(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏

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 私が両親からもらったお誕生日のプレゼントは、とても精巧な作りのエメラルドのネックレスとイヤリングだった。にこにこと微笑むココに、私は仕方なく渡すことにした。

「まぁ、素敵だわ」

 彼女はそれをよく眺めて、満足そうに頷いた。そして、そのネックレスとイヤリングを私にしぶしぶ返すと、ココはバークレー男爵夫妻叔母様達から誕生日プレゼントに貰ったという、ペリドットのブレスレットを私に見せびらかした。

「ねぇ、ソフィ。これは私の宝物よ。お父様とお母様からのプレゼントなのよ。綺麗でしょう?」
「まぁ、本当に綺麗ね」

 私のお母様は微笑みながらそうおっしゃったし、私もよく見たくて少し身を乗り出す。ココはブレスレットを揺らせてシャランと小さく音をたてた。私のエメラルドは色が濃く鮮やかだけれど、ココのペリドットは黄緑で、どこかくすんだ色合いだった。

「ねぇ、ソフィ。あなたのネックレスとイヤリングはとても素敵ね。だから、これと交換しない?」
 ココは上目遣いでそう持ちかけた。

「それは、あなたのものでしょう? バークレー男爵夫妻叔母様達だって、あなたの為にプレゼントしたのに悲しむわよ」
 明らかに私のネックレスとイヤリングは、そのブレスレットよりも高価なものだった。ずっと私は彼女にプレゼントを交換させられてきた。もういい加減やめてほしい。

「大丈夫! お父様にお願いするから!」

 バークレー男爵が許可を出すと、ココは私のネックレスとイヤリングを奪い、自分のブレスレットを私の手首につけた。
 ココの華奢な首と耳に、私のネックレスとイヤリングがつけられて、もう二度と彼女がそれを返すつもりがないことがわかった。

「ほら、私の方がエメラルドが似合うわよ! 金髪にエメラルドって映えるもの」

 もう、うんざりだった。いつもいつも、なぜ私のものを奪っていくの?

「返してよ。それは私が両親からもらったプレゼントよ。ココにはココのものがあるでしょう?」
「だってソフィよりも私の方が似合うもの。これはもう私のものよ。いいじゃない。エメラルドとペリドットなんて、似たような宝石だもの。価値は同じよ」

 ココはそう言うと、にやりと微笑んだ。私は悔しくて涙が止まらなかった。両親も兄も私が泣くと怒るから、泣かないと決めたはずなのに止まらない。

「こんなネックレスとイヤリングぐらいでみっともないぞ! 泣くほどのことではないだろう」
 
 お兄様は私を叱りつけた。

「そうよ。ブレスレットときちんと交換したのでしょう? このブレスレットはとても可愛いじゃないの?」

 お母様はエメラルドの価値がわからないの? エメラルドはペリドットのおよそ10倍も価値があるのに。
 なぜ誰もココを注意しないの? ここは無法地帯だ。ココはなにをしても許される。

「エメラルドとペリドットの価値の違いくらい、私だって知っています。家庭教師の先生に教わったことがありますもの」
 私は必死に説明を試みた。エメラルドはその歴史的価値から需要が非常に高いし、大きくてハイクオリティの物は見つかり難いという点を指摘した。その結果ペリドットが10万ダラなら、エメラルドは100万ダラという金額の違いが生まれる。

「女の子のくせに頭でっかちなのね? 宝石の価値がどうのだなんて、お金のことしか考えていない守銭奴みたいじゃないの?ソフィは心が貧しいのよ」
 バークレー男爵夫人叔母様が私をにらみ付けた。

「そうね。宝石の価値に拘るのは間違っていますよ。だって心がこもっていれば、宝石の値段なんてどうでも良いことでしょう?」

 私はお母様のおっしゃっている意味がわからない。自分のプレゼントを取り返すのが、それほどいけないことなの?

「価値の違いを言っただけです」
「私がソフィに、思いやりを教えてあげるわ。人からもらった物を貶すのは良くありません。私がそのブレスレットをあげたのでしょう? 従姉妹の好意は素直に受け取るべきよ」

 ココとお兄様は私をバカにして、楽しむようにクスクス笑った。バークレー男爵夫人叔母様は眉をひそめて私を見た。まるで、私の品定めをするかのような目つきだ。バークレー男爵夫人叔母様の視線に捕らえられると、私は息ができなくなるような気持ちになる。

「女の子がいつまでも、宝石の値段をうじうじ言うなんて卑しいことだわ。ヴイッキーお姉様はソフィを甘やかしすぎですわ」

「そうだな。ソフィはもう少し大人になって、女の子らしくしたら良い」

 バークレー男爵までが、私に品定めをするような目で見た。

「あぁ、もうこのへんで、この話題はやめましょう。ソフィはしばらくお部屋に戻りなさい」

「でも、お母様は今日、お誕生日のお祝いをするとおっしゃったわ。だったら私が主役のはずです」

「ソフィ! もうそんなくだらないことをいつまでも言うな! お前と違って、ココはお客様なのだよ。お客様の相手をすることの方が大切だ!」

 私はお父様に怒鳴られた。私の気持ちなど誰も聞いてくれない。いつもそうだった……。

 私は自室に無理矢理連れていかれ、外からカギをかけられた。

「我が儘ばかりでたくさんよ。今日はずっとそこにいなさい。食事はメイドに運ばせます」

 私は絶望感で一杯になった。私の誕生日会の代わりに開かれたのは、ココの回復祝いだったようだ。

「ココお嬢様、高熱だったのですってね。回復おめでとうございます!」

 ラバジェ伯爵家の侍女達が、ココに向けて言う声が、サロンから漏れ聞こえてきたわ。バークレー男爵夫妻叔母様達やお兄様の笑い声も、響いてきてとても楽しそうだ。あの空間に私の居場所はない。私はいつも独りぼっちだ……。

 家に自分の居場所がないことが、どれほど辛いかわかる? 私がいなくなっても、きっと誰も困らないのよ。
 もう、こんな家は嫌だ! このままココに私のものを奪われて、誕生日プレゼントもなく過ごすのは、うんざりなのよ。

「お嬢様、お食事をお持ちしましたよ。果物はご自分でむいてくださいね。こちらに果物ナイフをご用意しました」

 メイドまで私をぞんざいに扱うのが、余計に惨めな気持ちにさせた。私なんて、いてもいなくても誰も気にしていないし、大切にも思われない。生きている価値さえない気がした。

 もう、なにもかもどうでもいい・・・・・・。疲れた。

 私はそのナイフをとっさに握りしめると、迷うことなく手首を切ろうとした。手首は体の抹消部に位置し、手の指や手のひらに血液を供給するために、多くの血管が通っている。ここを切ればきっと楽になれるはず。

 だから私は・・・・・・ナイフを握って手首に当て・・・・・・

「お嬢様、なにをなさっているんですか? だめです!」

 メイドが咄嗟に私からナイフを取り上げて、その際にほんの少し指を切った。彼女はとても大きな声で私をなじり、両親のいるサロンに向かって声を張り上げた。

「お嬢様が手首を切ろうとしました。止めようとしたらナイフを振り回して、私は指を切りましたわ。こんな乱暴なお嬢様だとは思いませんでした」
 
 ここまできても私を貶めようとするメイドに、正気に戻った私は笑うしかなかった。そうして両親は私を心配するどころか、こっぴどくお説教をした。

「そんなことをしたらラバジェ伯爵家の恥になるだろうが! なぜ、ろくでもないことしか考えられないのだ?」
 お父様から頬を叩かれ、お母様からも責められた。

「そのようなことをするなんて世間体が悪いです。私が社交界でどのように言われるか、考えなかったの?」

 私が死のうとしたことを心配する声は全くない。そうされたらラバジェ伯爵家の評判に傷がつくことしか考えていない。結局、自室に軟禁されて常にメイドから監視されることになった。外出も思うようにできない。

 

 それから三日後に、クランシー様がラバジェ伯爵家を訪れた。隣にはココを伴い、二人とも満面の笑顔だった。

「婚約破棄をしたいと思っている。刃物を振り回すなんて信じられないよ。しかも宝石を交換したことが気に入らなかっただけだと聞いた」

 ココから聞いたと言いながら婚約破棄をしたい、と言い出すクランシー様は晴れやかな笑顔だった。やはり、この方も私を心配する気持ちはないのね。

 お母様達はクランシー様の申し入れに青ざめていた。

「戒律の厳しい修道院に入れます。そこで物の道理を習ってくれば性格も変わりますので、どうか融通していただいているお金の返済はもう少し待ってください」

 私を牢屋のような修道院にいれて矯正するから、婚約破棄だけは考え直してくれとも言い、すがっている様子が浅ましく思えた。

 ラバジェ伯爵家がブリス侯爵家から、金銭的な援助を受けているなんて知らなかった。

「そうだね。なんでも私の言うことを聞くように、躾けてもらえる修道院が良いと思う」

 クランシー様は嬉しそうにそうおっしゃった。このまま人形のように、この人たちに全て決められてしまうなんてあり得ない。

 どうしたら良い? 私はここからどこか遠くに行きたいのよ。
 
 遠い記憶を遡り、私にもう一人身内がいることを思い出した。幼い頃に一度しか会ったことのない伯母様だ。お母様達に隠れてお手紙を書こう。

 私は震える手で、伯母様に向けて手紙をしたためたのだった。ちなみに伯母様の住所を知っているのは、お誕生日に数回プレゼントを頂いたことがあって、そのときに記されていた住所を、丁寧に書き写したものを保管していたからだった。

 ボナデア・ビニ伯母様は隣国のとても身分の高い方に嫁いだはずよ。お手紙を何回か出したけれどお返事をいただけなかった。でも、今回はお返事をいただきたい。どうしたらお返事がもらえるか、私は必死に考えるのだった。

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