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64.隊商の護衛8

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翌日、スターリッジを中心として、
隊商のメンバーが巣に向かい、
シエンナの父親であるボーリス・モリスが
ロジェとキャロリーヌを護衛に近隣の村へ
向かった。

 誠一はヴェルと隊商の馬車を護衛に就いていた。
リシェーヌとシエンナが逆側で哨戒任務にあたっていた。

「なあ、アル」
深刻な声で誠一に声をかけるヴェルであった。
恐らく昨日の痴話喧嘩のことを聞きたいのだろう。
誠一としてはできれば、あまり触れられたくない話題であった。

「リシェーヌは持って生まれた才能。
アル、おまえは何代も続く伯爵家の血に染み込んだ技。
シエンナは、うーん、金か?」

誠一は話の意図が掴めずに黙って、
ヴェルの話の続きを待った。

「俺は何もないな。魔術院でもついていくのが
一杯一杯。代々伝わる秘伝もない。
アル、お前は、いい奴だから、
俺にも使えそうなエスターライヒ家の秘技を
教えてくれただろう。
でも実際にその技が血に刻まれている奴と
そうでない奴では、どんなに努力しても
その技の本質に届かないことが分かったよ。
何代にも渡る研鑽が身体の隅々まで
刻みこまれているんだろうな。お前が羨ましいよ」

難しい話だと誠一は思った。
持っている者が何を言っても持たざる者は、
その言葉を受け入れないだろう。
何と答えて良いか悩んでしまった。

「僕は、廃嫡された長子だよ。
だから、エスターライヒ家の秘技は、
別の誰かが子孫に伝えていくことになるよ。
そう言った意味では、僕も技の本質を知ることはない。
まっ、だから、ヴェル風に言えば、
僕だけの必殺技を編み出すよ。
人の何かをうらやむよりもヴェルもそうしたら?
自分だけの必殺技!」

ヴェルは、尊敬の眼差しで誠一を見つめていた。
「自分だけの必殺技。
ヴェルスペシャル、否、エンゲルスアタック、
うーん、露語が悪いな。ヴェルナーラッシュ。
そうだ、これにしよう。
さてと後は技を考えるだけだな。
アル、よろしく!
ってかやっぱり、おまえ、凄いな。
オリジナルの技を考えていたなんて。
流石、あの二人を転がすだけはある!
で、どっちと付き合うんだ?
まさかの二人とも恋人ってやつか?」

途中で話が脱線してしまい、
誠一が触れてほしくない話題にシフトしていた。
誠一は、ヴェルの問いには答えず、
無言で杖を槍のように構えた。
杖の先端に炎を灯した。
そして、全速力で走りながら、杖を突き出した。
杖の先端から、炎は誠一を覆うように広がり、
まるで巨大な火の玉が突撃しているようであった。
炎が収まると、誠一は言った。
「フレイムチャージ」

使用者の周りを炎が覆う為、
本人は非常に熱かった。
その割には、炎自体に防御力が無い上、
先端部の炎が広がっているため、攻撃力も低かった。
しかし、見た目が派手なため、初見では
コケ脅し程度の効果は見込めた。

ヴェルは、その派手さに惑わされて、感動していた。
「おおっ!すげーそんなん聞いたこともないな。
めっちゃかっこいいな。アル、頼む。教えてくれ」
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