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89.策謀の果てに4

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「ふふっ逃亡するのは構いませんが、
その前に一仕事して頂きませんとね。
流石にあの数と質を揃えるとは予想外でした。
何もせずに逃げ出すなら、あなたを死ぬまで
銀の矢が追うでしょう」

シャクマトは表情に出さぬように努めたが、
内心は焦っていた。
周囲を警戒し気配を消していたにも関わらず、
狩人ごときにこの場を見つけられ、背後を許してしまった。
 森林では狩人であるこのエルフに一日の長があるだろうが、
ここは屋敷であり、シャクマトに圧倒的に有利な場所であった。

見透かしたように言葉を続けた。
「人間を獲物と考えれば、
そうそう難しいことではありませんよ」
シャクマトはこの男と対峙する愚を避け、
軽く頷くと音もなく闇に消えた。

暗い部屋でエルフは、この戦況を見つめていた。
「やれやれ、いくら世代を繰り返そうとも
人間のやることはおろかな事だ」


 主城の一室に控えているナージャは、
眼前の状況をリシェーヌに向かって、こう表現した。
「やれやれ、どうやらふられたようだな。
美女二人を袖にするとは、バッシュも罪な男だ。
まっ、来ようが来まいが、フリッツは怒り狂うだろうけど」

その物言いにリシェーヌはくすりと笑ってしまった。
既に風の精霊を身に纏っていた。
風の精霊たちは以前のように楽しそうに
踊り狂う事なく、リシェーヌに力を貸していた。
精霊王ですら、敬意を払うナーシャを前にして、
奔放な風の精霊は、謹直な態度で力を貸していた。

二人の前で武器を構える者たちは、
彼女たちの会話に全く反応しなかった。

「騒がしい男も魅力をさして感じぬが、
陰気そうな無口な男もいまいちだ。
リシェーヌどう思う?」
場違いな問いかけにリシェーヌは
戸惑ってしまったが、答える余裕もなく、
ただ頷くだけだった。

「さて、黙って睨まれるのも飽きてしもうた。
知っていることを話して貰ったら、死んで貰おうか」
細剣を構え、火、風、水、土の精霊を纏った。
ナーシャと対峙する者たちは、息をのんだ。

光と闇、雷を除いた世間によく知られる
4大精霊を同時に扱うなど、あり得ざることであった。
そのことだけで彼女と対峙する者たちは、
その実力が冠絶していることが剣を交えなくとも
容易に理解できた。

1人のリーダーらしき男が指示を出した。
散会すると同時にリシェーヌに攻撃を放った。
ロングソードと盾を持った男が鋭い突きで
リシェーヌを攻撃した。
かろうじて躱すと、短剣が飛来した。
デスサイスを横なぎに振るって、叩き落すが、
何本かは、撃ち落せずに風の精霊が防いだ。

後方の魔術師と精霊使いが慌てふためいていた。
展開できない魔術があるからであろう。
「馬鹿野郎、あのエルフがいるんだ。
補助魔術でサポートしろ」
リーダーらしき戦士が大斧を振り上げて、罵っていた。
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