【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

文字の大きさ
18 / 70

17 アレグラン視点

しおりを挟む
 王の視線が、まるで槍のように俺を射抜く。

「……貴様、自分の立場がわかっているのか? 貴様は妻に見限られたのだ。エルナには、新しい人生を歩む権利がある。心を尽くしても報われなかった結婚から、ようやく解放されたのだ。今さら、また貴様の身勝手な檻に閉じ込める気か?」

「陛下……今度こそ、幸せにします。大事にして、尽くします。生涯かけてでも……必ず――」

「未亡人はどうする? その子供は、貴様に懐いているのだろう?」

「っ……!」

「エルナよ。当然と思うが、アレグランと寄りを戻す気はないな?」

「はいっ。ございません!」

 王の言葉に、エルナがかぶせるように叫んだ。その声には、迷いなど一切なかった。

 ――なんでだよ。あんなに俺のことが好きで、尽くしてくれたじゃないか。俺だって、これからは大事にするって言ってるのに。なんで……そんな、まるで汚物でも見るような目で俺を見るんだよ?

「エルナ、頼む、機会をくれ。心を入れ替えるよ。誓う。エルナと……俺たちの子供を、一緒に育てていこう。結婚してから2年、授かれなかったけど……これからは王都で、そばにいる。いつかきっと、子供も授かるさ」

には、あなたのような父親はいらない!」

「……な、に……?」

 俺は言葉を失った。

 視線の先――エルナが、そっとお腹に手を添えていた。
 そして、今の一言を悔いたかのように、顔が見る見るうちに青ざめていく。

 まさか……。

 ――くくっ……神様、ありがとう。そうか、エルナのお腹に子供が? だったら、復縁の理由としては最高じゃないか。これ以上のタイミングはない。

「エルナ……なぜ黙ってたんだ? 俺の子だろ? 一緒に育てよう。これからは、ちゃんとした父親になる。暖かい家庭を築こう。大丈夫だ。俺が、お前と子供を守る」

 ――これで俺の印象もグッと上がる。赤子がいるとなれば、王も傍聴席の貴族たちも、今度は俺の味方をしてくれる――そう思った。

「なんと……エルナさん、ご懐妊とは、おめでたいことですな。ならばアレグランと、今一度やり直してはどうか。私が責任を持って、弟が良き父親となれるよう導こう。子供から父親を奪うことなどあってはならない。君自身、親を持たずに育った苦労を、一番よく知っているはずだろう?」

 ――ガレット兄上……俺を見捨てたわけじゃなかったのか! すばらしい援護射撃だ。

「私が責任を持って育てます。住む家もあります。食堂も繁盛しています。商店街の皆さんも、かつての部下たちも、助けてくれています」

「聞いてくれ。私と妻の間には娘しかいない。もしエルナさんが男の子を生んだのなら、将来、セルデン男爵家を継がせてもいい。どうだ? 子供に輝かしい未来を与えてやろう」

 ――さすが兄上! これでエルナと元サヤに戻れば、さっき決まった金貨5,000枚の支払いも帳消しになる。あれだけ俺を見下みくだしていた高位貴族夫人たちも、ほんの少し戸惑っている……これは、いける!

 しかし、そうは簡単にいかなかった。

「いりません!」

 エルナの声が、法廷内を鋭く切り裂いた。

「子供に父親がいたほうがいいことは、もちろん分かっています。でもそれは、“本当に私と子供を大切にしてくれる人”でなければ意味がありません!」

「だから、これから俺は変わるって言ってるだろう? いい加減、信じてくれよ」

「この子の幸せは、私が守ります。セルデン男爵家のために生まれてくるんじゃない。この子には、この子の人生があります」

「セルデン男爵家を継ぐことは名誉なことだ。子供にとって、決して悪い話ではないだろう?」

「貴族になるより大事なことがあります。愛のある家庭で育つことです」

 エルナは涙を浮かべたまま、隣にいたレオン団長を見上げた。そして、震える声で、静かに言ったんだ。

「この人は、私の顔の傷を見て、こう言ったんです。“……その顔じゃな……悪いけど、女としては……ちょっとな”と」

 場が静まり返った。
 誰もが息をのむ中、エルナは続ける。

「私は、この傷を後悔していません。人を救った騎士として、誇らしく思っています。これは、私の勲章くんしょうです。
 でも――アレグランは、それを“汚らわしいもの”のように見た。あの目だけは、忘れられません」

 傍聴席ぼうちょうせきに、どよめきが走った。
 高位貴族たちが顔を見合わせ、唇を寄せ合うようにして囁き合っている。
 何を言っているのかまでは聞こえない。――だが、その視線は明らかだった。
 俺を責めている。蔑んでいる。


 そして、レオン団長の視線が、焼けつくように突き刺さった。

 あの目――騎士として長く生きてきた俺には、よくわかる。
 ここで下手へたに弁解すれば、命はない。そう告げている眼差しだった。

 だから、俺は――
 ただ、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 そして、王は……
しおりを挟む
感想 412

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ エレインたちの父親 シルベス・オルターナ  パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆小説家になろうにも投稿しています

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

処理中です...