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316.IFの世界編 誠一の選択肢2

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がさっがさっ、明け方、木の枝を掻き分ける音が微かに聞えた。
誠一は慌てて起きると周囲を観察したが、何も見当たらなかった。
しかし、音は次第に大きくなっていった。

 誠一は身を顰め、息を殺した。
音は次第に大きくなり、また、小さくなっていった。
音の消えていく方には確か洞窟があった。
恐らく冒険者が依頼を受けて、小鬼の討伐に向かったのだろう。
しばらくすると派手な爆音と叫び声、怒号が聞えて来た。
会敵すれば、確実に殺されると思い、その場を去ろうとした。

『観察しろ。今の状況を観察しろ』
脳に逆ら得難い声が聞えた。誠一は愕然とした。
魔物もプレーヤーがつくことが出来るとは知らなかった。

「ぐっ」
誠一にはこの命令に逆らう術はなかった。
慎重に移動して、彼等を観察した。

小鬼たちと冒険者たちの実力には冠絶した差があるようであった。
冒険者たちは無傷で小鬼を殺していた。
洞窟の入り口に立ち塞がるように冒険者たちは展開しており、
這いだす小鬼を確実に仕留めていた。
かなり遠目から観察していたにも関わらず、
弓兵の女性と視線が交錯した。
咄嗟に誠一は這いつくばり姿を隠した。
一本の矢が誠一の頭上を通過して、木に刺さった。

「やばい、見つかった。逃げなきゃ」
這いずりながら、洞窟から離れようとした。
プレーヤーの声は聞こえなかった。

逃げながら、冒険者たちの方へ目を向けると、
黒いローブを羽織った魔術師から巨大な水球が洞窟に放り込まれていた。
その水圧に耐えられずに洞窟は崩れ落ちた。
金髪の騎士風の青年が剣をこちらに向けていた。
槍の様なものを持った男が頷くと、こちらに向かってきた。
それは逃げることは敵わぬ速度であった。
何とか隠れてやり過ごすしかなかった。

兎に角、身を隠すために誠一は這いまわった。
誠一が動くたびにかさかさ、枯れ木の擦れ合う音がしていた。

「おいおい、待てよ。
魔物とはいえ、仲間を犠牲に逃げるのはちょっと、ださいぞ」

「んんっ。ガキか、まだ、俺らの言葉は理解できないな」

その声、その姿、その武具に誠一は見覚えがあった。
その成長した姿に誠一の知る面影があった。
もしかして、転生した先は数年が過ぎているのかもしれない。

「アルの希望だ。お前は捕獲するが、抵抗するなよ。
無用に四肢は落としたくないだろう」

その言葉に誠一は疑問を感じた。
なぜ、自分だけ?なぜ、ここが分かった?なぜ、なぜ、どうして?
無限に湧く同じような疑問に答えが返ってくる訳もなかったが、
無意識に言葉が出ていた。

「ヴェル、何故?」
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