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4 アデリンの回想と明るい未来
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今から四ヶ月ほど前のこと、貴族学院の裏庭で、親しげに会話をしているケティーとベンジャミン皇太子を目撃した。いつものように周囲の光を収集し自分の姿を隠していたのよ。昼間は透明人間になれる私は、芝生の上に寝転んで寛いでいた。
実は、私はおしとやかに見えるけれどお転婆だし、着飾るよりは動きやすい服で野山を駆けまわることが好きだった。けれど、十歳の頃から王太子の婚約者になったため、自由を諦め模範的な貴族の令嬢になった。その反動のお陰で自力で透明化する魔法を習得し、今は自由気ままな行動ができていた。
「アデリンお姉様が優秀すぎて私の存在が霞みます。しかも、王太子のことを昔から好きだったのは私なのですよ。あんなに綺麗で頭も良いなんてずるいわ」
「ふーん。キティーは王太子が好きなのか? 俺はアデリンが好きなんだ。だとしたら、アデリンが王太子から嫌われれば解決するかな? 食欲が止まらなくなるエリクサーを作ってあげよう。一種の呪いのようなものさ。それをアデリンに一度だけ飲ませれば良いよ。紅茶になかにでも混ぜろ。効果は永遠だ」
「え? そんなもの飲ませたらぶくぶくに太りますよね? ベンジャミン様はそれで平気なのですか?」
「あぁ、実は俺、デブ専なんだ。痩せている女は苦手で、太っていればいるだけ好きさ」
「おかしな人ですね。でも、それなら協力します」
あら、まぁ、おばかさんが二人で楽しいことを考えたのね? せっかくだから乗ってあげましょう。これは本当に軽い悪戯心だった。ほんの少し悪のりしすぎてしまった、とは思ったけれど。
私は自分が透明化できるぐらいの実力の持ち主よ。幻影魔法も容易に操れる。この魔法は私の周囲に幻覚を生み出し、他人に対して特定の外見や状態を見せるものだ。魔法の効果範囲内では、私は実際の外見や状態とは異なる姿を持つことができた。幻影魔法は、視覚や感覚を欺くことに特化しており、他の魔法と連携することで、幅広い幻影を創り出すことが可能なのよ。
たくさん食べて太ったふりをしていると、友人だと思っていた方たちが実はそうでもないことに気づいた。優しく思いやりのある家族も、私に利用価値がなくなると病気で寝込んでいた方がマシだったと言い出す始末。ダライアス王太子殿下もあっさりとキティーと婚約した。
現実がわかって良かったのかもしれない。貴族の身分に未練はなかった。
☆彡 ★彡
自室の荷物をトランクに詰めていると、アルフォンスが手伝いながらも、自分の荷物をまとめだした。
「アルフォンスはどこに行くの?」
「アデリンを高名な魔道士のところに連れて行くよ。多分、おかしな術をかけられているんだと思うし、薬を盛られたのかも知れない。俺が助けるから、旅に出よう。何年かかっても、元の状態に直してあげる。それに、俺はアデリンが今のままでも気にしないし、一緒にいたい」
今までの敬語もなくなり、無表情だった顔には笑みさえ浮かべていた。
「見てよ、この私を! すっかり容姿が変わって公爵令嬢でもなくなった。一緒にいたってメリットなんてなにもないのよ」
「メリット? あるよ。俺はアデリンがどんな姿でも可愛いと思う。確かに今は身体のほうが心配になるほど食べすぎな気はするけど、ふっくらしてても健康なら問題ないよ」
「アルフォンス、もしかしてデブ専なの?」
「はぁ? そんなわけないだろ。でも、好きな子が少しぐらい太っても気にしないよ。可愛い面積が増えたって思える範囲ならね。さすがに健康を害するほど太ったりしたら心配だけどね」
「なんで今頃、そんな良い笑顔するのよ? 今まであんなに素っ気なかったじゃない」
「あぁ。だって、好きな子がお嫁に行くまでの使用人って辛い立場だろ? 奥様とキティーが俺の寝室に代わる代わる忍び込んできて寝不足だったしね」
「え! キティーなら想定内だけれど、お母様まで? それで、美味しく食べられちゃったのね? 可哀想に」
「違うよ。そんな時の俺は、すぐに飛び起きて馬小屋に避難していたんだ。馬小屋でうずくまって寝るって大変なんだぞ。俺はアデリン以外とはそんなことしない」
私は幻影の魔法を解いて、アルフォンスに抱きついた。
真実の愛を見つけたわ! 多分、これは本物よ。
すっかり前の姿に戻った私にアルフォンスが目を丸くした。
「まさか、幻影魔法を使っていたのかい? 俺まで騙されたよ」
「ふふっ。透明化さえできる私ですもの、このくらいはお手のものよ。さて、旦那様。これから新婚旅行がてら、いろいろな国を旅しましょうよ。私、アルフォンスの妻になるわ!」
去り際に厨房に向かいフルーツポンチの甘い汁に、ベンジャミン皇太子がキティーに渡した、本物のエリクサーを半分いれてあげた。開封仕立てのワインにも、肉料理にもさっと振りかける。
透明化してこんな悪戯をするのは今日が最後よ。最後に私からの贈り物ですわ。
アルフォンソは手のひらから大きな種をコプルストン公爵家の庭園に転がした。凶器のようなトゲを持つ植物が急速に成長し四方に広がり、コプルストン公爵邸を取り囲む。イバラに覆われた屋敷は幽霊でも出そうだ。
「あの魔法ってなぁに?」
「俺は風魔法の他に植物魔法が使えるんだよ。だから、どこに行っても食べ物には困らない。たくさんのフルーツも野菜も俺たちは自給自足できるよ」
「まぁ、素敵! あとは鶏でも飼って卵を産んでもらえば、完璧ね」
私たちは田舎に行ってスローライフを満喫するわね!
おしまい
実は、私はおしとやかに見えるけれどお転婆だし、着飾るよりは動きやすい服で野山を駆けまわることが好きだった。けれど、十歳の頃から王太子の婚約者になったため、自由を諦め模範的な貴族の令嬢になった。その反動のお陰で自力で透明化する魔法を習得し、今は自由気ままな行動ができていた。
「アデリンお姉様が優秀すぎて私の存在が霞みます。しかも、王太子のことを昔から好きだったのは私なのですよ。あんなに綺麗で頭も良いなんてずるいわ」
「ふーん。キティーは王太子が好きなのか? 俺はアデリンが好きなんだ。だとしたら、アデリンが王太子から嫌われれば解決するかな? 食欲が止まらなくなるエリクサーを作ってあげよう。一種の呪いのようなものさ。それをアデリンに一度だけ飲ませれば良いよ。紅茶になかにでも混ぜろ。効果は永遠だ」
「え? そんなもの飲ませたらぶくぶくに太りますよね? ベンジャミン様はそれで平気なのですか?」
「あぁ、実は俺、デブ専なんだ。痩せている女は苦手で、太っていればいるだけ好きさ」
「おかしな人ですね。でも、それなら協力します」
あら、まぁ、おばかさんが二人で楽しいことを考えたのね? せっかくだから乗ってあげましょう。これは本当に軽い悪戯心だった。ほんの少し悪のりしすぎてしまった、とは思ったけれど。
私は自分が透明化できるぐらいの実力の持ち主よ。幻影魔法も容易に操れる。この魔法は私の周囲に幻覚を生み出し、他人に対して特定の外見や状態を見せるものだ。魔法の効果範囲内では、私は実際の外見や状態とは異なる姿を持つことができた。幻影魔法は、視覚や感覚を欺くことに特化しており、他の魔法と連携することで、幅広い幻影を創り出すことが可能なのよ。
たくさん食べて太ったふりをしていると、友人だと思っていた方たちが実はそうでもないことに気づいた。優しく思いやりのある家族も、私に利用価値がなくなると病気で寝込んでいた方がマシだったと言い出す始末。ダライアス王太子殿下もあっさりとキティーと婚約した。
現実がわかって良かったのかもしれない。貴族の身分に未練はなかった。
☆彡 ★彡
自室の荷物をトランクに詰めていると、アルフォンスが手伝いながらも、自分の荷物をまとめだした。
「アルフォンスはどこに行くの?」
「アデリンを高名な魔道士のところに連れて行くよ。多分、おかしな術をかけられているんだと思うし、薬を盛られたのかも知れない。俺が助けるから、旅に出よう。何年かかっても、元の状態に直してあげる。それに、俺はアデリンが今のままでも気にしないし、一緒にいたい」
今までの敬語もなくなり、無表情だった顔には笑みさえ浮かべていた。
「見てよ、この私を! すっかり容姿が変わって公爵令嬢でもなくなった。一緒にいたってメリットなんてなにもないのよ」
「メリット? あるよ。俺はアデリンがどんな姿でも可愛いと思う。確かに今は身体のほうが心配になるほど食べすぎな気はするけど、ふっくらしてても健康なら問題ないよ」
「アルフォンス、もしかしてデブ専なの?」
「はぁ? そんなわけないだろ。でも、好きな子が少しぐらい太っても気にしないよ。可愛い面積が増えたって思える範囲ならね。さすがに健康を害するほど太ったりしたら心配だけどね」
「なんで今頃、そんな良い笑顔するのよ? 今まであんなに素っ気なかったじゃない」
「あぁ。だって、好きな子がお嫁に行くまでの使用人って辛い立場だろ? 奥様とキティーが俺の寝室に代わる代わる忍び込んできて寝不足だったしね」
「え! キティーなら想定内だけれど、お母様まで? それで、美味しく食べられちゃったのね? 可哀想に」
「違うよ。そんな時の俺は、すぐに飛び起きて馬小屋に避難していたんだ。馬小屋でうずくまって寝るって大変なんだぞ。俺はアデリン以外とはそんなことしない」
私は幻影の魔法を解いて、アルフォンスに抱きついた。
真実の愛を見つけたわ! 多分、これは本物よ。
すっかり前の姿に戻った私にアルフォンスが目を丸くした。
「まさか、幻影魔法を使っていたのかい? 俺まで騙されたよ」
「ふふっ。透明化さえできる私ですもの、このくらいはお手のものよ。さて、旦那様。これから新婚旅行がてら、いろいろな国を旅しましょうよ。私、アルフォンスの妻になるわ!」
去り際に厨房に向かいフルーツポンチの甘い汁に、ベンジャミン皇太子がキティーに渡した、本物のエリクサーを半分いれてあげた。開封仕立てのワインにも、肉料理にもさっと振りかける。
透明化してこんな悪戯をするのは今日が最後よ。最後に私からの贈り物ですわ。
アルフォンソは手のひらから大きな種をコプルストン公爵家の庭園に転がした。凶器のようなトゲを持つ植物が急速に成長し四方に広がり、コプルストン公爵邸を取り囲む。イバラに覆われた屋敷は幽霊でも出そうだ。
「あの魔法ってなぁに?」
「俺は風魔法の他に植物魔法が使えるんだよ。だから、どこに行っても食べ物には困らない。たくさんのフルーツも野菜も俺たちは自給自足できるよ」
「まぁ、素敵! あとは鶏でも飼って卵を産んでもらえば、完璧ね」
私たちは田舎に行ってスローライフを満喫するわね!
おしまい
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(4件)
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この後の永続過食エリクサーによるコプルストン公爵家の悲惨な末路も見てみたかったですねぇ
もし皇太子が彼らの状態を見たら原因に思い当たるでしょうが、それを言えば何かしらの処分を受けるのは自分なので黙っていると思います
婚約者に薬を盛ったなんて政略結婚をぶち壊す行為を皇家が許すとは思えないので
ꉂꉂ(ˊᗜˋ*)𐤔𐤔
感想ありがとうございます❣
あっと言う間に読み終わり
物足りない気持ちです♪
もっと読みたい!!
面白かったです💕
その後の2人とかその後の公爵家の
面々とか諸々…✨✨✨
感想ありがとうございます✨
えっとね
そんなに褒めていただけるとは💦
恐縮です
その後
どーなったのか
多分、楽しい田舎生活で子供が2人できてって感じかな
もしかしたら国も作っちゃうかもしれません
2人ならできそう😄
お読みくださりありがとうございます❣
あららら〜(๑˃▿︎˂๑)))
最初からインパクトのある執事だとおもったら✨
ヒロイン有能( •̀∀︎•́ )✧︎
この先はしばられることなく楽しい人生になりそうですね💐
感想ありがとうございます!
はい(^_^;)
貴族でなくなっても
この二人のなら生活にも困らず
楽しくいきていけそーですw
お読みいただきありがとうございます🙇♀️
💐も感謝ですぅーー✨