探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅨ:人質事件

#1

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 15分程前。外で警察やら報道関係者やらが、集まり出した頃。
 店内にいる客と店員たちは、弁当などが陳列されてある、入り口から最も遠い壁際に、両手両足を縛られ、一列に並べられた。
 「ったく…何で、こんな目に…。」
 「これから、彼氏と会う約束していたのに…。」
 等々、客たちは、口々に文句を垂れ流していた。
 当の犯人の男は、こちらに銃口を突き付けながら、外の様子をうかがっている。
 その隙に、商品棚の上に、カメラ付きのネクタイピンを置き、店の様子を天木や日下部たちに伝えた。
 普段なら、エンパスで、男の感情や思想などを、共有して、被害を最小限に留められる様に、言葉を選び、話を進めていく。
 だが、今回の場合、そう簡単にはいかない。
 周りの被害者や、建物の外にいる警察や野次馬等の所為で、男の感情が、周りにかき消され、上手く伝わってこない…。
 他人の気持ちが伝わり過ぎるのも、苦だが、伝わらないのも、また苦だ…。
 「おい!こんなことして、一体何になるんだ!目的は何だ!」
 店長らしき人物が、果敢にも、男に対して、そう叫んだ。
 その声に賛同し、他の客たちも、「そうだそうだ」と、声を上げた。
 「うるせぇ!」
 男も叫び、背中に背負っていた、ライフル銃をこちらに向け、更に脅しをかけてきた。
 それに、怯えた客たちは、悲鳴を上げ、また静かになった。
 「安心しろ、変な動きさえしなければ、撃ちはしねぇ…。とにかく、黙ってろ!」
 男が、唸るように言うと、ライフル銃を背中に戻し、また拳銃に持ち直した。
 銃火器には、日下部程詳しくは無いが、拳銃は、かの有名な『ガバメント』と言われる奴だろう…。
 種類が分かれば、どこで入手した物なのか、少し調べれば、分かる…。
 それを伝えるため、カメラを至る所に置いたが、見えているだろうか…。
 それと、男の素性と、目的を聞きださないと、警察や日下部たちの捜査が、進まない…。
 仕方ない…。
 「おい、あんた。」
 「なんだ!」
 今回は叫んだだけで、ライフルには手を掛けなかった。
 「意味だけでも、話した方が良いんじゃないか?意味も分からず、理不尽に時間と体力を削られるのは、流石に勘弁してほしいんだが…。」
 「…。」
 男は、こちらを睨み返しながら、強張った顔をしていた。
 それと同時に、周りの客たちの感情も一つに留まり、何とか男の心理に集中できる…。
 だが、周りからの、殺意や、恐怖が多く、深層までは、覗けない…。
 芥子の様な、力があれば、容易なのだろう…。
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