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46.婚約者
しおりを挟む「まだ、子供とは言え、
フィアンセのいる女性が男の手を
引くのは感心しないな。
おい、そこの餓鬼、さっさと手を離せ」
怒鳴り散らす訳でもなかったが、
その不遜な態度と話しぶりから、
上品そうな男が相当、怒っていることは、
誠一にも理解できた。
穏便に済ませたい誠一はリシェーヌの手を
離そうとしたが、リシェーヌから逆に強く握られた。
「離さないか、何のつもりだ、小僧。
人の婚約者に手を出すということが
どういう事か身をもって教えてやろうか?」
誠一は預かり知らぬ所でこの男の不興を
買っていたようだった。
その原因は、どうやらリシェーヌとの関係に
あるということは、この状況から十分に理解できた。
「ファブ、学院でもリシェーヌの周りを
うろちょろしているカスはコイツで間違いないな?」
尊大な態度でファブリッツィオに尋ねた。
「一応、その一人ではあります」
ごつん。軽く頭をその男に小突かれた。
「馬鹿かお前は。本当に俺の弟なのか?
リシェーヌに人気があるのは当たり前だろう。
俺が聞きたいのは、身分もわきまえずに
しつこく纏わりつく男のことだ。
そこまで説明しないと分からないか?この阿呆が」
言い終えるとまた、ファブリッツィオは
軽く頭を小突かれた。
ファブリッツィオは俯きながら、
その男に違いありませんと言った。
二人の会話は、見ていて、聞いていて、
気持ちの良いものではなかった。
ファブリッツィオに同情したが、
彼の答えを聞いて、誠一は、頭を抱えてしまった。
何もしていないのに眼前の男の恨みを更に
買ってしまった。
「おい、餓鬼。さっきから黙っているが、
口が聞けないのか。
それともビビっているのか?」
そして、嘲笑した。
ファブを除く、周りの男どものそれに唱和した。
「ティモいい加減にして。
婚約なんてしていないし。
そもそも侯爵家と孤児の私が釣り合う訳ないでしょ」
呆れたようにリシェーヌが答えた。
「そんなことはどうでもいい。
正妻でなく、側室なら問題なかろう。
書面はなくとも我が侯爵家の母君と
亡き伯爵が交わした約束だからな。
お前は見てくれは良いんだ。
冒険者ごっこに興じるより、
俺好みの女になるように努力したらどうだ?」
全くリシェーヌの言葉を無視して話を
すすめるストラッツェール家の嫡男だった。
「あほらし。アル、行こう。
こんな眉唾な話、気にしなくていいから。
話したこともない、会ったことすらない人達の
信憑性のない話で私の人生は左右されないから」
目線すら合わせずにアルの手を握って、
ティモの横を通り抜けようとした。
がっつ、誠一は肩をティモに掴まれた。
「このまま帰れると思ったか!
リシェーヌ、少し躾が必要だな。
あと、オマエもだ。その薄汚い手をいい加減に離せ」
リシェーヌと誠一は、囲まれ、そのまま、
鍛練場に連れていかれた。
ストラッツェール侯爵家に睨まれるのは
御免と周りの冒険者やギルドの職員は目線を
合わせないようにうつむいていた。
「アル、巻き込んでごめんね」
少し震えながら、誠一の耳元に囁いた。
遠目から、受付担当の態度の悪い男が注視していた。
「ったく餓鬼が。さっさと帰れば良かったものを。
面倒事を増やしやがって」
男は椅子から立ち上がり、杖を片手に器用に歩き出し、
誠一とリシェーヌの後を追った。
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