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※エレガントローズ学院は9月入学で6月が卒業式です。ソフィは9月末あたりに編入してきたという設定になります。

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「どんな小さなことでも、困ったことがあったら連絡してきなさい。週末ごとに、ビニ公爵家に帰ってくるでしょうから、今日はこれで帰りますよ」
「え? ボナデア伯母様の屋敷に伺っても良いのですか?」
「当たり前でしょう? まさか、ソフィは週末のお休みに、帰ってくるつもりがなかったのですか?」

 確かにエレガントローズ学院では、5日ごとに2日の休みが設けられていた。けれど、エレガントローズ学院の近くに住む生徒しか帰らないと思うし、私には帰る家はないと思っていた。

「あなたが帰る場所はビニ公爵家ですよ。けれど、友人ができてこの寄宿舎で過ごしたい週末もあるでしょう。そのような時は無理に帰ってこなくても良いです。ただ、冬至祭り(12月21日)と春祭り(3月21日)に、夏至祭り(6月21日)と収穫祭(9月21日)。大祭と王国創立記念祭には必ずビニ公爵家に帰ってくること。わかったわね?」

 まるで自分の娘を諭すような口調で、当たり前のようにそうおっしゃった。信じられない思いだった。だって、私は姪にすぎない。しかも幼い頃に一度会っただけの、ほとんど他人に近い関係性なのに・・・・・・

 私に帰る家ができたの?

「でしたら、お邪魔させていただきます。もし、迷惑だったら、私はこの寄宿舎でずっと過ごしても構わないです。元からそのつもりでしたから」

「ビニ公爵家はエレガントローズ学院から馬車で半時(30分)もかからないほど近いのですよ。王都の隣がビニ公爵領ですからね。迷惑だなんて誰が言いました? 帰ってきなさい、と言った私の言葉を、そのまま受け止めれば良いのです」

 ボナデア伯母様は優しく微笑んでくださった。私は安心したように体の力が抜けた。

 甘えて良いんだ。私は思わず、ボナデア伯母様にしっかりと抱きついていた。

「こんなことで泣くなんて、可哀想に。お休みの日に家族で楽しく過ごすことは当たり前のことですよ。ヴィッキーはどんな育て方をしたのかしら?」
 ボナデア伯母様は悲しそうな顔をした。

 その当たり前のことがいろいろなかった私には、夢のような話に聞こえた。家族で楽しく過ごす? 想像をしてみたけれど、ココの勝ち誇ったような顔が思い浮かぶばかりだ。

 楽しくおしゃべりをして心地よいひとときを過ごした後に、ボナデア伯母様は名残惜しそうにこの場を後にした。想像していたよりも、ずっと心が温かい方だった。なぜ、幼い頃何度か出したお手紙に、お返事をくださらなかったのかわからない。後で、機会があったら聞いてみよう。


☆彡 ★彡


 伯母様の馬車を見送って寄宿舎に戻る途中、エレガントローズ学院のメイドが話しかけてきた。

「ソフィ様、お食事はどうされますか? 通常は大食堂で皆様、召し上がりますが」
「もちろん、皆様と一緒にいただきますわ」

 そう答えると特別室に戻り、ボナビア伯母様が用意してくださったワンピースに着替えた。学院長のさきほどの話では、食事はどのような格好でも良いと聞いていた。なので、なるべくゆったりと寛げるものにした。

 それは、ミントグリーンの柔らかなチュール素材を使用したもので、たっぷりと広がるフレアスカートには自然なドレープがあり、着心地も柔らかかった。胸元とウエスト部分には繊細な花や葉をモチーフにしたレースが施されていて、エレガントな雰囲気だったから、夕食の際に着ていくのも良いと思った。

 着脱が容易な仕立てになっているのも嬉しい。自分ひとりで着ることができるから便利だ。学院ではメイドひとりが3人の生徒を担当するらしい。私はなるべくひとりで、できることはしようと思っていた。



「あら、いやだ。ちゃんとしたドレスも着ないで夕食に現れるなんて。どこの貧乏貴族のご令嬢かしら?」

 食堂の手前で声をかけられた。私を馬鹿にしたような口調で、明らかに悪意のこもった言葉だった。私は立ち止まり、視線だけを動かした。そこには赤茶の髪をひとつに結い上げた同年代の女の子がいた。

「学院の大食堂でドレスコードがある等とは、学院長から説明されておりませんわ」

 私はなるべく感情をこめないように淡々と答えた。

「まぁ、なんて生意気なの! あなたがどこの誰だか、私は存じ上げませんけれど、あなたは私が誰だか知っておく必要がありますわよ? どういうことかおわかり?」

 彼女はわざとらしく扇子を広げて口元を隠した。どうやら、彼女はこの学院の女ボスのようだ。彼女以外も私を馬鹿にするように見下している取り巻き達がいたのだった。
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