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374.打ち上げ4

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「いや、グロウさん。僕は魔術師ですから。
それにヴェルとシエンナもヴェルトール王国の魔術院で学ぶ仲間です」

「そのことは知っているが、ファウスティノの下で学ぶ魔術師は
真っ当な魔術師じゃないだろう。どこか宮廷魔術師共と違う。
会う奴会う奴、どうにも変わり者が多い。
おまえらも魔術師のくせに槍やメイス、杖を振り回すだろ。
まあいい、それより陛下の差し入れのこの酒、旨いな。
ロジェ、呑まないならよこせ」
グロウは良い具合に酔っているのか、悪意は感じないが
傍若無人な振る舞いが増えてきた。

そして、その振る舞いが多くなるにつれて、再びアミラの表情が曇った。
「グロウ、その酒はこの国への客人に振舞うためのものじゃぞ。
さてさて、お主、一人で呑み干したとなると、一体どうなることやら」
宰相の言葉を聞いた瞬間にグロウが酒瓶を持ち、
ロジェやキャロリーヌにしつこく進め始めた。
どうにもグロウは酒癖が悪いようであった。
誠一たちに酒を強要したり、一気飲みを強要しない分、
マシな部類にはるのかなと誠一は楽しそうに眺めていた。

アミラにはヴェルが何かささやいていた。アミラの表情がぱっと輝いていた。
そして、何かをせがむようにしていた。ヴェルは照れた表情で話し出した。
どうやら魔術院の話をしているようであった。
グロウとロジェの酒の激論で良く聞こえなかったが、
どうやら酒の話をしているようであった。
シエンナは、要所要所でヴェルに突っ込みを入れているようであった。
それに一々反応して、アミラがどちらを信じていいのやら
二人の間をきょろきょろしていた。
キャロリーヌは宰相と意外と真面目に国政の話をしていた。
杯の進むペースはこのメンバーで最も早いが
酔った雰囲気はなかった。
ほのかな桃色に染まった肌が普段と違った色気を醸し出していた。

 誠一は仲間とこうして食べ騒ぐことが楽しかった。
「ああ、楽しいな」
誠一がぽつりと呟いた。それは誰に向けた言葉でもなく独白であった。
しかし、ヴェルはその言葉に反応した。
「おい、アル。なんだよう、急にどうしたんだよ。
おれはおまえといて、いつも楽しいぞ」

ヴェルの言葉はいつも表裏が無く直球だった。
だからこそ、誠一はその言葉通りに受け取った。

「アル、どうしたの?」
シエンナは心配そうであった。

「ごめんごめん、しんみりさせるつもりはなかったけど。
本当に何かひさしぶりに気が抜けたというか、
リラックスできた気がするよ」
次から次に求められる重い決断、本人も知らぬうちに心を蝕み、
疲れさせていたようだった。

「アルフレートさんは真面目過ぎなのです。
もっとうちの父のように周りに放り投げればいいのです」
ヴェルから誠一の話を聞いていたアミラが率直な感想を述べた。

「まあ、みんなには十分に助けられているけどね」

「もっと甘えてもいいわよ。なんていっても婚約者なんだから」
誠一の隣で身を寄せるキャロリーヌであった。
反対側では、シエンナが対抗心を燃やして、
恥ずかしさを押し殺して身を寄せていた。
何故か酒を呑んでいないのに真っ赤であった。

ヴェルが笑っていた。
歳上の二人の女性の行動を目の当たりにして、
何かを閃いたかのような表情でヴェルに抱き付いたアミラであった。
それを見たグロウが酒を盛大に噴いた。

宰相とロジェは苦笑いをしていた。
本当にヴェル、シエンナ、キャロリーヌ、ロジェに出会わなければ、
他の召喚者と同じように世界に絶望して、
闇堕ちしていただろうと思い、彼等との出会いに感謝していた。
彼らのとの出会いのきっかけは、リシェーヌであった。
彼女のがこの場にいないことに一抹の寂しさを感じつつ、
もしリシェーヌがいたら、席を巡ってどのような争いや暗躍が
あったことやらと思ってしまった。

これは少し自信過剰かなと思い、誠一は苦笑いをした。
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