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664.氷竜9

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氷竜は足下に目を向けた。
目に映る己の血をまるで他人のモノの様に感じていた。
しかし、何百年振りに感じる痛みは、本物であった。
氷竜は久々に感じる痛みに悲鳴を上げるどころか、
雄叫びを上げた。

「ごおおおおっ」

「チッ、これだけの傷を受けて尚、
悲鳴どころか咆哮って、竜ってのは本当に化物だな」

「ヴェル、一旦、後退だ。キャロの大技が落ちる」

ヴェルも凄まじい気力を後方から感じていた。
氷竜も淀んだ雲の方へ目を向けた。

キャロリーヌの凄まじい気力が周囲を支配した。

「一本の矢よ。その矢尻へ神の拳を顕現させよ。フォストゴッテスっー」

放たれた矢は、灰色の雲切り裂き、青き空を開放し、
天に突き刺さらんとする勢いであった。
空に消えた矢は、神の拳を引き連れて、
氷竜に向かって降下を始めた。

遠目には、矢の周りに発生している気流が
見えたであろう。
気流は巨大な拳を形作り氷竜に向かって
振り下ろされるように見えた。

「ふむあれが弓神に愛されし娘の技か。
確かにその言葉に偽りなしだな」
マリアンヌは巨大な拳を見ながら感心した。

「まあ、以前はアレ一発でヘロヘロになって役立たずでござった」
剣豪がからからと笑った。

剣豪の寸評の聞えたキャロリーヌは剣豪を睨みつけた。

流石の氷竜もこの技をまともに喰らえば
まずいと感じたのだろう。
回避しようと動こうとしたが、右前足が痛みで
思うように動かず、回避が遅れた。
その結果、直撃は避けたが、
相当な傷を背に受けてしまった。

度重なる痛みは、深く眠っていた氷竜の鋭敏な感覚を
覚醒させた。実に何百年振りのことだろうか、
氷竜は今までとは比較にならない程の叫びを上げた。
そして、吹雪を巻き起こした。

 左前足の爪が誠一たちを引裂かんと襲いかかり、
竜尾が鞭の様に撓って誠一たちを叩き潰そうと暴れまわり、
鋭い牙が誠一たちを咀嚼して噛み潰そうと近づいた。
竜の咆哮は大地を震わせ、青空より舞い落ちる雪を
吹き飛ばした。
木々に積もる雪は降り落ちた。
遠くの山で雪崩が起きたこと知らせる激しい音がこだました。

「流石は1000年の時を生きた竜でござる。
なるほどこの寒さ本物ですな」

「いやいや、剣豪殿。寒さは関係ない。
何がどうなればそう言う感想になるんだ」
誠一たちが前線で戦っているために
剣豪への突っ込みはどうやらマリアンヌが
担当しているようであった。

「まあいい、それよりそろそろ参戦すべきではないのかな」

「いや、御免被りたい。寒いでござる。
かまくらでも作ってぬくぬくと観戦するのが上策」

マリアンヌは額に手を当てて大仰に天を仰いだ。
「流石に全力となった氷竜が相手では、
アルフレートたちだけでは荷が重いだろう。
それにあの竜を倒した時の経験値は旨いぞ」

マリアンヌは直立不動を取り、神剣召喚の儀を始めた。

「我が名はマリアンヌ。神より下賜された剣、ここに顕現する」

マリアンヌは右手を身体の中心に当てると
身体の中心より現れた剣の柄を握り、剣を引き出した。
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