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93.策謀の果てに8

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「無益なことよな。
くだらぬことに加担しなければ、
更に魔道を極められたものを」

「げえええぅ」
魔術師の口から無数の臓物が流れ出した。
そして、ペラペラの皮膚が床に溜まる臓物に
覆いかぶさった。

「同族とはいえ、罪は罪じゃな。
覚悟はできておろう。
くだらぬことに与したことを後悔するがよい」
ナーシャは話しながら吐血した。

高い天井からぱらぱらと小石がぱらぱらと落ち始めていた。

エルフは何も言わずに受け入れた。
エルフは、何者かわからぬモノに
原型を留めないほど
みじん切りにされてしまった。

部屋の一部が破壊された。
主城の一部が崩れ始めていた。

「ちっ、あと、一匹、残っているが、
ここまで、かっ」
ナーシャは、精霊王との接続を解除した。
ふらつき、全身汗まみれで、胸の周りは吐血で
紅く染まっていた。

部屋の影に隠れていた僧侶は、恐怖で失禁していたが、
生命を脅かすような圧迫感が消えると、
与えられた任務を綺麗さっぱりと忘れて、
この場から一目散に逃亡した。

部屋は崩壊し始めていた。
そして、天井が崩れ落ち始めた。

ナーシャの視線の先には、
床に転がる虫の息のリシェーヌがいた。

「ふーいかんな」
ふらつく足どりで、彼女の下に向かった。
リシェーヌに近づくと、ナーシャは重い身体に
鞭を打ち、ポケットから小瓶を取り出して、
リシェーヌに振りかけた。

少し意識を取り戻したリシェーヌだった。
「ナ、ナーシャ様」

「ちっ、勇者候補がこんな程度のことで
泣じゃくりおって、今代の候補は情けない」
ナーシャは膝をつくと、リシェーヌに
覆いかぶさった。
天井の崩落が止まることを知らず、彼女たちを
襲った。
ひっきりなしに石、ガラスや木材が落ちて来た。

リシェーヌは、意識を繋ぎとめて、何とか伝えた。
「逃げててっ、ナーシャ様。わっわた、助かりません」
ナーシャは優しくリシェーヌを包んだ。
それはリシェーヌにとって心地よいものであり、
必死になって繋ぎとめていた彼女の意識を
ゆっくりと夢の世界に誘った。

「安心して、少しの間、寝ていなさい。
いずれ猛き英雄があなたを迎えに来ます」
不揃いでまだら模様になってしまった
リシェーヌの髪を優しく撫でながら、
最後の力を振り絞って、リシェーヌと
最も親和性の高い『風の踊り子』を詠唱した。
そして、詠唱が終わるとナーシャもまた、
意識を失った。
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