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3 婚約破棄されました
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かつての私は学園のカフェテリアで大勢の友人に囲まれてランチを食べていたけれど、今ではひとりぼっちよ。私の目の前のテーブルにはランチセットが置かれているけれど、周りからはクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「一人前で我慢ができるのかしら? 無理しちゃって。アデリン様は屋敷では五人前の食事とデザートを軽く召し上がるそうよ」
「アデリン様にはがっかりだわ。才色兼備だと思っていましたもの。憧れだったのに、あそこまで醜く太るなんてあり得ないです。でも、綺麗だった方があのようになるのって愉快な気はしますわね」
「皆様、お姉様を悪く言わないでくださいませ。確かに屋敷では十人前を余裕で食べる食いしん坊さんですが、ランチだけでも控えようとしているのです。でも、夜中にも厨房でこっそりお菓子を盗み食いしているので、ますます大きくなっていますけれどねっ!」
妹のキティーは私を庇っているのか、貶しているのかわからない。
「え? 十人前! 夜中にお菓子? どこまで成長するのかしら? あれ以上太ったら、そのうち歩けなくなりそうよ」
妹とその友人たちの、私をあざ笑う声がカフェテリアに響きます。夜中にお菓子をあさっていたことなど一度もない。私はキティとその友人たちのクスクスと笑う姿を見ていた。カフェテリアには仲の良かった友人たちもたくさんいるのに、遠巻きに見ているだけでその表情は侮蔑に近い。
ここには私を心配する人はいないわね。それになんだか、妙に嬉しそうなのは不思議ね。
「俺もここで食べていいかな?」
「え? はい、構いませんが、私と一緒にいると笑われますわよ」
「あぁ、別に俺は気にしない。言いたい奴には言わせておけば良いのさ。良かったら、俺の皿から好きなものを食べていいぞ。アイスクリームでもおごろうか?」
隣国のベンジャミン皇太子が、どかっと目の前の席に座り、三人前ほどある食事を食べ始めた。この方もよく食べるようだが、筋肉質のがっちりした体型で少しも太っていない。ベンジャミン皇太子は誰にでもフランクに話しかける。
「アイスクリーム。いいえ、大丈夫ですわ。お気持ちだけいただいておきますね」
周りからはまたからかうような声が聞こえる。
「アイスクリーム、食べれば良いのに」
「無理しちゃって。皇太子の前だから食べたくても食べられないのよ」
「皆様、お姉様をあまり虐めないであげてくださいませ。ベンジャミン皇太子殿下。こちらで一緒に召し上がりませんか? そちらの席では暑苦しいでしょう? 先ほどから、太りすぎたお姉様は汗をかきっぱなしですもの」
キティーは私を虐めないで、と言いながらも、笑い者にはしたいらしい。
「いや、ここで大丈夫だ。俺は汗を気にしたこともないし、たくさん食べる女性は好きだからね」
ニコリと笑ったベンジャミン皇太子。
「アデリン。お昼は食べるな、と言っただろう? 水だけ飲めよ。それ以上太るな! 見苦しいぞ。お前のような者が婚約者なんて恥ずかしくなるよ」
「申し訳ありません」
優しかったダライアス王太子殿下はカフェテリアに姿を現すなり、まるでゴミを見るような眼差しで命令してきたのだった。
☆彡 ★彡
それから数日経って、キティーの誕生日がいつもより盛大にコプルストン公爵家で開かれた。多くの貴族が招待されたけれど、公爵家の娘の誕生日祝いにしてはたくさんの人々を招きすぎている。
「アデリン・コプルストン公爵令嬢! 私はこの場であなたに婚約破棄を申し渡す! 王太子妃になるには周りの人間のお手本になるべきだし、厳しく自分を律する必要がある。しかし、最近のアデリンはその能力が欠如していると思わざるを得ない。ゆえに、このような結論になった」
「承知いたしました」
私の両親にも話はしてあったようで、キティーが代わりに婚約者になることが、お父様の口から発表された。
「王太子から婚約破棄されたのなら、俺の婚約者になってくれないか? 承諾してくれたら、正式にコプルストン公爵家に申し込むよ」
この場に招待されていたベンジャミン皇太子が私に耳元で囁いた。
「まぁ、こんなおデブさんをもらっていただけるのですか? ですが、多分私はコプルストン公爵家から追放されます。お父様はプライドが恐ろしく高いです。このまま公爵令嬢ではいられませんわ」
「アデリン! お前は家名の面汚しだ。今日をもってコプルストン公爵家から出て行け」
お父様は私を睨み付け、ビシッと外を指さした。勘当ということなのは、誰の目にもわかっただろう。公爵家の籍から外され、貴族の身分を失うことになる宣告だった。
「というわけですので、平民になってしまった私は、到底皇太子妃になどなれません。それでは、失礼いたします」
私は急いでその場を後にしたのだった。
「一人前で我慢ができるのかしら? 無理しちゃって。アデリン様は屋敷では五人前の食事とデザートを軽く召し上がるそうよ」
「アデリン様にはがっかりだわ。才色兼備だと思っていましたもの。憧れだったのに、あそこまで醜く太るなんてあり得ないです。でも、綺麗だった方があのようになるのって愉快な気はしますわね」
「皆様、お姉様を悪く言わないでくださいませ。確かに屋敷では十人前を余裕で食べる食いしん坊さんですが、ランチだけでも控えようとしているのです。でも、夜中にも厨房でこっそりお菓子を盗み食いしているので、ますます大きくなっていますけれどねっ!」
妹のキティーは私を庇っているのか、貶しているのかわからない。
「え? 十人前! 夜中にお菓子? どこまで成長するのかしら? あれ以上太ったら、そのうち歩けなくなりそうよ」
妹とその友人たちの、私をあざ笑う声がカフェテリアに響きます。夜中にお菓子をあさっていたことなど一度もない。私はキティとその友人たちのクスクスと笑う姿を見ていた。カフェテリアには仲の良かった友人たちもたくさんいるのに、遠巻きに見ているだけでその表情は侮蔑に近い。
ここには私を心配する人はいないわね。それになんだか、妙に嬉しそうなのは不思議ね。
「俺もここで食べていいかな?」
「え? はい、構いませんが、私と一緒にいると笑われますわよ」
「あぁ、別に俺は気にしない。言いたい奴には言わせておけば良いのさ。良かったら、俺の皿から好きなものを食べていいぞ。アイスクリームでもおごろうか?」
隣国のベンジャミン皇太子が、どかっと目の前の席に座り、三人前ほどある食事を食べ始めた。この方もよく食べるようだが、筋肉質のがっちりした体型で少しも太っていない。ベンジャミン皇太子は誰にでもフランクに話しかける。
「アイスクリーム。いいえ、大丈夫ですわ。お気持ちだけいただいておきますね」
周りからはまたからかうような声が聞こえる。
「アイスクリーム、食べれば良いのに」
「無理しちゃって。皇太子の前だから食べたくても食べられないのよ」
「皆様、お姉様をあまり虐めないであげてくださいませ。ベンジャミン皇太子殿下。こちらで一緒に召し上がりませんか? そちらの席では暑苦しいでしょう? 先ほどから、太りすぎたお姉様は汗をかきっぱなしですもの」
キティーは私を虐めないで、と言いながらも、笑い者にはしたいらしい。
「いや、ここで大丈夫だ。俺は汗を気にしたこともないし、たくさん食べる女性は好きだからね」
ニコリと笑ったベンジャミン皇太子。
「アデリン。お昼は食べるな、と言っただろう? 水だけ飲めよ。それ以上太るな! 見苦しいぞ。お前のような者が婚約者なんて恥ずかしくなるよ」
「申し訳ありません」
優しかったダライアス王太子殿下はカフェテリアに姿を現すなり、まるでゴミを見るような眼差しで命令してきたのだった。
☆彡 ★彡
それから数日経って、キティーの誕生日がいつもより盛大にコプルストン公爵家で開かれた。多くの貴族が招待されたけれど、公爵家の娘の誕生日祝いにしてはたくさんの人々を招きすぎている。
「アデリン・コプルストン公爵令嬢! 私はこの場であなたに婚約破棄を申し渡す! 王太子妃になるには周りの人間のお手本になるべきだし、厳しく自分を律する必要がある。しかし、最近のアデリンはその能力が欠如していると思わざるを得ない。ゆえに、このような結論になった」
「承知いたしました」
私の両親にも話はしてあったようで、キティーが代わりに婚約者になることが、お父様の口から発表された。
「王太子から婚約破棄されたのなら、俺の婚約者になってくれないか? 承諾してくれたら、正式にコプルストン公爵家に申し込むよ」
この場に招待されていたベンジャミン皇太子が私に耳元で囁いた。
「まぁ、こんなおデブさんをもらっていただけるのですか? ですが、多分私はコプルストン公爵家から追放されます。お父様はプライドが恐ろしく高いです。このまま公爵令嬢ではいられませんわ」
「アデリン! お前は家名の面汚しだ。今日をもってコプルストン公爵家から出て行け」
お父様は私を睨み付け、ビシッと外を指さした。勘当ということなのは、誰の目にもわかっただろう。公爵家の籍から外され、貴族の身分を失うことになる宣告だった。
「というわけですので、平民になってしまった私は、到底皇太子妃になどなれません。それでは、失礼いたします」
私は急いでその場を後にしたのだった。
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