいて欲しいなんてわがままだ。そんなこと言えない。

なのにどうして掴んでしまったのだろう。

「……つい…すみません…、、」

「だから、謝らないで。」

けれど由良さんは全てをわかっているように頷き、俯く俺の掌を彼の手が柔らかに包み込んだ。

「大丈夫、寝るまでそばにいて、片付けたらまたずっとそばにいるよ。だから安心して眠りなさい。」

「うん…。」

俺は彼の言葉にひどく安心して。

そのまま由良さんの手の温かさを感じていたらいつの間にか眠っていて、次の日には7度5分まで熱が下がっていたのだった。
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