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1巻
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しおりを挟む「また、仕事を回されてしまったのか?」
千佳は、チラッと自分の机の上にある書類の山を見る。
「今年は……新入社員が秘書室へ入ってこなかったから」
その言葉だけで、全て優貴に通じた。何故か、一番下っ端の千佳の境遇を知っているからだ。
「……夕食、一緒にしないか?」
いつもと同じように一方的な物言いだったが、今日はいつもと違うように聞こえた。
先程、初めて優貴が口元を綻ばせたのを見たからだろうか?
(どうするの? さっき、考えていたことを実行するの? それとも、いつものように断る?)
頭の中でどうしようか迷っていると、優貴がさらに一歩前へ足を踏み出した。あまりにも千佳の近くへ寄ってきたので、慌てて誘いの返事を口にした。
「……はい」
肯定する言葉が出てきたことに、千佳は驚きを隠せなかった。それは、優貴も同じだったようだ。
目を大きく見開いて、千佳をジッと見つめている。
未だに彼に対して恐怖を感じるが、優貴を見ていると、よくわからない温かなものが胸の奥でトクントクンと高鳴る。
御曹司には、全く感じたことのない感情だ。
「本当、に!? 千佳、ありがとう……」
優貴に初めて呼び捨てにされたあの日以来、彼は会う度に千佳を名前で呼ぶようになった。迷惑だと思っていたはずなのに、今日は何故か擽ったく感じる。
(わたし、本当にどうしたのかしら。優貴さんが怖いのに……恐ろしいのに、毎回誘うことを諦めず、紳士的に振る舞ってくれる彼と食事したいと思ってしまうなんて)
返事をしたことによって、いつの間にか優貴と一緒に食事をする日を心の奥では望んでいたと気付かされた。
だが、それを表に出せるほど千佳は強くなかった。
優貴は、会社からほど近い場所にあるタイ風レストランへ千佳を連れていった。
大きなビルの七階にあるレストランは、五階の大きなホールから伸びる専用のエスカレーターに乗らなければ入れないという、少し変わった造りになっている。
レストランに足を踏み入れると、入り口から階段を少し下りる形でフロアが広がっていた。照明が暗く、テーブルに置かれたフード付きのランプが星のように綺麗に輝いて見える。
高級そうなレストランに連れてこられた千佳は、少し不安を覚えた。贅沢とは縁遠い生活を送っているため、こういうレストランで一度も食事をしたことがない。
男性と二人きりで食事をするというのも初めての経験だった。
水嶋家の御曹司の一人でもある優貴と、こういう場所で食事をする場合、どんな態度で接すればいいのだろうか?
促されるまま案内された窓際に座ると、正面に優貴が堂々と座った。
(ああ、彼はこういう場に慣れている! それなのにわたしは、初めてで……何をどうすればいいのかもわからない!)
「この店のお薦めコースでいいか?」
千佳は優貴と視線を合わすことができず、小さく頷いた。
だが、見かけとは違って心の中は騒然としていた。
まず、コースとなれば値段は高くなる。お財布の中にいくら入っていたのか、全く思い出せない。
どうしてこんな高級そうなレストランに入る前に、もっと安いお店へ行こうと言わなかったのか、悔やんでも悔やみきれなかった。
さらに、優貴はいつの間にか白ワインの試飲までしている。その姿は優雅で、ウェイターが彼に尽くす執事のように見えた。洗練された振舞い、他者への接し方、全てにおいて気品を兼ね備えている。
優貴が水嶋グループの御曹司の一人だということが、改めて理解できたような気がした。
そんな彼と、共に食事をすることになるとは……
千佳は、どんどん血の気が失せてくるのがわかった。膝の上でしっかり握っている両手は、微かに震えている。
「……聞かせて欲しいんだが」
いきなり問いかけられて、千佳はハッと息を呑んで面を上げた。
「何で、しょうか?」
表情が強ばっているのを承知の上で、視線が定まらないまま優貴の方へ顔を向けた。上司や役員たちの前では、難なく秘書の仮面を被れるというのに、何故か優貴の前では上手く作れない。
「俺の、弟を見て……どう思った?」
全く予想すらしていなかった質問に、千佳は思わず優貴と視線を合わせてしまった。
「ど、どう……って、特に、普通ですけど?」
質問の意図が読めず、千佳は吃りながら答えた。
(何と答えて欲しいの? わたしが康貴さんをどう思っているか、なんて……そんなことがどうして気になるの?)
不思議に思った千佳だったが、意味をなさないその答えで優貴は満足したようだった。少し俯いているが、口元が綻んでいるのがわかる。しかも、すぐに面を上げて、好意を示すような視線を千佳に向けてきた。
今度は、千佳が目を伏せる番だった。
(これはいったいどういうこと!? もしかして……優貴さんは、わたしのことが好き?)
恋愛経験ゼロの千佳でさえ、そう思わずにはいられなかった。そう考えれば、千佳を見つめてくるその意味や、今年の一月に突然キスを奪われたことにも納得がいく。
だが、千佳は優貴から好意を向けられたくはなかった。勇気を出して彼の前に座ってはいるものの、優貴から発せられるオーラが怖くて堪らない。
優貴には、御曹司に抱くようなほんわかと温かくなるものが何一つない。彼といるだけで神経がピリピリし、彼が動くたびにビクッと躯が震える。話しかけられても、何と答えたらいいのかわからず、適切な言葉が出てこない。
御曹司に対してはすんなりと言葉が出てくるというのに、どうして優貴に対してはこうも身構えてしまうのだろうか?
千佳は、恋というものをせず勉強ばかりしてきたので、憧れと恋の違いは何なのか、全く理解できなかった。
まさしく、清純な乙女そのものと言っていい。
もし、優貴に対してのみ起こるあの躯の反応の理由がわかっていれば、この後……あんな酷いことは起こらなかったかもしれない。
千佳は何を食べているのかわからないほど緊張したまま、料理を口に運んでいた。
優貴から話しかけられない限り、こちらからは何も話すことはなく、食事は淡々と進んでいった。会話がない状態が続けば続くほど、千佳の緊張はどんどん高まっていく。
食後のデザートが出された時、千佳の神経はピンと張り詰め、いつ切れてもおかしくない状態だった。
その時、優貴が口を開いた。
「千佳は、俺の兄が……まだ好きなのか?」
いきなりの質問に、千佳の心臓がドキンと高鳴った。視線を上げると、こちらを見つめる優貴の目にはいつも以上に力が漲っていた。しかも、少し緊張しているようにも見える。
優貴は、千佳の想い人が御曹司だと知っている。一度、会議室で御曹司に見とれていた時に、彼から叱責を受けたことがあったからだ。
嘘をついてもバレるだけだと思った千佳は、何を訊かれても正直でいようと口を開いた。
「……はい」
「俺よりも!?」
優貴よりも、御曹司の方が大好きに決まっている。頭ではわかっているのに、何故か千佳の口からは言葉が出なかった。
真実を素直に話せばいいのに、それが本当の気持ちなのかわからなくなっている。
(何しているの? 御曹司の方が好きだって、はっきり言えばいいのに……)
自分の眉間に皺が寄っているとは気付かず、千佳は恐る恐る優貴へと視線を向けたが、すぐに面を伏せた。
心臓が痛いぐらい激しく高鳴る。握り締めた掌には、少し汗が出て湿気を帯びていた。
優貴は返事を待っている。このまま口を閉ざしていても、千佳の緊張は解けることはない。
だが、何かが引っかかって思うように声が出ない。自分でも理解できない感情が、心に訴えてくる。
そのことに躊躇いを感じながらも、千佳はこの緊張から逃れるためだけにゆっくりと口を開いた。
「わたしは……御曹司のことが好きです」
その声は囁きに近かった。
「それは、変わらないものなのか? 俺が、千佳に付き合って欲しいと言っても?」
その言葉に、千佳は勢いよく面を上げた。
(優貴さんが、わたしと付き合いたい? まさか、そんな……!)
顔面蒼白になりながら、千佳は優貴へと視線を向けた。彼がからかっているのかとも思ったが、そんな風には見えない。
つまり、優貴は本気でそう言っている。
千佳にキスをしたあの日から、彼のアプローチは始まっていた。ここ数ヶ月続いた夕食の誘いは、千佳の中にある警戒心を解かし、彼のことを考えずにはいられないようにさせた。
千佳に、優貴という男を意識させるように仕向けた。
(ああ、わたしは彼の術中に見事嵌まってしまったんだわ……)
千佳は、優貴が嫌いだったのではない。秀でた容姿、威圧的な態度、有無を言わせない鋭い眼光、それら全てを合わせ持つ男性がとても苦手なのだ。優貴は、まさしくこの男性として当てはまった。
だから、優貴とは正反対の御曹司をすぐに好きになった。なのに、今は御曹司よりも優貴のことばかり考えてしまう。
優貴の前ではどうして身構えてしまうのか、何故彼には温かな気持ちが湧き起こらないのかはわからない。それでも、千佳の心を支配するのは、いつの間にか優貴へと変わっていた。
彼は、なんと恐ろしいのだろう。
千佳の顔から、さらに血の気が失せた。
(絶対知られてはいけない……。いつの間にか、御曹司よりも優貴さんのことが気になるようになってしまったことを)
「わたし……優貴さんと付き合うことは絶対にありません。優貴さんの弟の康貴さんと、付き合うことはあっても……」
もちろん、康貴のことは何とも思っていない。好意を抱いてもいなければ、他の女性社員のように近付きたいとも思わない。
にもかかわらず、何故康貴の名を出したのかというと、彼と会った時には、優貴に感じるピンッと張り詰めるような緊張を感じなかったからだ。
いつの日か、男性と付き合う日が訪れるのなら、そういう男性と付き合いたい。そういう理由で、千佳は康貴の名前を出した。
だが、千佳は知らなかった。二人を比べるようなことだけは、決してしてはいけないということを。
双子には、双子にしかわからない感情というものがある。特に、優貴は弟と比べられることを極端に嫌っていた。
そのことを知らない千佳は、知らず知らずに地雷を踏んでいた。
優貴の顔が怒りで赤黒くなり、千佳を凄い目で睨んでくる。そうとは知らない千佳は、必死に自分の心を隠すように俯いていた。
――ガシャン!
突然、食器がぶつかる音が聞こえた。
ビックリした千佳が面を上げると、目の前に座っていた優貴の姿はそこにはなかった。何故いないのかと思った時、いきなり凄い力で手首を掴まれた。
千佳は、あまりにも強い力に顔を顰めた。
だが、見上げた瞬間飛び込んできた優貴の怒りの形相に、手首の痛さはどこかへ吹き飛んだ。
「……優貴、さん!? あの」
「来るんだ!」
いったい何が起こったのか全くわからない。
優貴に引っ張られるまま薄暗いフロアを歩き、躓きながら階段を上る。彼が精算をしなかったことにも気付かないままに、千佳はビルから外へ連れ出された。
(ああ、怖い! どうして、優貴さんはいきなりこんな行動を? しかも彼はとても怒っている! どうして怒っているの? わたしは、ただお付き合いはできないと言っただけなのに……)
このまま新宿駅で別れることになると思っていたが、そうはならなかった。優貴は駅へは向かわず、北東へ急ぐように歩く。
歌舞伎町二丁目……
商業施設へ寄ることはあっても、千佳はその奥の路地へ足を踏み入れたことはなかった。
でも、今……優貴に腕を掴まれて二人でその場所を歩いている。奥手の千佳でも、周囲にあるラブホテルがどういうことをする場所か知っていた。
何かを言いたいが、何を言えばいいのかわからない。引っ張られるまま、男に黙って従っていてはいけない。頭ではわかっているが、いつの間にか恐怖よりも恥ずかしさが勝っていた。
優貴は、視界に入る全てのラブホテルの中から、まるで通い慣れているかのようにモダンな造りのホテルへ入った。
先に部屋を決めようとしていたカップルが目に飛び込んでくる。彼らが何をしようとしているのかわかった千佳は、思わずそのカップルから顔を隠すように俯いた。
そのため、慣れた手つきで優貴が部屋を選んだことにも全く気付かなかった。
再び強い力で引っ張られた千佳は、転びそうになった。そんな千佳に気付くことなく、優貴はエレベーターへ乗り込む。
狭い空間に、二人っきり……
千佳の心臓が激しく高鳴ると同時に、これからどうなってしまうのかという恐怖が湧き起こる。気持ちが落ち着かないままエレベーターが停まると、そのまま優貴に引っ張られて、黒を基調としたモダンな内装の一室へ連れ込まれた。
シャンデリアの光に照らされた大きなベッドは、そこだけが妙に浮かび上がって見えた。ベッドにはサテンらしき黒色のベッドカバーが掛けられ、とても怪しげな雰囲気を醸し出している。天井につけられた鏡に何の意味があるのかわからないが、とてもエロティックに感じられた。
(こういうホテルは、男性と女性が裸になって……欲望のまま淫らに振る舞う場所。そういう目的で、わたしを連れてきたのではないわよね? そうでしょ!?)
千佳の勘違いだと言って欲しかった。レストランを後にしてから一言も発しない彼の口から、安堵できるような言葉を聞きたかった。
だが、千佳の思いは届かなかった。
優貴は、千佳をベッドに放り投げるように手首を離した。突然の行動に、そのままベッドに倒れた千佳はいったい何が起こったのかわからなかった。
長い髪を振り乱して面を上げると、優貴はスーツを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながら千佳を見下ろしている。
「ゆ、優貴さん……」
優貴の目は据わっていた。こちらを凝視しながら、ワイシャツのボタンをどんどん外していく。
「やめて……お願い」
彼が何をしようとしているのか、それは想像でしかわからない。千佳にとって、今起こっていることは未知の世界のことだからだ。
「兄を好きだということは理解できる。だが、俺と康貴とではいったい何が違うというんだ?」
レストランを出て、初めて優貴が言葉を発した。
千佳は、優貴が何を言いたいのかわからなかった。
だが、今言葉を繋げなければ大変なことになると思い、この状況から脱するべく口を開いた。
「全然違うわ! 康貴さんなら、わたしをこんな風に扱ったりはしない」
そして、こんな恐怖を味わわせたり、彼のことばかり考えさせるような真似は決してしない。理解できないドキドキするような感覚を、送り込んだりはしない。
全てにおいて、優貴と康貴では千佳に与える影響が違う……ということを言ったつもりだった。
だが、説明が足りない千佳の言葉を優貴はそのまま受け止める。そのせいで、彼の怒りはさらに増幅された。
「今夜、康と会った時はほんの少しも興味を抱かなかった。それなのに康のこともわかるというのか!?」
「わかるわ!」
悲鳴に近い声で、千佳は言った。
(わかるわ……わかるわよ。康貴さんは、優貴さんと違ってとても紳士的だった。御曹司もそう。こうやってわたしの心を掻き乱し、恐れを抱かせ、信じられないような躯の反応を起こさせるのは、優貴さん唯一人だけだもの!)
「俺の……俺の何が駄目なんだ!」
駄目なことなど、何一つない。そう言いたかったが、いきなり優貴が千佳に覆い被さるように躯を押しつけてきた。そして、千佳の顎を掴むと荒々しいキスをする。
「……っん!」
突然のキスに最初こそ抵抗できなかったが、優貴の手が素肌の鎖骨に触れた時、千佳は手を振り回して抵抗した。
「イヤ、やめて!」
唇が離れると同時に、千佳は叫んだ。
こんなことは望んではいない。こういう行為はまだするべきではない。心が一つになった時、初めて躯も結ばれるべきだ。今は、まだその時期ではない。
それに、優貴は千佳を愛しているのではない。ただ抵抗し続ける彼女が物珍しいだけ。
そういう思いに辿り着いた瞬間、千佳の心の中で急速に悲しみが広がった。優貴から逃れようと振り回していた腕から、力がするっと抜け落ちる。
脱力した両方の手首を、優貴の大きな手が掴んだ。そのまま、千佳の頭の上で固定する。
優貴は、肩で息をしながら千佳を見下ろしている。既にボタンが外れたワイシャツの隙間から、優貴の引き締まった強靭な肉体が見えた。
男をアピールしてくるその躯から目を逸らすと、千佳は優貴の顔を探るように視線を向けた。
御曹司には劣るかもしれないが、優貴の顔は女性が振り返ってしまうほど素敵だ。それに、会社での地位と財産もある。身長も高く、余分な贅肉が見られないその肉体は、男性モデルのようだ。仕事熱心なために言動が冷たい印象を受けるかもしれないが、こんなにも素敵な優貴なら女性なんて選り取り見取りなはず。
(なのに、どうしてその辺の女性たちの中で埋もれているわたしを求めるの? 抵抗するわたしが珍しいの?)
「こんなことをして何になるの? 間違っているわ」
優貴の表情が悔やむかのように歪んだが、それはほんの一瞬だった。
「間違っているかどうかは、後でわかることだ……」
優貴は、既に決意していた。目に宿る強い意思が、それを千佳に伝えている。
「わたしは、優貴さんと……こうなることを望んではいないわ」
今はまだ、優貴に肌を見せてもいいという域に達してはいない。恐れを抱いてしまう相手に、どうしてそんなことができるのだろうか?
反面、もう優貴が千佳の元へ夕食の誘いに来なくなると思うと、胸に刺すような痛みが走る。
「では、誰となら望むと言うんだ?」
「優貴さん以外なら誰とでも!」
押し寄せる胸の痛みから逃れるには、そう言うしかなかった。
その言葉に反応した優貴は千佳の首筋の頚動脈を指で圧迫した。息が詰まるような痛みが、千佳を襲う。
「酷い……女だ。俺が、ここまで千佳のことを……想い続けてきたというのに、俺よりも兄や弟を取るというのか?」
優貴の表情が、苦しそうにどんどん歪んでいく。
過去の恋愛や千佳に目を奪われたこと、心さえも奪われてしまったことを優貴は思い出していた。だが、そのことが千佳にわかるはずもない。
「今度だけは……無理だ。俺は、諦められない!」
千佳の首から手を離すと、優貴はフリルのついた女性らしい千佳のブラウスを、ボタンが弾け飛ぶぐらい力任せに引っ張った。
「キャァ!」
白いキャミソールが露になると、優貴はそれも引き裂いた。
「やめて、やめて……優貴さん!」
躯を捻ったり足をバタつかせたりして、優貴が気を緩めた隙に逃げようとした。
だが、彼の大腿と腰でしっかり押さえつけられ、千佳は動きを封じられてしまった。
優貴の目に、シンプルなブラジャーが晒される。それは大人の女性が着けるような繊細なレース仕立てではなく、ティーン用の可愛らしいものだった。社会人らしからぬその下着に、優貴が目を見開く。
恥ずかしくて、千佳の目に涙が溜まった。
(こんな下着を見られたくはなかった。彼が好むような、大人の下着を身につけ、その下にある乳房はブラから零れるぐらいに大きくあって欲しかった)
そこで千佳は、ハッとした。
何故、優貴が好むような下着や乳房ではないことを気にするのか?
自分の心と向き合いたかったが、ブラジャーの上から優貴が小さな乳房を掴んだため、意識はすぐに自分の躯へと移った。
「まるで、少女のように小さい……」
優貴は、容赦なくブラジャーのカップをずらした。ラズベリーのように熟れた小さな乳首が露になると、優貴はそれを舌で転がし始める。
「い、や……、やめ……っぁん」
今まで感じたことのない快感が、躯を一瞬で駆け抜ける。
(これ……何? いったい何なの!? 勝手にわたしの口から変な声が出るなんて……)
ビックリした千佳だったが、この襲いかかる快感は嫌いではなかった。この甘い痺れは、クセになってしまいそうなほど心地好かった。このまま溺れても構わない……と思ってしまうほどに。
躯の芯が熱くなり、秘部までも蠢いてくる。優貴に初めてキスされた時と全く同じ症状だった。いや、それ以上のことが千佳の身に起こっている。
優貴の手が大腿を撫で上げたかと思うと、そのまま千佳の足を大きく開かせた。誰にも触れさせたことのない秘部を、パンティの上から触れられる。
「……ああっん!」
口から、甘い喘ぎが漏れた。その声で我に返った千佳は、今までギュッと閉じていた目をパッと見開いた。
だが、目を開けたことで、千佳の中に呼び起こされた官能の熱が急激に下がっていく。天井に付けられた鏡が、今何が起こっているのかを全て語っていたからだ。
乱暴に引き裂かれたブラウスにキャミソール、ブラジャーをずらされて見える乳房は重力に従ってぺっちゃんこになっていた。蛙のように大きく開いた足は無様で、何故こんな風に優貴にされるままになっているのかわからない。
収まっていた恐怖が、黒い影となって千佳の全てを包み込む。
「やめて! こんなのイヤよ!」
鏡越しに目に入る、優貴の鍛えられた背中から無理やり視線を逸らすと、次は彼の胸板が目に飛び込んできた。初めて見る大人の男性の乳首だった。それはとても小さくて色が濃く、硬く尖っているように見えた。
「言ったでしょ、貴方には抱かれたくない!」
(優貴さんに抱かれたいという気持ちに達していないのに、こんなことは無理よ。今は……絶対にできない)
両手首を捕えられている以上、感情を込めて優貴に訴えるしかなかった。千佳は必死になって懇願したつもりだったが、その行為はさらに優貴の怒りを買った。
「俺を否定するな、俺を心から締め出すな!」
彼が何かを訴えているのに、千佳は自分の気持ちに手一杯だった。優貴が千佳のパンティに指を引っかけて勢いよく脱がすと、自然と意識がそちらへ向く。
「優貴さん、お願い……やめて」
どんどん大きくなる恐怖を堪えながら哀願するが、それは優貴の心に届かなかった。
優貴は、何かに取り憑かれたように突き進む。
千佳の足をさらに大きく開かせると、まだ準備ができていない秘部にいきなり屹立した彼自身を挿入した。
「痛っ! やめて、痛い……い、イヤぁ……きゃあぁ!」
初めて感じる大きな異物。身が引き裂かれそうなほどの強い痛みが千佳を襲った。
「千佳? ……ま、まさか、処女だったのか!?」
優貴はやっと千佳の手首を解放すると、涙を流す千佳の頬に触れた。
処女だと知ったその一瞬だけ腰の動きは止まったが、今は微かに揺れて抽送を繰り返していた。
真実を知って躯を離してくれるかと思ったが、優貴は千佳をギュッと抱き締めると、徐々に抽送のスピードを上げていく。
「痛いっ、やめっ……あぁ」
千佳は涙を流しながら懇願したが、優貴はやめようとしなかった。次第に千佳の膣内で何かが変化していくが、引き攣るような痛みはさらに強くなっていく。
「千佳……、千佳……もうお前を手放せない!」
優貴の荒い息遣いが呻き声に変わった時、彼はやっと千佳から身を離した。
生暖かいものが千佳の大腿にかかる。それが肌を伝って、シーツへと流れ落ちるのがわかった。
それが何なのか確かめようともせず、千佳はただ涙を流していた。
優貴にレイプされたのだと、彼が千佳の躯を離して改めて理解できた。
初めてのセックスの思い出が、こんな夢も幸せも何もない、肉が引き裂かれるような痛い思いだけになろうとは想像もしなかった。
秘部は、熱をもって腫れ上がっているような感じがする。さらに奥深い場所は、火傷を負ったような痛みでジンジンしていた。
(これは……わたしの罪。優貴さんにラブホテルへ連れ込まれても何も言わず、まるでセックスを望んだように思わせてしまった。何も言えず、彼に従ってしまったから……こんなことが)
男と女には、深い付き合いもあるのだと知識では知っていたが、まさか優貴がそういうことを望んでいるとは思いもしなかった。
いや、本当は知っていた。女性として見られたくないと思っていたから、あえてその部分を排除しようと努めていた。そうしていたのに、いつの間にか優貴のことばかり考えるようになってしまい、心のガードを緩めてしまった。
「千佳……」
優貴の囁き声が聞こえる。千佳は思わず天井の鏡に映し出された自分の姿を見た。とても、男性から愛されたようには見えない。涙を流し続けるその瞳はとても悲しそうに曇っている。そんな千佳に恐る恐る手を伸ばし、寸前で引っ込めてしまう優貴の動作が目に入った。
今まで見えなかった彼の心を、一瞬だけだったが垣間見られたような気がした。その瞬間、レイプされたというのに、何故か急に優貴を愛おしく思い始めた。
千佳を手に入れるために犯した罪は到底正当化できるものではないが、それでも心が彼を許そうとしていた。
優貴と一緒にいれば、楽しさよりも先に恐怖が込み上げてくる。にもかかわらず、彼に見られるだけで胸がトクントクンと高鳴り、他のことは何も考えられなくなる。
この想いが、世間一般で言われている恋だとは思いたくなかった。恋とは心が温かくなり、幸せになれるもの。
優貴に抱く感情とは全く別物だとわかっても、千佳は優貴を嫌いにはなれないと気付いた。
(彼を怖がってはいても、わたしの心が優貴さんを求めている。御曹司には抱けなかった感情を、優貴さんだけには感じてしまったから。……優貴さんが見つめる女性は、わたしだけにして欲しいと、初めて心からそう願ってしまうほどに!)
温かいものが大腿に触れた。
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