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1~10話

黒き王冠の秘密【上】

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 連れてこられたのは小会議室。
 たしかにここなら周囲を気にすることなく話ができる。

 丸テーブルを挟んだ向かい側に座ろうとしたものの、手がくっついたままでは腕の長さが足りず仕方なくディノの隣に腰を下ろした。

「……で、その接着剤はなんなんだ?」

「これはお肌への負担を限りなく抑えた超強力接着剤、『お肌も秘密も守り抜く! 最強の守護者、スーパートレナインX』よ」

「…………」

「だから手荒れの心配はないわ。安心してちょうだい」

「そこは心配してねぇ」

 緊急事態は脱したはずなのに、ディノはまだカリカリしているようだ。
 まあ、気持ちはわかる。私だってどうせくっつくのなら、ディノよりも副長のシフォルのような物静かで優しい男性がよかった。

「それを陛下に届けるっつったな。なんのために?」

「チッチッチッ、こちらも守秘義務があるわ」

 立てた人差し指を口の前で振り、意味深な笑みを浮かべる。
 個人的な依頼内容をひょいひょいと吹聴したのでは、としての信用に関わる。

 依頼主はバレてしまったし、成り行き上コレがなんなのかも話さざるを得なかったけれど、詳しい依頼内容は話していないのでセーフ。……だと思いたい。

「……黒い王冠」

 低い呟きに、ビクリと肩が揺れる。
 その反応が目撃されていないことを祈りながら、ごくごく自然な感じでスイーッと目を逸らした。

「陛下の黒い王冠については知っているな?」

「さ、さあっ!? いいいい一体なんのことだか……っ!?」

「あの嘘くっさいほど黒々フサフサした陛下のヅ――」

「不敬よっ!!!」

 慌てて両手でディノの口を塞ぐ。
 私の右手と、左手にくっついた自身の手の甲を口元に押し付けられたディノは、鬱陶しそうにブンと首を振って逃れた。

「ったく。要はヅ――黒い王冠をするために強力な接着剤を作らされた、ってとこだろ?」

「…………まあ、バレてしまったものは仕方がないわね」

 自分から言ったわけではないので、もうセーフだと信じることにする。
 どうせ黒い王冠の存在自体はバレているのだ。それが浮いていようがくっついていようが、さしたる違いはない。
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