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第一章 「目覚めたら七歳でした」
第21話 天使な姉弟のチームプレーが肝心
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「むー……」
分厚い手帳を目の前に開いて紙の上でぐったりと顔を付けて何時になく姿勢が悪いイクシャ。ぼんやりしていると昨日の事が鮮明と蘇ってくる。が、現実か夢か見分けがつかなくなったのかなと一時考えたり、ベルナールは元に戻っちゃったのかなと心配に不安になったり一喜一憂を繰り返す乙女の姿にアーノルドは苦い顔を露わにした。
「今度は何を悩んでんだよ」
「話しかけないで、今大事な事を考えてる」
これからベルナールに天使な娘として接して心を掴んで離さなくし改心させていくのか、あんまり気分屋なベルナールを刺激せずに取り敢えず関係回復されたこのままを継続する為に関わりをあまり持たないようにするのか。
どちらにせよ娘として家族として命が懸かるこれからの事をイクシャ的に有利にする為の大切な一件だ。
(殿下との婚約が上がってきたら大変……お父さまとこのままと言うより、もっと深めていって完全なる味方にした方が有利よね……)
「話し掛けるなって言っても、こんな事されてたら話し掛けるしかないだろ」
思考が遮られる。眉間に皺が寄り、何故かほんのりと頬が染まったアーノルドは堪えられないと言うように瞼を開いて黄色の瞳をイクシャに向ける。
「え?」
指差した方向は頭だ。目線をその視線に沿って動かせば自分の手に行きつく。手が触っているのはアーノルドの人房の髪。短い髪ながらも無理矢理に髪を集めて女の子みたいに髪を結おうと無意識のうちにしていたらしい。
「ご、ごめん……」
「はー……痛かった。女ってこんな痛みを味わいながら毎朝毎朝お前みたいな凝った髪型にするのか?」
今日のイクシャの髪は二つのお団子。結び目を少し襟の大きくチェック模様のワンピースに合わせてチェックと無地の左右模様が違う可愛いリボンで飾られている。
「うーん……痛くないよ?」
「じゃあ、お前の手の力が強いんだな」
悪い笑みを浮かべてそう言い切るアーノルドに睨みを利かせるとそそくさと転移魔法でいなくなる。逃げ足の速い奴、と忌々しく思いながら扉の方へと向かった。
▽ ▲ ▽
「ぁ、ギルメン……お父さまは?」
「旦那さまですか? 書斎部屋でお仕事を、そうでした……お約束の時間でしたね」
ベルナールの腹心、ギルメンは微笑んだ。今日もベルナールに呼ばれたのだが、書斎部屋で仕事をしている中に招かれる事は初めてな事で少し緊張しているイクシャはぎこちなく笑みを浮かべた。
初めての事続き、それも奇跡ばかり。これからの日々に悪い事でも起きる前兆なのか、と恐ろしく思うのも多々。
戸惑い気味に取っ手を押せば、広がるのは本の森と言っても過言ではない本が沢山積まれていた。珈琲の香りが微かに鼻孔を擽りながら本の山を崩さないように慎重に歩みを進めて正面の大きな机ではなく、 本棚に面した机と椅子、で見つけたのはベルナールだった。
イクシャとベルナールが初めてこの部屋で話をし、婚約者の件で言い争った場所で書類を持ったまま瞳を閉じていた。多分、うたた寝してる。
「……」
寝て居る所を初めて見たイクシャは興味津々にその姿を観察し、ゆっくりと近付けば、途中から少し走って。首に腕を巻き付けて肩に顔を置いた、所謂、バックハグである。
さっき考えた二つの事でイクシャが決めたのは前者。これからベルナールに天使な娘として接して心を掴んで離さなくし改心させていくと言う攻略ルートだ。
「パパ! これは、誰でしょう!?」
──「……クーに決まっているだろう。俺の事を“パパ”と呼ぶ者はお前しかいない」
振り返ったベルナールは少し動揺の走った顔になって、すぐに微かに微笑む。答えはお前が言っていると表情から読み取れる言葉に対し、イクシャは「あ、そうだね……っ」と言って照れ笑いをした。
愛嬌狙いで言った事ではないけれど、まあいっかと冷や汗を内心掻きながら思うイクシャ。
「お仕事終わった?」
「……まあ、今日やるものは終わらせた」
(起きてからたった数時間で、この量を……流石、仕事の虫)
正面の大きな机に積み重ねられた書類の高い山が視界の端に入り圧倒されて薄笑いを浮かべながら褒める言葉を言って。
ベルナールの碧い瞳はイクシャの輝く表情と弾む声に訝し気に細められるが、臆する心配や不安なんて要らないそう反芻しながら可愛らしく後ろからベルナールの顔を覗き込む。
「ねえ、お外に行かない? シアンとお母さまも誘って、お茶会しながら綺麗なお花が咲いてるから摘みたいの!」
「……シアンと、ネニュファールもか……?」
ネニュファールの名が出ると顔色も曇る。やっぱり二人の溝は深くなっているのかそう判断したイクシャはうるうると瞳を潤わせて上目遣いに“お願い”をしてみればベルナールは狼狽し渋々に頷いてくれた。
角ばり大きく温かい手を掴んで、ネニュファールの所に向かい出す。この事を話に出すと決めていたイクシャはもうシアンを誘い済みであり外に行く準備も万端である。外に行く身支度を済ませたシアンはネニュファールの部屋に居て先に説得を開始している筈だ。この事は姉弟のチームプレーが大切になる事であった。
分厚い手帳を目の前に開いて紙の上でぐったりと顔を付けて何時になく姿勢が悪いイクシャ。ぼんやりしていると昨日の事が鮮明と蘇ってくる。が、現実か夢か見分けがつかなくなったのかなと一時考えたり、ベルナールは元に戻っちゃったのかなと心配に不安になったり一喜一憂を繰り返す乙女の姿にアーノルドは苦い顔を露わにした。
「今度は何を悩んでんだよ」
「話しかけないで、今大事な事を考えてる」
これからベルナールに天使な娘として接して心を掴んで離さなくし改心させていくのか、あんまり気分屋なベルナールを刺激せずに取り敢えず関係回復されたこのままを継続する為に関わりをあまり持たないようにするのか。
どちらにせよ娘として家族として命が懸かるこれからの事をイクシャ的に有利にする為の大切な一件だ。
(殿下との婚約が上がってきたら大変……お父さまとこのままと言うより、もっと深めていって完全なる味方にした方が有利よね……)
「話し掛けるなって言っても、こんな事されてたら話し掛けるしかないだろ」
思考が遮られる。眉間に皺が寄り、何故かほんのりと頬が染まったアーノルドは堪えられないと言うように瞼を開いて黄色の瞳をイクシャに向ける。
「え?」
指差した方向は頭だ。目線をその視線に沿って動かせば自分の手に行きつく。手が触っているのはアーノルドの人房の髪。短い髪ながらも無理矢理に髪を集めて女の子みたいに髪を結おうと無意識のうちにしていたらしい。
「ご、ごめん……」
「はー……痛かった。女ってこんな痛みを味わいながら毎朝毎朝お前みたいな凝った髪型にするのか?」
今日のイクシャの髪は二つのお団子。結び目を少し襟の大きくチェック模様のワンピースに合わせてチェックと無地の左右模様が違う可愛いリボンで飾られている。
「うーん……痛くないよ?」
「じゃあ、お前の手の力が強いんだな」
悪い笑みを浮かべてそう言い切るアーノルドに睨みを利かせるとそそくさと転移魔法でいなくなる。逃げ足の速い奴、と忌々しく思いながら扉の方へと向かった。
▽ ▲ ▽
「ぁ、ギルメン……お父さまは?」
「旦那さまですか? 書斎部屋でお仕事を、そうでした……お約束の時間でしたね」
ベルナールの腹心、ギルメンは微笑んだ。今日もベルナールに呼ばれたのだが、書斎部屋で仕事をしている中に招かれる事は初めてな事で少し緊張しているイクシャはぎこちなく笑みを浮かべた。
初めての事続き、それも奇跡ばかり。これからの日々に悪い事でも起きる前兆なのか、と恐ろしく思うのも多々。
戸惑い気味に取っ手を押せば、広がるのは本の森と言っても過言ではない本が沢山積まれていた。珈琲の香りが微かに鼻孔を擽りながら本の山を崩さないように慎重に歩みを進めて正面の大きな机ではなく、 本棚に面した机と椅子、で見つけたのはベルナールだった。
イクシャとベルナールが初めてこの部屋で話をし、婚約者の件で言い争った場所で書類を持ったまま瞳を閉じていた。多分、うたた寝してる。
「……」
寝て居る所を初めて見たイクシャは興味津々にその姿を観察し、ゆっくりと近付けば、途中から少し走って。首に腕を巻き付けて肩に顔を置いた、所謂、バックハグである。
さっき考えた二つの事でイクシャが決めたのは前者。これからベルナールに天使な娘として接して心を掴んで離さなくし改心させていくと言う攻略ルートだ。
「パパ! これは、誰でしょう!?」
──「……クーに決まっているだろう。俺の事を“パパ”と呼ぶ者はお前しかいない」
振り返ったベルナールは少し動揺の走った顔になって、すぐに微かに微笑む。答えはお前が言っていると表情から読み取れる言葉に対し、イクシャは「あ、そうだね……っ」と言って照れ笑いをした。
愛嬌狙いで言った事ではないけれど、まあいっかと冷や汗を内心掻きながら思うイクシャ。
「お仕事終わった?」
「……まあ、今日やるものは終わらせた」
(起きてからたった数時間で、この量を……流石、仕事の虫)
正面の大きな机に積み重ねられた書類の高い山が視界の端に入り圧倒されて薄笑いを浮かべながら褒める言葉を言って。
ベルナールの碧い瞳はイクシャの輝く表情と弾む声に訝し気に細められるが、臆する心配や不安なんて要らないそう反芻しながら可愛らしく後ろからベルナールの顔を覗き込む。
「ねえ、お外に行かない? シアンとお母さまも誘って、お茶会しながら綺麗なお花が咲いてるから摘みたいの!」
「……シアンと、ネニュファールもか……?」
ネニュファールの名が出ると顔色も曇る。やっぱり二人の溝は深くなっているのかそう判断したイクシャはうるうると瞳を潤わせて上目遣いに“お願い”をしてみればベルナールは狼狽し渋々に頷いてくれた。
角ばり大きく温かい手を掴んで、ネニュファールの所に向かい出す。この事を話に出すと決めていたイクシャはもうシアンを誘い済みであり外に行く準備も万端である。外に行く身支度を済ませたシアンはネニュファールの部屋に居て先に説得を開始している筈だ。この事は姉弟のチームプレーが大切になる事であった。
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