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159.凱旋3

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 東方の修羅の国より現れし、剣豪。
数少ないS級のクラスの冒険者。
HRで唯一のS級であるが、
その実力・功績は他のS級に何ら遜色がない。
お金大好き、女というよりエロ大好き。
懐柔はそのどちらかが有効。
称号のお陰で実年齢より相当、若い身体を保っている。
面倒事が嫌いな割には、面倒事に
首を突っ込むことが多く、
変わり者が多いS級の中では、義理人情に篤い。
各ギルドには現れてもその存在を秘匿するように
本人から固く言われている。

 誠一は、口をポカンと開けて、
オニヤを見つめてしまった。

その後のギルドから発したテルトリアの大騒ぎは、
大変なものであった。
世に聞えたS級の冒険者の登場、
エスターライヒ領の魔物の跳梁跋扈を
解決に導いた若き冒険者たちと領主の息子たち。

領内の淀んだ空気は、一気に雲散霧消してしまった。

「大変な騒ぎになったよな、アル」
ヴェルが連日の騒ぎを他人事のように誠一に話した。

街には、長子であるアルフレートと
次男のラムデールを讃える声で溢れていた。

街で幅を利かせていたチンピラの撃退に始まり、
上位魔人の討伐、魔物の撃退とその勇気と力は
領内に喧伝されていた。

「リゲルは、僧院で一生を過ごすことになりそうだ。
幽閉といった方がいい」
モリス家の商館を尋ねたラムデールが
誠一たちに説明をした。

「そうか、そうなるか。
ラムデール、君はこれからどうするの?」
誠一はラムデールの今後を気にしていた。

「王都で騎士の養成学園に入学の予定だ。
少し遅いが、仕方あるまい。
後に残す弟と妹が心配だが、家長の指示だからな」

あまりにも物事が流れる様に進むため、
誠一は、オニヤの暗躍を疑ってしまった。

「それとだ、何故か先生も一緒に
王都の屋敷に向かうらしい。
理由はだな、エスターライヒ家の子弟を
育てるためだそうだ」

全ては先生の手の平の上ということか、
誠一はそう思い、嘆息した。

恐らくリゲルの才に早々に見切りをつけ、
ラムデールを嫡子にするためにリゲルの評判が
地に落ちるまで領民への横暴には
目を瞑っていたのだろう。
エスターライヒ家の悪評、
それを颯爽とエスターライヒ家の庶子が覆す。

至ってシンプルで分かりやすい構図であった。
廃嫡された誠一というイレギュラーはあったが、
将来の伯爵家のことを考えれば、誠一も利用することは
悪手ではなかった。

「気に入らないな」

ヴェル、シエンナ、そしてラムデールが
王都への戻りの件を話している傍らで
誠一は、低い声で呻った。

「どうしたのアル?珍しく額に皺がよっているわよ」
シエンナの指摘で慌てて、表情を崩す誠一だった。

「何でもないよ」
と言いつつも誠一は釈然としない感情を
上手く処理できなかった。
策として、非常に有効で効率が良かっただろう。
しかし、それで賞賛されている誠一は、
犠牲になった領民のことを思うと
やるせない思いが込み上げてきた。
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