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615.鍛冶師18

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ラッセルの目はテーブルの上に置かれた魔石から
離れることはなかった。
呻きながら、絞り出すような声でラッセルが話し出した。
「むう、むむっ、これほどの魔石。ううっ始めてみる輝き。
これらもその上位魔人の魔石でしょうか?」

「いや違うでござる。下位魔人と特異種であったでござる。
まあ、用事のついでに取って来たでござる」

飄々とした表情は変わる事がなかった。
誠一の内心は、この剣豪の行いに驚きでいっぱいであった。
売れば値千金の価値が付けられるような魔石であった。
遊興費欲しさによくもまあ、売らなかったものだという
重いが誠一の心に浮かんだ。
感謝しつつも若干の疑念が心に生じている誠一であった。
一方でヴェルとシエンナは素直に感謝・感激しているようであった。

「先生、ありがとうございます」

「先生、そのあのありがとうございます。
俺、ちょっと先生のことを誤解していたわ」

2人の言葉を聞いて、誠一も慌てて、お礼を述べた。
「先生、ありがとうございます。只、いいんですか?
このような高額な魔石を頂いても?」

「むっ特に気にしなくていいでござる。
欲しい情報は頂けましたので」

恐らく『神隠しの山』での件を言っているだろうと思い、
誠一も遠慮なく貰うことにした。

「アルフレート様、これを扱わせて頂けるのですか?」
魔石に魅入られたのか、ラッセルが酔っているかのように
ふらふらと手を伸ばした。

バシッ。

激しい音が魔石に伸ばしたラッセルの腕より聞こえた。
「ラッセル、職人が扱う素材に魅入ってどうする。
お客様の前で情けない姿を晒すな」
カーリーがラッセルを叱咤した。我に返るラッセル。
「あっ、これは失礼いたしました。
あまりにも幻想的な素材についつい。
皆さん、ご心配なく、私一人で加工する訳ではありませんので」

流石にアレな姿を見せたラッセルが自信満々に語ったなら、
疑惑の目をラッセルに誠一たちは向けただろう。
しかし、カーリーと共にならば、大丈夫そうだ
と思い誠一は改めて、ラッセルに依頼した。

「ヴェル、私はこれがいいです。
将来、両方の手甲に魔石を取り付けるです」

 手甲に取り蹴られた短い4本の鈎爪が刺突、
引っ掛けて敵を傷づける鉄鋼鈎。
それを手に取り、武骨なフォルムに目を向けて、
真剣に機能を確認するアミラだった。

「おっいいんじゃねえか!
ラッセルさん、アミラの手に合うように調整を頼むわ」

「その手甲は手に装着すれば自然とその手に合わせて
伸縮する様に細工してあります。どうぞ、はめてみてください」

鉄鋼鈎をはめたアミラがぶんぶんと腕を振るってみた。
どうやらその感触に満足したようだった。
「今日、持ち帰ってもいいですか?」

鉄鋼鈎をはめたアミラの手を取って、
ラッセルは入念にその状態をチェックした。
「いえ、お渡しはアルフレート様たちの武器の引き渡しと
同じタイミングさせて頂きます。微調整をしたくお願いします」

少し残念そうな表情のアミラだったが、素直に従った。
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