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時間帯は深夜。この屋敷も人の気配がなくなった。リズにも早々に休んでもらっている。
部屋には手紙を残してきた。
(迷惑をかけるわけにはいかないものね。わたしが逃げ出したなんて絶対に怒られるわ)
わたしは部屋のドアをそっと開けて外の様子を確認する。
(よし、誰もいない。気がつかれないようにそっと脱出しないと……)
わたしはこの街に来たときの服装に着替えて、そっと部屋を抜け出した。悲しいことに自分の荷物は殆どない。あっという間に無理矢理連れてこられたのでほぼ手ぶらだ。
(手持ちのお金でどこかに泊まれると良いんだけど)
わたしは誰にも会わないように、気がつかれないように慎重に外を目指す。
「よし、なんとか外に出られたわ」
外の空気が気持ち良い。深夜だからか空気が澄んでいる。
一人で外に出られて開放感でいっぱいになった。
そのまま敷地の外を目指す。
(……これ、どうやって敷地の外に出れば良いの? 門までめちゃくちゃ遠いんですけど)
連れてこられたときは気が動転していたし、馬車だったのでよくわかっていなかった。ずいぶん距離がある。
(あぁ、なんかわたしの為に庭を整えたとか言ってたっけ。余計なことを……)
立派な庭を横目にわたしは必死に塀が見える方向に走っていった。
(もう無理……。休憩)
体力には少々自信があったわたしも、ぬるま湯に浸かった生活と広大な敷地のせいで息をあげていた。
「どれだけ広いのよ、この屋敷」
思わず愚痴を口にしてしまう。すると、ガサガサっと物音がした。
(誰かに見つかった? それとも侯爵様を狙う暗殺者?)
手広く商売をやっていてかなりのお金持ちだという侯爵様は色々な人から命を狙われていると聞いたことがある。
(無関係なのに殺されるなんて勘弁だわ。隠れないと)
わたしは植物の陰に隠れて身を潜める。
コツ、コツと靴音が近づいてくる。
(わたしの人生、ここで終わり? 屋敷から逃げだそうなんてしたから?)
コツ、コツとさらに音が近づいてくる。
(これって確実にわたしの方に近づいてきているわよね。もう終わりだ……)
「アメリア。夜のお散歩かい?」
「きゃあーーーっ。……あれ?」
「ご、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。休憩してるようだったから話しかけてもいいかと思って」
(休憩してたんじゃなくて、頑張って隠れてたんですけど!)
「夜の散歩がしたいなら声をかけてくれれば良かったのに」
「どうしてここが?」
「君にはずっと護衛がついているからね。どこにいてもわかるよ。でも夜は暗くて危ないから声をかけて欲しいな。敷地内は安全だけど、何かに躓いたりしたら大変だからね」
(なんなの、それ……。四六時中、見張られてなきゃいけないの?)
「いえ、この屋敷から抜けだそうとしてました」
(もうやけくそよ!)
「どうしてだい? 何か不自由なことがあった?」
(全部ですよ!)
「わたしは家に帰りたいんです」
「この屋敷が気に入らない? 建て替えようか? 使用人を入れ替える? 立地が気に入らないなら新しい敷地に立て直しても良いよ?」
「そういう問題じゃありません!」
「じゃあ……」
「お願いですから、もう帰してください……」
気がつけばわたしの目からは涙が流れていた。
「ア、アメリア……。とにかくここは冷えるから、一度部屋に戻ろう? 温かいお茶を用意させるから」
「結構です。そんなことでリズを起こさないでください」
「わかったよ」
そう言って侯爵様はわたしをお姫様抱っこのかたちで抱き上げ、顔にストールを掛けてくれた。本当は嫌だったけれど、わたしにはもう抵抗する気力は残っていなかった。
部屋に戻るとリズが温かいお茶を準備してくれていた。
「リズを起こさないでって言ったのに……」
「丁度目が覚めたところだったのでお気になさらないでください。侯爵様がお嬢様が出かけられたことにお気づきになって、わたしにお茶の準備を命じたんです。冷えるだろうからとお嬢様にストールを持って行かれました」
侯爵様やこの屋敷の人たちが親切なのは間違いない。でも重たいし、自由になりたい。わたしは貴族として生活できなくても何も困らない。八歳の時には家が没落したのであの生活に特に未練はない。
むしろ、自由に働いて、恋愛して生活できる今の暮らしが気に入っていた。恋愛は未経験だけど。
それから数日、侯爵様は気まずいのかわたしの近くには現れなかった。
(平和な日々だけど、いつになったら解放してもらえるのかしら)
「ねぇ、リズ。やっぱりわたしはずっとここにいないと駄目なのかしら」
「わたしとしてはお嬢様に居ていただけると嬉しいのですが、お嬢様は帰りたいのですよね」
「うん。帰りたい。理由もなく、ここに居られないわ」
「理由があれば良いんですか?」
「納得できる理由があればね。はっきり言うと、この状況って誘拐されて監禁されてるのとかわらないじゃない? もちろんリズたちには良くしてもらってるし、感謝してる」
「お嬢様……」
「それでも、やっぱりわけもわからず閉じ込められるのって嫌なのよ」
「……わかりました。なんとか状況を改善できないか考えてみます」
「リズ、ありがとう。でも、無理しないでね。無理なことはわたしがよくわかっているから……」
わたしは力なくリズに答えてしまった。リズが心配そうな顔をする。
リズに心配をかけたいわけじゃないのに。
部屋には手紙を残してきた。
(迷惑をかけるわけにはいかないものね。わたしが逃げ出したなんて絶対に怒られるわ)
わたしは部屋のドアをそっと開けて外の様子を確認する。
(よし、誰もいない。気がつかれないようにそっと脱出しないと……)
わたしはこの街に来たときの服装に着替えて、そっと部屋を抜け出した。悲しいことに自分の荷物は殆どない。あっという間に無理矢理連れてこられたのでほぼ手ぶらだ。
(手持ちのお金でどこかに泊まれると良いんだけど)
わたしは誰にも会わないように、気がつかれないように慎重に外を目指す。
「よし、なんとか外に出られたわ」
外の空気が気持ち良い。深夜だからか空気が澄んでいる。
一人で外に出られて開放感でいっぱいになった。
そのまま敷地の外を目指す。
(……これ、どうやって敷地の外に出れば良いの? 門までめちゃくちゃ遠いんですけど)
連れてこられたときは気が動転していたし、馬車だったのでよくわかっていなかった。ずいぶん距離がある。
(あぁ、なんかわたしの為に庭を整えたとか言ってたっけ。余計なことを……)
立派な庭を横目にわたしは必死に塀が見える方向に走っていった。
(もう無理……。休憩)
体力には少々自信があったわたしも、ぬるま湯に浸かった生活と広大な敷地のせいで息をあげていた。
「どれだけ広いのよ、この屋敷」
思わず愚痴を口にしてしまう。すると、ガサガサっと物音がした。
(誰かに見つかった? それとも侯爵様を狙う暗殺者?)
手広く商売をやっていてかなりのお金持ちだという侯爵様は色々な人から命を狙われていると聞いたことがある。
(無関係なのに殺されるなんて勘弁だわ。隠れないと)
わたしは植物の陰に隠れて身を潜める。
コツ、コツと靴音が近づいてくる。
(わたしの人生、ここで終わり? 屋敷から逃げだそうなんてしたから?)
コツ、コツとさらに音が近づいてくる。
(これって確実にわたしの方に近づいてきているわよね。もう終わりだ……)
「アメリア。夜のお散歩かい?」
「きゃあーーーっ。……あれ?」
「ご、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。休憩してるようだったから話しかけてもいいかと思って」
(休憩してたんじゃなくて、頑張って隠れてたんですけど!)
「夜の散歩がしたいなら声をかけてくれれば良かったのに」
「どうしてここが?」
「君にはずっと護衛がついているからね。どこにいてもわかるよ。でも夜は暗くて危ないから声をかけて欲しいな。敷地内は安全だけど、何かに躓いたりしたら大変だからね」
(なんなの、それ……。四六時中、見張られてなきゃいけないの?)
「いえ、この屋敷から抜けだそうとしてました」
(もうやけくそよ!)
「どうしてだい? 何か不自由なことがあった?」
(全部ですよ!)
「わたしは家に帰りたいんです」
「この屋敷が気に入らない? 建て替えようか? 使用人を入れ替える? 立地が気に入らないなら新しい敷地に立て直しても良いよ?」
「そういう問題じゃありません!」
「じゃあ……」
「お願いですから、もう帰してください……」
気がつけばわたしの目からは涙が流れていた。
「ア、アメリア……。とにかくここは冷えるから、一度部屋に戻ろう? 温かいお茶を用意させるから」
「結構です。そんなことでリズを起こさないでください」
「わかったよ」
そう言って侯爵様はわたしをお姫様抱っこのかたちで抱き上げ、顔にストールを掛けてくれた。本当は嫌だったけれど、わたしにはもう抵抗する気力は残っていなかった。
部屋に戻るとリズが温かいお茶を準備してくれていた。
「リズを起こさないでって言ったのに……」
「丁度目が覚めたところだったのでお気になさらないでください。侯爵様がお嬢様が出かけられたことにお気づきになって、わたしにお茶の準備を命じたんです。冷えるだろうからとお嬢様にストールを持って行かれました」
侯爵様やこの屋敷の人たちが親切なのは間違いない。でも重たいし、自由になりたい。わたしは貴族として生活できなくても何も困らない。八歳の時には家が没落したのであの生活に特に未練はない。
むしろ、自由に働いて、恋愛して生活できる今の暮らしが気に入っていた。恋愛は未経験だけど。
それから数日、侯爵様は気まずいのかわたしの近くには現れなかった。
(平和な日々だけど、いつになったら解放してもらえるのかしら)
「ねぇ、リズ。やっぱりわたしはずっとここにいないと駄目なのかしら」
「わたしとしてはお嬢様に居ていただけると嬉しいのですが、お嬢様は帰りたいのですよね」
「うん。帰りたい。理由もなく、ここに居られないわ」
「理由があれば良いんですか?」
「納得できる理由があればね。はっきり言うと、この状況って誘拐されて監禁されてるのとかわらないじゃない? もちろんリズたちには良くしてもらってるし、感謝してる」
「お嬢様……」
「それでも、やっぱりわけもわからず閉じ込められるのって嫌なのよ」
「……わかりました。なんとか状況を改善できないか考えてみます」
「リズ、ありがとう。でも、無理しないでね。無理なことはわたしがよくわかっているから……」
わたしは力なくリズに答えてしまった。リズが心配そうな顔をする。
リズに心配をかけたいわけじゃないのに。
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