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424.閑話 とある決意の情景2

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 午後からの総務・経理部の雰囲気は最悪であった。
飄々と仕事をするのは清涼のみであったと言っても
過言ではなかった。
坪内の態度が雰囲気と言動が悪くしているのは、
明白であったが、清涼は注意するでもなく放置状態であった。
 二日目も坪内の態度は相変わらずで、雰囲気は最悪の状態を
継続中であった。喫煙所で男性社員が愚痴を話していた。

「いやはや、息が詰まるな。ホント、参ったよな」

「ホントだよな。まあ、しかし業務に遅れがないのが不思議だよ。
島崎と違った意味で清涼さんも異常だよ」

「まあ触らぬ神に祟りなしだな。
下っ端は睨まれないように嵐が過ぎるのを待つしかないな」

聞くつもりはなかったが、喫煙所を通りかかった千晴の耳に
自然に入ってしまった。清涼に伝えるべきか否か非常に悩んでしまった。
会社で伝える訳にもいかず、もやもやとした気分のまま、帰社した。
 
 夕食を取ってももやもやした気分が晴れずに
『ヴェルトール王国戦記』にログインした。

晴れやかな舞台で誠一とキャロリーヌがダンスを踊っていた。

「わあ、綺麗」

二人の織り成す舞踊は、決して洗練されはいなかったが、
美しいその様は、見る人々を魅了していた。
無論、千晴もその一人であった。
ここで声をかけるのは無粋かなと思い、
ゲーム画面をモニターするに留めた。
暫くすると、踊りは終わった。千晴の気分は少し晴れていた。
そのまま、画面を見ていると、魅力的な声で
誠一を讃える詩が聴こえてきた。
先程の美しい声の空疎な詩とは打って変わって
心に響く詩であった。
しかし、千晴の前で展開される誠一とキャロリーヌの掛け合い漫才のような
言い合いが雰囲気をぶち壊していた。

「ぷぷっ。まったくもう」

千晴は画面の前で笑転げていた。

詩が終わったが、誠一とキャロリーヌのお笑いの言い争いは続いていた。

『アル、あなたの今まで人生が称賛されているのよ。
そんなにしかめっ面しないで。
ヴェルナー・エンゲルス、シエンナ・モリス、
ロジェ・エンゲルス、サリナ、リシェーヌ、
そしてキャロリーヌ・エンゲルスは、あなたのことを誇りに思っている。
だからこの詩も誇りに思っているし、この賛辞も受け入れている』

キャロリーヌのこの言葉を聞いた時、千晴の笑いはピタリと止んだ。
いいな、羨ましいな。自分にはそんな仲間も友人は一人もいなかった。
そのうち偉そうな若者が現れて誠一と何かやり取りをしていたが、
千晴は画面から目を離して、閉じていた。

「よしっ」

一声、気合を入れる言葉を発すると、
千晴は、清涼とのチャットルームに入室した。
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