この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡

文字の大きさ
2 / 6

断罪の場

しおりを挟む
 夜会から数日後、国王名義でシャルロッテに対して、王宮への召喚状が公爵家に届いた。
 それを見た父親も母親も、取り次いだ執事もなにも言わない。
 彼らもこの召喚状がなにを意味するのか理解しているのだろう。彼女は目いっぱい着飾られ、両親とともに王宮へ向かった。

 夜会のときとは違って最低限の装飾品以外は取り外された大広間に、王太子をはじめ国王夫妻以外の王族や主要な大臣たちがそろっている。アリアナも相変わらずルドウィックにべったりとしている。

「ようやく来たな、シャルロッテ・エマンズル公爵令嬢」

 ルドウィックの言葉に、ほとんどしゃべったこともないのにここまでの言われ具合をされなければならないのかと思う反面、やっぱりこのような公式の場でもそういう見方しかされていなかったと納得してしまったシャルロッテだった。
 彼女が無言でいるとルドウィックは調子に乗ってシャルロッテを糾弾していく。

「お前は他国で調子のいいことばかりを言って、ここに帰ってきてからは我が王家を愚弄するような言動をしていたと聞く。それに、父上たちの温情を逆手にとって、アリアナを虐めていたらしいな」
「ほんと、怖かったんですぅ」

 アリアナは大げさに肩をすくめたが、だれも横槍を入れるものはいない。王太子のお気に入りである彼女の言葉はすべて真実であると信じてやまないのだ。

「今までアリアナには十分、窮屈な思いをさせたな」
「そんなことないですよ? だって、ルドウィック様には十分・・良くしていただきましたし、ね?」

 二人だけの世界を作っているかのようにしているが、ここにきている大臣たちの後ろのほうで誰かがでは、シャルロッテ様との婚約は?とつぶやくが、ルドウィックは吐き捨てる。

「お前はもう用済みだ。ただ王家と公爵家のつながりがあるから、そしてお前の無体な噂のせいで婚約者候補としているだけだろう? そうだな。おとなしく北部のサンモンテ修道院にでも引っ込んでいたらどうだ? あそこならばお前のような境遇の女がいっぱいいるだろう?」

 その言葉にエマンズル公爵は怒りで王太子につかみかかろうとするが、シャルロッテの母親に足を踏まれ、しぶしぶ我慢していたのが彼女にもよくわかった。
 王国北部のサンモンテ修道院。
 そこはおもに高位貴族の不倫や浮気で社交界を追放された女性たちの行き場。たしかにあの噂がある以上、そこしか行き場がないのはシャルロッテ自身もわかっているから、だれにも迷惑を掛けないのならばそこに行くほかあるまい。
 そう思って頷こうとした瞬間、扉が勢いよく開かれた。
 エマンズル公爵一家をはじめその場にいた人たちはみな、その音のした方向を向く。そこには鳶色の髪をした青年が立っていた。
 髪がきれいに整えられていたものの、あの夜会のときに出会った人だということが直感でわかり、それが“あの人”だという事にも気づいてしまった。夜会では仮面をしていたものの、間違いなくアイスブルーの瞳は彼のものだったから。

「お、お前は何者だ!?」

 ルドウィックが出ていけと言って、この部屋を守っていた兵士たちが青年に襲いかかるが、青年はそれをいとも簡単に黙らす。彼の気迫にルドウィックもアリアナも王族たち、大臣たちもひるんでいる。この場で青年におびえていないのは彼の正体に気づいていたエマンズル公爵一家だけだった。

「これは、陛下がここにおられると聞いていたものですからここに来たのですが、まだおみえでなかったようですね」
「そうだな、我々も陛下に呼び出されたのだが、先ほどからわけのわからんことを言われてな」

 青年と公爵のやり取りにざわめきだす大広間の中。

「どんなことを言われたのですか?」
「なにやら娘があの小娘を虐めたから婚約者候補から外すとか、修道院に送ってやるとか」
「へぇ、それは面白い話ですね」

 公爵の間違っていない・・・・・・・説明に冷たい視線を送る青年。ぐるりと会場を見まわして、ああ、あの娘のことですかと納得する。

「あの小娘がどんな立場であれ、エマンズル公爵令嬢をいらないというのであれば、私がいただきましょう」

 青年の突然の発言に物珍し気な視線を投げる王太子たち。アリアナは自分たちが支配しているこの場に突然現れるだけでなく、自分よりもシャルロッテの肩を持った青年をにらみつけている。
 シャルロッテ自身もまさか本当に自分でいいなんて思ってもいなかったから、彼の言葉にじんわりと来ていた。

「ふん、そんなただのあばずれ・・・・を欲しいという奇特なやつがいるなんてな。ま、穢れててもいいっていうことは、どこの国の所属かは知らんが、お前も大したことないやつだな」

 ルドウィックの言葉に思いきり、あんたなにも聞いてないんじゃないですかと呆れた視線を向ける青年。

「あなたはミリニア帝国、ルッフェンドル公爵家のグイードを知っていますか?」
「そりゃ、知ってるが。二代前の皇帝の弟が創設したルッフェンドル家の長男であり、俺と同い年。だが、あまりにぼんくらで成人してなお、政治に顔を出さないやつだと。だが、子のできなかった皇帝夫妻にとっては一番血筋が近いから次期皇帝に任命されるのも時間の問題だと」
「やはりその程度でしたか」
「はっ、お前に言われたくは……って、まさかお前……――」

 王太子ルドウィックの失言にニヤリと笑う青年、グイード。

「ご想像の通りですよ、ルドウィック殿下。もしあなたが私を否定なさるのならば、帝国にケンカを売っているのと同じですよ?」

 彼の言葉にざわつく大広間。
 ミリニア帝国はロンドルド王国の北西部に位置する大国で、五代前はまだかわいらしい・・・・・・国であったものの、四代前の皇帝のときから周辺の国々を取り込み、今では王国と同じくらいの規模であり、同じくらい古くから続いているロンドルド王国の脅威ともなりつつある国だ。
 次期皇帝の機嫌を損ねてはならないと中には今すぐ謝罪を行ってくださいと言う人まで出てきたが、ルドウィックは謝るどころか、開き直った。

「ふん。もし仮にお前が本物のグイードだったとしても、なにが悪い。勝手にこの場でアリアナをなじったうえ、エマンズル公爵令嬢を擁護するとはな」

 ルドウィックの発言にざわめきだす王族や大臣たち。彼らがとらなければならないのは目先の利益か先々の利益か。しかし、王太子は彼らのざわめきを無視してのたまい続ける。

「エマンズル公爵家もエマンズル公爵家だ。他国との付き合いも大事かもしれんが、自国の、それも領民たちとの付き合いはどうなんだ? どうやら最近領民から巻き上げられるだけ税を巻き上げて、国に納めてないといううわさも出てるようだが」
「それは……」
「ほら見ろ! 私腹を肥やしているというのは本当のようだな。まだこの場では証拠がないから貴様を断罪できないが、俺が即位するまでに必ず尻尾を捕まえて断罪してやる!」

 領地の税収のことをいきなり問われた公爵は答えを口ごもってしまったが、それを肯定だと勘違いしたルドウィックはまくしたてるように言うが、そこに待ったをかける人物がいた。

「おや、自国の貴族のことをロクに調べずに問い詰めるとは、愚鈍ですね」
「なんだと? 貴様は自国の貴族のことをすべて知っているのか?」
「ええ。あなたとは違って、自分のこの目で確かめてますよ? なんならすべてご覧に入れますか?」

 グイードはルドウィックの言葉を切り捨てた。
 彼は自分がその土地を訪れたとかどういうやり取りをしたかなどすべて記録している。だから探られても痛くもかゆくもなかった。

「もしルドウィック殿下がそれをされたのちにこのような場所で発言をされているようならばまだしも、“噂”だけで人を疑うなんて王太子の器としてどうでしょうか――――ああ、もっとももしその証拠を見つけたとしても、私はエマンズル公爵、そして彼女の無実を信じますが」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

私達、政略結婚ですから。

潮海璃月
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

処理中です...