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650.温泉再び5

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温泉に浸かりながら、シエンナはぼんやりと
考え事をしていた。
「あーあーこれからどんな顔をしてアルに会えばいいんだろ」

考え事をしていると、知らぬ間にづりづりと身体が沈み始めた。
顔が半分ほど湯に浸かると、シエンナは、ブクブクと泡を
口から出してしまった。

「ぷっはっー危うく溺れるところだった」

シエンナは勢いよく立ち上がった。温泉の湯が派手に踊った。
湯煙の先に人がいたようで、小さく叫んだ。

「あっすみません」
シエンナは慌てて、謝って、湯船につかった。

「全くシエンナらしからぬ行動ね」

湯煙の中から現れたのはキャロリーヌだった。
ううっ綺麗過ぎて圧倒される。
10年後も同じように綺麗なんだろうなと思いながら、
ジト目でキャロリーヌを見た。

 胸のサイズは同じか自分の方がやや大きめのはずなのに
それが何のアドバンテージにもなっていないことを
まざまざと見せつけられた。
張りのある形の良い胸、均整の取れた身体、
頸れた腰つき、同性の自分から見ても
惚れ惚れするスタイルだった。
それに比べて自分ときたら、全体的に丸みがかかっており、
樽のようだと思ってしまった。

「ちょっとシエンナ。そんなに凝視しないでよ。恥ずかしいじゃない」

「むー美人は得だよね。
どんな場所でも絵になるし、好きな男子も容易に靡きそう」

「ちょっとシエンナ。何を言いだしているのかわからないけど、
あなたも十分に魅力的よ」

圧倒的な美人に言われために上から目線で言われたと思い、
シエンナはむくれてしまった。
大人びているとはいえ、シエンナは、歳相応の感情を発露させた。

「はあ、全くもう」
呆れたように嘆息すると、キャロリーヌは
シエンナの後方に素早く回り、身体を密着させた。

「あれだけ鍛えてもこんなに柔らかくて
気持ちいい身体って反則じゃない。
私なんて、かなり筋肉質でしょう。
男性はこんなふうに触り心地の良い女性を好むわよ。
昨晩のアルもそうだったでしょう」

シエンナは自分の周りだけ、熱い筈の温泉が
氷の様に冷え冷えしているように感じた。

そして謎の奇声を発した。
「ふぁっ。なんののおおぉことです」

「ぷっ。可愛すぎるわ」
キャロリーヌは更にぎゅっとシエンナを抱きしめた。
「随分と頑張って二人とも声を抑えていたけど、
聞こえていたわよ。
まったく何度、嫉妬で邪魔してやろうかと思った」

「ひゃっ、そっそのそれ。すみません」
幼児化してしまったようで、シエンナは感情を
上手く言葉にできなかった。

「さてと、これ位にして、次はアルをいじめに行こうかな。
シエンナ、長湯は身体に悪いわよ」
シエンナは脱衣所に向かうキャロリーヌの後ろ姿を見送った。
恐らく自分の気持ちをそれとなく察しての
態度だったのだろうとシエンナは思った。

シエンナは憧れの女性を見るような気分で
キャロリーヌの後ろ姿を見つめた。
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