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169.新学期1

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休暇が終わり、魔術院が始まると、
誠一たちの話題で魔術院は大騒ぎであった。
高等部の学生ですら、話を聞きに中等部のクラスへ
来るほどであった。
 そんなクラスの喧騒を苦々しく見つめる男がいた。
例年なら、中等部一年目のこの時期に
トロルやホブゴブリンを倒し、冒険者のランクが
D級となれば、誰もが尊敬と羨望の眼差しを
送るはずであった。
しかし、ランクC級、オニヤの助力があったとはいえ、
上位魔人撃破、凄まじい数の討伐数といった魔術院開校以来の
快挙の前に彼の実績は霞んでしまった。

普段なら、講義の合間に誰しもが魔導書を開き、
勉強しているため、ページを捲る音が講堂に
響くだけであったが、今日は違っていた。

「そこで、アルが気合の一撃をメイスで振るったのさ!
だが、アルの一撃が弾かれて、大ピンチ」
筆を片手に大きく振り回している男がいた。

隣で耳栓でもつけているのか、この喧噪の中でも
魔導書を読んでいるシエンナだった。

たまにヴェルがぶつかり、都度、睨みつけられていた。
しかし、ヴェルは全く気付かずに続けていた。

「ヴェル先輩はそのとき、どうしてたんですか?」

「ん?俺か?俺は、その時、トロルやボブゴブリンの大軍に
阻まれていたが、アルのピンチに駆けつけて、
俺の必殺の一撃でアルを救ったのさ」

初等部の学生は無論の事、高等部の学生ですら、
この言葉にざわめいた。
中等部の一年目にして、既にオリジナルの技、
もしくは魔術を生み出している。

そのことに講堂の騒ぎに拍車をかけていた。

女の子の1人が憧れの視線をヴェルに送りつつ、質問した。
「ヴェル先輩のその技は何というのですか?」

複数の憧れの視線を感じ、ヴェルも
満更ではなさそうに頬を緩めながら、答えた。

「俺の専用武器ハルバートに炎を宿らせて、
全身に炎を纏い、敵へ突撃する炎系の技だ。
魔術と槍術に高いスキルを要する非常に危険な技だ。
下手すれば、その炎で自分を焼いてしまうからな」
高等部の学生は、驚きの表情で、
初等部の学生は憧れと尊敬の眼差しをヴェルに送っていた。

おおっ盛ってる盛ってると話を聞きながら、
誠一は苦笑した。

シエンナは眉間に皺を寄せて苦々しい表情を
魔導書で隠していた。
耳栓をしてもこの喧騒は防げないのだろう。

「なんか話を聴いていると、アルフレート先輩は
まだしもシエンナ先輩はおまけみたいなかんじですね」
悪意のない無邪気な後輩の言葉にシエンナの眉間が
引き攣った。

それ以上にヴェルの顔が強張っていた。

机に叩きつけられる魔導書の音が講堂に響き渡る。
遠目で聞き耳を立てていたファブリッツィオまでも
その音にびくりとなっていた。

当然、誠一たちの周囲は一瞬で静寂に満たされた。
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