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62.隊商の護衛6

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「リシェーヌはそこで休んでいろ。
さーてとこれから、女王蜂さまのお出ましだ。
さして、女王蜂自体はでかいだけで
強くはないが、逃がすと厄介だ。集中しろ」

その言葉が終わると、キャロリーヌが巣に向かって
矢を放ちはじめた。
巣は破壊され、幼虫が落ちてきた。
地面とぶつかり、潰れて、液が飛び出す幼虫や
辛うじて助かってうろうろと歩く幼虫とさまざまであった。

「覚えておけ。
あの体液は非常に栄養価が高く、高額で取引される。
数匹でもそれなりの金銭になる。
俺は到底、飲む気にはならんがな」

誠一を含めたメンバーが生きている幼虫に
止めを刺していると、先ほどの蜂より
一回り体躯の大きい蜂が現れた。
羽根がしおれているところ見ると、
飛翔できないのだろう。
キャロリーヌが巣穴を破壊すると、地面に落ちた。
流石に即死とはいかず、威嚇してきた。
ヴェルは後方へ回り込み、牽制をすると、
後方を向いて大顎をカチカチと鳴らしながら、威嚇した。
しかし、その動きは緩慢であり、隙を作るだけの
行為であった。
 誠一はその隙に女王蜂の頭部へ一撃を加えた。
べこりと激しい音がして、凹んだが、
致命傷にはならなかったようだった。

「アル、これで決めるっ!」
ヴェルは、女王蜂の注意が逸れた瞬間、
数歩下がり、投擲の姿勢を取った。
全身が引き絞られた弓のようにしなり、
そして、短槍は、投擲された。
 派手な音を立てて、短槍は腹部に深く刺さった。
ぴくぴくと震えているが、ヴェルは油断せず、
短刀を引き抜いた。

「ファイヤー」
前方から誠一が炎の魔術を唱え、攻撃した。
炎は、女王蜂を燃やし、息の根を止めたようだった。

「ふううっ、相変わらず最後はアルなんだね。
この魔物の魔石、欲しいでしょ。
ウォーターボール」
シエンナが仕方なしという感じで、
女王蜂を燃やす炎を消した。

ロジェとキャロリーヌは、どうやらリシェーヌの容態を
確認しているようであった。

キャロリーヌと二言三言、
交わしているようだったが、
何故かリシェーヌの顔がみるみるうちに
真っ赤になっていた。
そして何故かロジェにはたかれそうになる
キャロリーヌであった。

「うん、異常な発熱があるけど、問題なし。
これは毒とは別だしねー」
誠一たちが近づくと、意味深な言葉を残して、
希少な部位の解体をロジェと始めた。

「すまん、俺の不注意だ。本当にすまねえ」
90°に身体を折り、謝るヴェルだった。

「大丈夫だから。処置が早かったから、
大丈夫だって。まー油断大敵だね。
ドラゴンとかだったら、死んでるかもだからね」

ヴェルは何度も頷き、頭を下げた。
「顔が真っ赤だぞ。熱もあるみたいだし、本当に大丈夫か?」
リシェーヌの言葉を聞いて尚、心配するヴェルだった。

「だっ大丈夫だから」
誰とも視線を交わそうとしないリシェーヌだった。

「そうね。大丈夫でしょう。
蜂の一刺し程度で、二度もあんな熱いキスを
交わすんだもん。
戦闘中にお熱いことで」
刺々しいシエンナの口調に3人は驚いてしまい、
沈黙がその場を支配した。

「それはちょっと、違うよ。
解毒薬は、十分な水を飲む必要があったから」
図星を突かれたために、誠一は、やっとのことで答えた。
実際に二度目は、リシェーヌとの濃厚なキスを
楽しんでいたからであった。

「それにしては随分と長かったですよ。
そんなことも分からない子供だと思っていませんか?」
ヒステリックな叫び声だった。
ヴェルはつんざく様な声に辟易して、耳を塞いだ。

「おいおい、始まったぞ。止めないのか?」
「いずれはね、遅いか早いかの違いで
リシェーヌとシエンナのいずれかが始めたでしょう。
まー仕方なし。でもアル君にそんな魅力あるのかなぁ。謎ね」

「しかし我が弟は、色後沙汰からは蚊帳の外か。
情けないことだ」

「ヴェルにはまだ早いわよ。
それよりあの3人に置いていかれないように
必死にならないとね」
作業に勤しむ兄弟が遠目からその様子を見守っていた。
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