ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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31~40話

『ちっちゃい』ということ【中】

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「ヒナ、体調は変わりないか?」

「ちょっと頭痛がするくらいで、他はなんともありませんよ」

「そうか」

 私を抱きしめた手の親指の腹で、すりすりと頭を撫でられる。
 これといった大きな症状がないせいか、今一つ命の危機に瀕しているという実感が湧いてこない。

「何か異変を感じたら、些細なことでもすぐに教えてくれ」

「はい」

 側頭部を撫でていたはずの親指は、いつの間にかむにむにと頬をもてあそびだした。



「それにしても、どうして私はちっちゃくなったんでしょう? 運命の相手を導くにしたって、同じ大きさじゃないと困るはずなのに」

「ふむ……。考えられるとすれば、界を繋ぐ際に歪みが生じ、繋がれた『穴』のだけが狭くなっていたんじゃないだろうか」

 クロが、右手の親指と人差し指で小さな輪を作ってみせる。

「たとえばこちらに通ずる出口がこのくらいの大きさだったとして……小さなペンダントトップは、問題なくここを通過する。しかし入口から入ったヒナの身体はそのままでは出口を通過できず、出口の大きさに合わせて実体を縮められた」

「出口に合わせて……」

「だとすれば、小さなペンダントトップと実体を持たない魂だけが元の形を保っていたことにも説明がつく」

 部屋着まで一緒に縮んだのは、私という『芯』が入っていたせいで出口を通れなかったからか。
 お城の結界で小さな状態が解除されないのは、私を小さくした力が『魔法』ではない何かだから。
 そう考えると、いろいろな点がに落ちる。

 もしも穴が正常に繋がれて、はじめから普通の大きさだったなら……今頃なんの悩みもなく、クロと過ごせていたのだろうか。
 命の危機もなく、愛情を疑うこともなく。

 少し考えて首を振る。

 普通の人間としてクロに出逢っていたなら、「可愛い」と言ってもらえることさえなかっただろう。側に置いてもらえることも、こうして一緒の時間を過ごすことも、惹かれあうこともなかった。

 ――それならば、この姿でよかった。
 クロに可愛いと、好きだと思ってもらえる姿でいられて。

「『魂と器』の話は不安ですけど……私、ここに来たのがちっちゃな姿でよかったです」

「俺は大きく戻ったヒナを見るのも楽しみだ」

 クロの言葉に、私は曖昧な笑みを浮かべた。
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