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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第048話 交錯する思惑⑤
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「……何だと? 魔物に喰われた人間が現れた……だと?」
この日の夜、家に戻ったリリアは先に戻っていたツグナから聞かされた話に真面目な口調で聞き返した。
「あぁ。丁度師匠を送った直後くらいかな。俺のスキルが魔物の気配を察知したんだ。ただ『反応がいつもの魔物より弱い』って思ってたんだけど……それは実際に相対してみて分かったよ」
「――浸食、か」
ポツリと呟かれたリリアのセリフに、ツグナは黙したまま頷いて話を続ける。
「おそらく、反応が弱かったのはその浸食率が100%に達していなかったからだとは思う。分析官のフランが言うには、魔煌石が埋め込まれた人間は、その石の所有者であった魔物に『喰われる』んだそうだ。その喰われることを浸食と呼び、その浸食率が上昇するにつれて『魔物化』が進行するらしい。実際、今日倒したナイトオーガは、浸食率が9割を超えていた。そこまで魔物化が進んでいたからか、もう外見は魔物そのものって感じだったよ」
「……それにしても物騒極まりない話ね。この地球で魔物が出るなんて知られたら……それこそパニックになるわよ」
二人の会話に紅茶とコーヒーを淹れたカップを持ってきたシルヴィが混ざる。トレイに置かれた三人分のカップを配り終えた彼女に、リリアが口を開いた。
「それもそうだが……より気になるのは、その『魔物化』という現象そのものだな。ツグナの話にある『魔物化』とは、今では禁忌とされた実験だからな」
「っ――!? 禁忌とされた実験っ!? それって……」
言葉を詰まらせ、目を見開いて驚くツグナに、リリアはカップに入った紅茶を嚥下して続きを話し始める。
「あぁ。ツグナの言う通り、これは何者かが意図的に仕組んだことだろう。常識的に考えれば、それまで魔物の身体の中にあったものを、わざわざ自分の身体に取り込もうとする愚かな奴はいないからな。それで、話を戻すが、この魔物化の実験は、大昔に実際に行われたものらしい。私も偶然目にした古い文献で知った程度だがな。その文献によれば、かつて魔物が今以上に跳梁跋扈していたらしく、魔物による被害や死者が多かった。そこで出てきたのが『魔物の力で人間を強化できないか?』という発想だ。このコンセプトを基に、魔物の力を取り込むための様々な実験が行われた。ツグナが目にした『魔煌石を体内に取り込む』というのも、この実験の一つだ」
「……それで、結果は?」
ツグナは内から湧く苦い思いをカップに入ったコーヒーと共に一気に飲み干し、リリアに訊ねる。
「お前も大方予想はついているだろう? 実験は全て失敗。魔物の力を取り込んだ人間は、その力を制御することはできず、軒並み『魔物化』が進行し、魔物そのものへとその身を堕としていった。以降、研究者の間ではこうした類の実験は禁忌とされ、現在まで至る――というのが歴史的な背景らしいな」
「……皮肉なもんだな。魔物を倒すためにその力を取り入れようとした人間が、逆に魔物に取り込まれちまったなんてな」
話を聞いてポツリと呟いたツグナの言葉に、カップを傾けたリリアが「……そうだな」と同意する。
「ちょ、ちょっと待って下さい。も、もし『過去に禁忌とされた実験』を『意図的に仕組んでいる』存在がいるなら……それは――」
ツグナとリリアに挟まれる形でテーブルの席についていたシルヴィが、血の気が引いた表情で言葉を挟む。
「あぁ、間違いないだろう。ツグナの出会った『魔物化した人間』それを主導した黒幕は――」
リリアは残っていた紅茶を飲み干し、続く言葉を口にする。
「それはディエヴスが依頼する元凶となった人物とみて、まず間違いはないだろう。人間を魔物化させるためには、その元となる魔煌石――つまりは魔物を手に入れなければならないからな。この地球には魔物と呼ばれる存在はいない。ならば……」
「どこかから連れて来る、あるいは呼び込む必要があるってことか……」
続くリリアの言葉をツグナが引き継いで口にする。彼の口から紡がれたその言葉に、シルヴィはただ黙したままテーブルの上のカップを両手で包み込むように握り、リリアは頷きながらさらに自らの見解を述べる。
「さらに付け加えるならば、この手の実験は一人では到底全ての工程をこなすことはできない。おそらく複数――もっと言えば、何らかの組織として活動している可能性もあり得る」
(……やれやれ。なんだか相当面倒なことになってきたみたいだな)
リリアの見解を耳にし、ツグナは内心大きなため息を吐いた。当初は「さっさと依頼をこなして、とっとと帰ろう」と目論んでいたツグナであったが、その目論見を大きく裏切る展開に脳裏に浮かぶディエヴスに一発ブチかましてやりたい思いが募っていった。
この日の夜、家に戻ったリリアは先に戻っていたツグナから聞かされた話に真面目な口調で聞き返した。
「あぁ。丁度師匠を送った直後くらいかな。俺のスキルが魔物の気配を察知したんだ。ただ『反応がいつもの魔物より弱い』って思ってたんだけど……それは実際に相対してみて分かったよ」
「――浸食、か」
ポツリと呟かれたリリアのセリフに、ツグナは黙したまま頷いて話を続ける。
「おそらく、反応が弱かったのはその浸食率が100%に達していなかったからだとは思う。分析官のフランが言うには、魔煌石が埋め込まれた人間は、その石の所有者であった魔物に『喰われる』んだそうだ。その喰われることを浸食と呼び、その浸食率が上昇するにつれて『魔物化』が進行するらしい。実際、今日倒したナイトオーガは、浸食率が9割を超えていた。そこまで魔物化が進んでいたからか、もう外見は魔物そのものって感じだったよ」
「……それにしても物騒極まりない話ね。この地球で魔物が出るなんて知られたら……それこそパニックになるわよ」
二人の会話に紅茶とコーヒーを淹れたカップを持ってきたシルヴィが混ざる。トレイに置かれた三人分のカップを配り終えた彼女に、リリアが口を開いた。
「それもそうだが……より気になるのは、その『魔物化』という現象そのものだな。ツグナの話にある『魔物化』とは、今では禁忌とされた実験だからな」
「っ――!? 禁忌とされた実験っ!? それって……」
言葉を詰まらせ、目を見開いて驚くツグナに、リリアはカップに入った紅茶を嚥下して続きを話し始める。
「あぁ。ツグナの言う通り、これは何者かが意図的に仕組んだことだろう。常識的に考えれば、それまで魔物の身体の中にあったものを、わざわざ自分の身体に取り込もうとする愚かな奴はいないからな。それで、話を戻すが、この魔物化の実験は、大昔に実際に行われたものらしい。私も偶然目にした古い文献で知った程度だがな。その文献によれば、かつて魔物が今以上に跳梁跋扈していたらしく、魔物による被害や死者が多かった。そこで出てきたのが『魔物の力で人間を強化できないか?』という発想だ。このコンセプトを基に、魔物の力を取り込むための様々な実験が行われた。ツグナが目にした『魔煌石を体内に取り込む』というのも、この実験の一つだ」
「……それで、結果は?」
ツグナは内から湧く苦い思いをカップに入ったコーヒーと共に一気に飲み干し、リリアに訊ねる。
「お前も大方予想はついているだろう? 実験は全て失敗。魔物の力を取り込んだ人間は、その力を制御することはできず、軒並み『魔物化』が進行し、魔物そのものへとその身を堕としていった。以降、研究者の間ではこうした類の実験は禁忌とされ、現在まで至る――というのが歴史的な背景らしいな」
「……皮肉なもんだな。魔物を倒すためにその力を取り入れようとした人間が、逆に魔物に取り込まれちまったなんてな」
話を聞いてポツリと呟いたツグナの言葉に、カップを傾けたリリアが「……そうだな」と同意する。
「ちょ、ちょっと待って下さい。も、もし『過去に禁忌とされた実験』を『意図的に仕組んでいる』存在がいるなら……それは――」
ツグナとリリアに挟まれる形でテーブルの席についていたシルヴィが、血の気が引いた表情で言葉を挟む。
「あぁ、間違いないだろう。ツグナの出会った『魔物化した人間』それを主導した黒幕は――」
リリアは残っていた紅茶を飲み干し、続く言葉を口にする。
「それはディエヴスが依頼する元凶となった人物とみて、まず間違いはないだろう。人間を魔物化させるためには、その元となる魔煌石――つまりは魔物を手に入れなければならないからな。この地球には魔物と呼ばれる存在はいない。ならば……」
「どこかから連れて来る、あるいは呼び込む必要があるってことか……」
続くリリアの言葉をツグナが引き継いで口にする。彼の口から紡がれたその言葉に、シルヴィはただ黙したままテーブルの上のカップを両手で包み込むように握り、リリアは頷きながらさらに自らの見解を述べる。
「さらに付け加えるならば、この手の実験は一人では到底全ての工程をこなすことはできない。おそらく複数――もっと言えば、何らかの組織として活動している可能性もあり得る」
(……やれやれ。なんだか相当面倒なことになってきたみたいだな)
リリアの見解を耳にし、ツグナは内心大きなため息を吐いた。当初は「さっさと依頼をこなして、とっとと帰ろう」と目論んでいたツグナであったが、その目論見を大きく裏切る展開に脳裏に浮かぶディエヴスに一発ブチかましてやりたい思いが募っていった。
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