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お妃様に会いに行きます
……そこはぜひ、笑ってください
しおりを挟む「貴女、アドルフのことを好きかどうか自信がないようだけど。
私の目から見れば、貴女はアドルフを好きなように見えるわ」
「どっ、どうしてですかっ?」
あの顔に引っかかりがあるせいで、アドルフ自身を見られないでいる未悠は思わず、身を乗り出し、訊いた。
路上で易者の意見を聞こうとするように。
「貴女とアドルフが私の前でもめていたとき、私にはいちゃついているようにしか見えなかったの。
ムカッと来たから間違いないわ。
姑の勘を信じなさい」
そ、そうですか……。
「アドルフは今、絶対、貴女を心配して、扉の向こうでウロウロしているわ。
わかるのよ、母親だから。
そして、ムカつくのよ、母親だから」
畳みかけるようにそう言ってくる。
そ、そうですか……。
「未悠、私のこのムカつく気持ちを抑えたいのなら、さっさと孫の顔をお見せなさい。
そしたら、まあ、この女も可愛い孫の母親だから、この世に必要ね、と思えるから」
……では、可愛い孫の母親でなければ、この世に必要ないのでしょうか、と青ざめながら、話を聞いていると、
「冗談よ」
と今度は、まったく笑わず、ユーリアは言う。
いや……そこはぜひ、笑ってください、と思っていると、
「息子をよその女に取られるというのは、母親にとって、そのくらいの衝撃があるということなのよ」
とユーリアは言ってきた。
「だから、アドルフを大事にしてね。
まあ、長く夫を大事にしてこなかった私が言えた義理ではないけどね」
と自分で言う。
「でも、今は睦まじいのよ。
滅多に出会わないから、お互い、その場だけ、最高の夫や妻を演じられるの」
そ、そうなんですか……。
「お互いのアラが見えてこないから、なかなかいいわよ。
貴女も結婚しても、別居してみたら?」
そ、そうなんですか……。
いえ、私はそういうのはちょっと、と心の中だけで返事をする。
「さあ、お行きなさい。
アドルフが待っているわよ」
そう言ったユーリアは立ち上がり、部屋を出て行くよう、未悠を促す。
「ありがとうございます、王妃様」
と自らの秘密を話してくれたユーリアに丁寧にお辞儀をしたが、
「貴女のお辞儀、アデリナとそっくりね」
と言われてしまった。
未悠は、まだ頭を下げたまま、さすがだ……と思っていた。
ただの人真似なことがわかっているらしいと思ったが、ユーリアは、
「いいのよ。
そうして身につけていくものよ。
礼儀作法も美しい動きも」
そう言ってくれる。
いろいろと釘も刺されたが、嫁となるかもしれない自分には、真実を話しておこうと思って呼んだのだろうな、と思う。
息子の最も近くで、息子を守ってくれるはずの存在である嫁に。
そんなことを考えながら扉の外に出ると、ユーリアの予言通り、アドルフがウロウロしながら待っていた。
ちょっと笑ってしまう。
「やっぱり、『お母さん』ってすごいですよね。
普段、側に居なくても」
と言うと、
「なんの話だ」
と言われてしまったが。
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