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 彼女はわざとらしく扇子を広げて口元を隠した。どうやら、彼女はこの学院の女ボスのようだ。彼女以外も私を馬鹿にするように見下している取り巻き達がいたのだった。

「私は、ソフィ・ラバジェです。今日からこの学院の生徒になりました。どうぞよろしくお願いします」
 私は丁寧に挨拶をした。この方たちが私を好ましく思っていないことがわかっても、決して態度に出すことはできない。そんなことをすれば、ビニ公爵家に迷惑をかけてしまうことになるかもしれない。

「ラバジェ? 聞いたことないですわね。メドフォード王国の貴族ではないでしょう? まさか、平民? でも、そのワンピースはよく見たらとても高価な生地だし、デザインもとても凝っていますわね?」
 彼女は私の着ているワンピースが、とても高級なものだと気がついたみたいだ。

「ラバジェ伯爵家の娘です。シップトン王国の貴族ですわ」

「だったら、メドフォード王国の方がずっと上だわ。メドフォード王国は豊かな天然資源と効率的な農業技術によって繁栄してきたわ。それに、アルフォンソ国王陛下は偉大で、王城は強固な城壁で守られ、訓練された騎士団を持ち、軍事力も優れているのよ。王弟のエルバート公爵閣下は教育にも力をいれていて、知識と技術の向上に取り組んでいらっしゃるわ。すぐれた技術者や職人がこの国にはあふれています。つまり、メドフォード王国のフレンチ伯爵家の娘であるこの私マリエッタは、あなたよりも身分も地位も上です。おわかり?」

 彼女の言っていることは事実だった。エレガントローズ学院には各国から貴族の令嬢が集まっているけれど、国力の違いから身分の重みは爵位だけでは判断できない。

「ご教示くださり感謝いたします」

 私はお礼の言葉を口にした。心の中はとても嬉しい気持ちでいっぱいだ。だって、ボナデア伯母様の旦那様がとても褒められていたから。私は既に長い時間一緒にいたお母様より、ボナデア伯母様の方が好きになっていた。だから、思わず笑みが漏れた。

「なぜ、微笑んでいますの? 自分が馬鹿にされたのよ? ここは怒る場面でしてよ?」
 マリエッタ様は私に掴みかかってきたけれど、さきほどのメイドが慌てて間に入ってくれた。

「おやめください、マリエッタ様。ソフィ様に乱暴はおやめください」
「ふん、平民のくせに私に楯突く気?」
「いいえ。私はこの寄宿舎で皆様のお世話をさせていただく者でございます。メイドとして当然のことをしているまでです」

 やがて人だかりができ、ウィレミナ学院長がいらっしゃった。

「これは、一体なんの騒ぎです? ソフィ様、大丈夫ですか?」
「今、シップトン王国の伯爵令嬢の服装を注意してさしあげただけですわ。やはり、シップトン王国は程度が低いのでしょうか?」
 
「マリエッタ様。お黙りなさい! ソフィ様はボナデア・ビニ公爵夫人の姪御様ですよ。ビニ公爵夫人はこの学院を首席で卒業し、我が国のミラ王女殿下の家庭教師をなさっていました。王妃殿下からの信頼を厚く受け、親しい友人として扱われている素晴らしい方の姪御様でいらっしゃいます」

「え? あの、ビニ公爵夫人の姪御様ですか?」
マリエッタ様は、明らかにうろたえていた。

「そうですわ。これ以上ソフィ様に失礼なことをおっしゃると、あなただけではなく、あなたもあなたの取り巻きもただではすみませんよ。ご両親にこのことをきちんと伝えますからね」

 泣きそうになっているマリエッタ様は、きっとご両親が厳格な方なのかもしれない。とてもこっぴどく叱られるかもしれないわ。

「ウィレミナ学院長、大丈夫です。これ以上はマリエッタ様もなにもおっしゃらないと思いますわ。私は気にしておりません」
 ぱぁーと顔色が明るくなるマリエッタ様。

「ソフィ様がそうおっしゃるのでしたら、これ以上は追及しません」
 ウィレミナ学院長もホッとしたようだった。

「ご配慮くださり、ありがとうございます」
 私は深々と頭を下げた。

 私がそのまま食堂に向かうと、なぜかぞろぞろ私の後からマリエッタ様がついてくる。

「まだなにかご用ですか?」
「えっと。あのぉ、ほら、一緒に食べる方がいないでしょう? だから、一緒に食べてさしあげようと思って。それから、あなたのことを『お姉様』と呼んでも良くて?」
 キラキラと目を輝かして、私を見上げるマリエッタ様は思いのほか可愛らしかった。

「光栄ですわ、マリエッタ様」

 こうして私は、マリエッタ様とその取り巻きの皆様と夕食をいただくこととなった。学園に着いたばかりでもめごとは起こすなんて、ボナデア伯母様のお顔に泥を塗るものね。学園のことはなんでも話すように言われたけれど、彼女のことは黙っていようと思ったのだった。

 
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