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494.使節団7

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 使節団の正使と副使は誠一たちの帰参を確認すると
盛大にため息をついた。
戻ってこないことを期待していたことはヴェルですら
察することできた。

「ふううううぅ、戻って来たか。
そのまま王都に戻っても良かったのだぞ。
もしくはそのまま出奔しても良かったものを」
正使の言葉を受けて、副使が続けた。
「君も分かっているだろう。
使節団にとって君と言う存在が非常に厄介だということを。
まったく糞真面目にその白い鎧を着てからに」

そう言われても女王自らの指示に逆らう訳にはいかなかった。
後々、どこからか話が漏れてしまえば、
めんどくさいことになるのは明確だった。

「女王様から下賜された鎧ですし、女王様のご希望です」
短い言葉のみを残して、誠一は隊列に戻った。
隊列に戻る間も使節団員の冷たい視線を一身に受けた。

「まーしゃなしだな」
誠一は一人心地に呟いた。
自分が彼等の立場であっても同じ気分になっていただろう。
だからと言って、誠一は妥協することを拒んでいた。
そのままぎすぎすした雰囲気のまま、使節団は北関の正門に到着した。

「ひっひいいい」

「なっなんだよアレ」

「助けて無理無理、殺される」
使節団は北関の正門を前にして、大混乱に陥っていた。

使節団員たちの顔は真っ青だった。

正門の両脇には、ヴェルトール王国騎士団の遺体が
無造作に転がされていた。
腐り始めている死体からは鼻を劈く様な異臭が漂っていた。
鎧に残る家紋から貴族や名のある騎士も混じっていることが窺えた。

異臭に耐えながらも正使が言上を述べるが、
北関からの反応は全く無かった。

「一体、どうしたら良いのだ」
無反応な反乱軍に正使はどうしていいか分からずに
右往左往していた。

「ここは面識のあるアルフレートに任せては如何でしょうか?
我々は成り行きを後方で見守りましょう」

他に代案も浮かばず、さりとてこの場に留まるのも
気が進まずに副使の案に正使は賛成した。

「そうだな。そうしよう。
亡くなった者たちへのこのような振る舞い。
反乱軍を決して許すことはできない。
我々は生きてこのことを伝えるために故国へ戻らねばならぬ」

使節団は北関よりかなり後方に下り、誠一たちを改めて北関へ向かわせた。

誠一は顔を顰めながら、正門に向かった。正門は開いていた。
正門の中央には誠一たちに馴染み深い男が立っていた。

「よくもまあ、顔を出せたものだな。
自分だけは殺されないとでも思っておるのか。
貴様の目に映る死体を見ても身の危険を感じないとはな」

頬がこけて、痩せ細った蒼白い顔に目が浮き出ていた。

「短い間だったが、貴様との腐れ縁もここまでだ。
ふん、びびって何も言えぬか。所詮は廃嫡されたこものだな」

声はしゃがれて、全身が小刻みに震えていた。

「停戦だと。あり得ないことくらい承知で、ここを訪れるとはな。
小才の働く小僧だと思っていたがとんだ間違いのようだった。
ここで死んでおけ小僧」

カラカラと狂ったように笑い続けるレドリアン導師だった。
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