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17.懲罰

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「せああっー」
気合と共に杖を誠一に向かって、振り下ろすヴェル。
それを難なく躱す誠一だった。
あの日以来、何かとつるむことが多い二人であった。

「くそっ、研究室に閉じ籠っているような
引き籠り魔術師に負けられっかよー。
俺は戦士を目指しているんだ」
叫べども当たらない者は当たらず、誠一に躱されていた。

「おーい、魔法戦士だろう」
とヴェルの発言に突っ込みを入れて、腹部に一撃を打ち込んだ。

「ぐぅ、俺が魔術師ごときに一撃を加えられるとは」
最早、自分も魔術を学ぶ身であることを
忘れているヴェルであった。

講師から、止めの指示が飛ぶと、一同、
お互いに一礼すると、その場に座った。

「くそう、くそっ、流石は代々、
騎士を輩出するエスターライヒの長男だな」
年相応の表情で悔しそうにヴェルが言った。

誠一は、息を整えながら、ヴェルに助言した。
「本気で戦士の道も極めたいのでしたら、
徹底的に基礎を叩き込んだ方がいいですよ。
本職の戦士ほど多彩な武器を
扱えるようになるのでなく、
2種類くらいを選択するのがいいのでは」

「そうか、なら、槍と剣だな。
アル、よろしく!教えてくれ。
実家で訓練を受けていただろう。
槍なら、この杖術の抗議でも訓練できそうだしな」

「まあ、可能な限りで協力しましょう。
剣は分かるとして、何で槍もなんですか?」
多くの武器から槍を選ぶ理由が誠一には、
なんとなく想像できたが、
念のため、ヴェルが選択した理由を尋ねた。

「んー、何となく槍の先端に魔術を込めて
疾走するとかかっこいいじゃん」

予想通りの回答だった。ロマン枠で槍だった。
誠一も魔法戦士を目指すなら槍を同じ理由で選択していた。

二人が槍のロマンについて熱く語っていると、
講師が両腕を組んで二人を呼んだ。
「ほほう、槍か!槍、いいね。
しかし、ここは杖術の講義だ。
しかもあれだけの訓練の後でまだまだ、
二人には余裕があると見える。
よし!二人は特別に訓練を追加する。立て」

普段の豪放磊落な雰囲気の講師が
嗜虐的な表情で二人を見つめていた。
雲一つない晴天の下でその表情は、
更に強調されていた。

講師は、杖を構え、まず、直立する二人の右腿へ
一撃を加えた。

「リシェーヌ、ファブリッツィオ。
この二人の相手をしなさい。
まずはファブリッツィオとアルフレート、始め!」

二人は相対して杖を構えた。
初撃は、力任せに横なぎに杖を
振るったファブリッツィオであった。
誠一は杖で受けるが右脚の踏ん張りが利かずに
その場に膝をついた。

そして、容赦なく誠一の脳天に
向かって杖が振り下ろされた。
杖の両端を持ち、その一撃を防ぐが
そのままファブリッツィオは杖を押し込んだ。
二人の年齢は2歳差、この世代の2歳差は大きく、
誠一は押し込まれて、地面に両手を
つくような状態になっていた。

周りがざわめいた。その姿は、
まるでファブリッツィオに土下座を
しているようであった。
「ふん、剣技を得意とするのは、君だけじゃない。
僕も2年間とはいえ、それなりに養成所で
鍛えてきたつもりさ。
まだまだ、これからだろう、訓練は!立て、ぎゃっ」

ざわめきが静まり、誰もが息を飲んだ。

ファブリッツィオの右脛が誠一の杖で叩かれていた。
そして、右足を上げたファブリッツィオの左脛に
誠一からの追撃が加わった。

「ひぎゃあ」
悲鳴をあげて、仰向けに倒れるファブリッツィオ。
その姿は蛙の死んだふりのようであった。
そして、誠一は、立ち上がり、杖を向けて、
ファブリッツィオを見下ろした。

誰の眼にも勝者は明らかであった。
しかし、沈黙が周囲を支配していた。
誰しもが、講師すら予想だにしなかった結果に
どのような態度を取っていいか分からなかった。

この状況に一番、困っていたのは誠一であった。
自分より歳下の連中につい熱くなってしまい、
策を弄してしまった。
さてどうしたものかと周囲を見渡すが誰も視線を
合わせようとしなかった。
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