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番外編 デート

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※温泉宿を出た後、車が到着するまで近くの喫茶で待つ二人のデート小話。


* * *





昼間っから温泉を堪能した後はいよいよ鬼崎家への帰宅だ。しかし迎えの車が来るまで時間がかかるらしく、その到着を待つ間二人は宿の女将のすすめで近くの喫茶に入ることにした。(もちろん雪路は外で抱き上げられるのだけは断った。)
『車はここで待たせておきますので、どうぞごゆっくり過ごしてきてください』
宿の女将はよく自身の客を理解していただけでなく喫茶に連絡を行っていた。店に到着するなり、どことなく女将と似た顔をした女店主に真斗と雪路は店の離れへと案内された。

のだが…



「雪路。いつまでメニュー表と睨めっこしている?」
「え!?あ、その…」

確かに珍しい西洋風のお洒落な外観で、窓から見える庭園も立派だ。豊富な食事メニューにお茶の種類には好奇心がくすぐられる。

(でも、高いよ!!)

女将は真斗様ならばこの茶屋に相応しい方だって判断したみたいだけど、俺の存在を忘れられては困る。
食事抜きでこの価格には驚いた。出来るならお茶だけ頼んで済ませたいのだけど俺にかかった治療費と宿代。さらに食費だけでなく交通費、此処でのお茶代…もう考えたくないよ…

「りょ、緑茶をお願いします」
「分かった。ところで、お前はクリームというものに興味はあるか?なるほど、ここのあんみつは他にも餡子増しや白玉を追加できるらしい。雪路ならどうする?」
「は、はい??」

真斗様が、あんみつを?珍しい。

「なにお前がいつも菓子を喜んで食べるからな、俺も少し試してみようと思っただけだ。それで、どう思う?」
「どう思うと言われましても…、えぇっと」

真斗様は甘いものはお好きでなかったはず。
白玉に寒天、餡子、く、クリーム…ってなに?栗を使ってるんだろうか?
普段口することをしない甘味であっても、俺より真斗様の方が色々詳しそうな気がするのだけど… 

「あ、餡子は多めがいいと思います」
「ふむ。こし餡と粒あんがあるらしいが?」
「どちらもいいと思いますが、私は粒あんの方が甘さを感じる気がします」
「なるほど。なら粒あんにしようか」

(!!やはり真斗様は酷くお疲れなんだ…)
だから、こんなにも甘いものを欲されているんだ。
屋敷で手伝いに勤しんでいた時、使用人長の田中さんから何度も休むよう言われて、さらにお菓子を頂いたことがある。田中さん曰く、疲れた脳と体には休息だけでなく甘いものが必要なのだと。
なるほど、あの優しさは真斗様の心得があってこその気遣いだったのですね。

ならば、今の真斗様には甘さ控えめよりむしろ甘すぎるくらいがよいかもしれない。

「寒天に黒糖、このクリームもいいかと思います!」




そして数分後。大きめの茶碗くらいの器にたっぷり盛られた"クリームあんみつ"と呼ばれる和と洋が一緒になった、それも甘味と呼ぶにはあまりにも贅沢な食べ物が運ばれてきた。

「ほら、雪路。これはお前のモノだ」
「へ!?」
「お前と甘味について話をするのは楽しかった。これは礼だ」

う、嘘でしょう!?
どうしよう!?真斗様が食べるものとばかり考えていたから…

「そっ、総額のことを考えたら喉を通る気がしません…」
「なるほど。それはいい事を聞いた。それなら今後は金額の載ってない店に連れていくか」
「!!!」
「冗談だ。それよりせっかく頼んだんだ、今は気にせず好きに食事を楽しめばいい」
「……あ、ありがとうございます」

ま、まんまと罠にはまった…。
真斗様から恐る恐る、遠慮気味にも受け取る器。実に綺麗な盛り付けだ。
餡子も白玉もキラキラしていて、食べるのを勿体ないと思う反面ごくりと喉が鳴った。

「―――!!」

お礼と頂きますを言って口に含んだ瞬間、んん~~!っとあまりの至福に体が震えた。

「うまいか」
「~~~~~~はい!こんなに美味しいものはじめて食べました!」

甘くて冷たくて、すっごくおいしい!
ちゃんと味わって食べたいのに、どうしよう。スプーンが止まらない。

「初めて食べました。この雲みたいな、白くてふわふわしたもの…、口の中で溶けていきます」
「クリームか。そんなに気に入ったのか」

笑う真斗様を見て、俺は不思議な光景だとふっと我に返った。
不思議だ…。
昨日まであんなに死ぬ思いをしたのに今日は心が穏やかで幸せで…、当たり前のように真斗様が目の前にいるのが奇跡としか言いようがない。

「おいしい、おいしいです、真斗様もどうですか!?」

俺が独り占めなんて勿体無い!それに真斗様だって気に入るんじゃないだろうか!?
そう思ったら居てもたってもいられなくて一口サイズに盛ったあんみつを真斗様へ差し出していた。

「雪路、それは…」
「は、はしたなかったですか!?す、すみませ、!」

慌てて手を引くよりも先に真斗様がぱくりと当然のように食べてくれたのだから驚いた。

っ、っ、っ!!?!? 食べた!?!?


「~~~~っ」
「なんでお前が恥ずかしがっている?」

だっ、だだって、自分の大胆すぎる行動が信じられなくって…!

「っ、そ、そろそろ車が、来たかもしれませんね」
「そうだな」
「あ……あの、真斗様?もしかして店内は熱いですか?お顔が赤いような気が」
「あぁ、そうだな。少し風に当たってくる」

構わず、お前はゆっくり食べてろ。
そう言い残して真斗様は離れを出て行った。


(よ、よかった…)

こんなこと思っちゃダメなのに真斗様が席を外してくれて助かった。
だって、これは間接キスと呼ばれるものだ。
真斗様が使ったスプーンを俺が口にするのはとても、その…恥ずかしくてしょうがないのだけれど…

背徳感からドキドキと心臓がうるさい。


「真斗さま…、」


ここが離れでよかった。
きょろきょろと誰の目もないことを確認してから、そーっとスプーンに軽いキスした。




ーーーーーーーーー


end
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