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浮世離れな天才③
しおりを挟む「カイン・モレロの入学は取り消し、フィン・ステラを合格にする手続きはすぐに済ます。後見人はお前でいいな?」
「あぁ、勿論だ。サインしておこう」
リヒトは手続きに必要な書類に目を通していると、エリオットは訝しげにリヒトを見る。
「ところで、俺はカイン・モレロとその母親を許せるほど、器は広くないが。このまま見逃すつもりか?」
訴えることぐらいするぞ、と言いたげな目でリヒトを見るエリオット。
「見逃す?何を言ってる。俺の恋人をコケにした奴をどう許せと言うんだ」
リヒトは苛ついた表情で書類にサインをし、全てに目を通しからエリオットに手渡しながら続けて話す。
「だが、フィンは訴えるのはやめろと言うだろうな」
「何故だ?そこまでお人好しなのか」
「それもあるが……フィンは親を幼い時に亡くしている。奴隷として扱われたとしても、母親と血が繋がった叔母をフィンは許すだろう。それに従兄弟も、性格は悪いが完全な悪人ではなかった。フィンに本を貸したりしていたしな。替え玉のことについては、おそらく母親に唆されている」
「なるほどな……だが、懲らしめるぐらいならいいだろう?もう少しでフィン君は、あの才能を埋もれさせてたとこだ。そんなのは俺が許さない」
エリオットはそう言ってニヤリと悪い笑みを浮かべると、リヒトは「同感だ」と言って同じように笑った。
二人はまるで学生時代に戻ったような感覚で、ある策を練る。
「これはどうだ?」
「いや、もっとこう……」
「あぁ、それならこれは」
「なるほど……いいかもな」
ぼそぼそと小声で何かを話す二人に、フィンは首を傾げるも、再び合格通知を嬉しそうに眺めていた。
「それがいいな」
「ああ」
リヒトとエリオットは、作戦が決まったのか、パシッとハイタッチをする。
「シンプルだが一番有効な方法だな。一気に地獄に落とせる。うん、最高だ」
エリオットは八重歯を見せながら笑みを浮かべる。
「?」
フィンは不思議そうに二人を見るは、リヒトはフィンの元に行き「何でもない」と言って頭を撫でた。
エリオットはフィンに視線を合わせるように屈み、優しく笑みを浮かべて口を開く。
「それじゃ、明後日は宜しく頼むよフィン君。君は成績優秀者として入学式の新入生代表挨拶の任務がある。内容は何でも良い、五分以内でなんか喋ってくれ」
「え!?」
フィンは突然の話に不安げな表情を浮かべる。
「大丈夫だ。自分が話したいことを話せ。誰も君を笑わない!……この学院に入れば貴族と庶民の垣根は無くなる。生徒としてこの学院に足を踏み入れている間、子供はみんな平等。区別されるとしたらそれはただ一つ!」
エリオットは人差し指を立てながら凄い剣幕でフィンに捲し立てる。
「“成績”だ。成績が良ければ威張れる。そういう場所だ!はっはっは!」
「わ、わかりました……」
高らかに笑うエリオットに、フィンは困った顔でリヒトを見上げた。
リヒトは「無視しておけ」と溜息を吐き、エリオットの背中を叩く。
「それじゃあ、頼んだぞ」
「ああ。楽しみにしておけ。お前の恋人は俺が責任持って預かろう」
「変な真似したら命は無いぞ」
「俺に子供趣味は無い」
「チッ……」
リヒトは眉間に皺を寄せ、舌打ちをしながら、フィンの手を引いて扉を出る。
フィンはペコリと礼をし、嬉しそうに合格通知書を持っていた。
「浮世離れした天才、おまけに純粋無垢で顔面偏差値が高い……何より、生い立ちからして、よくもまああんなに良い子に育ったもんだな」
エリオットはリヒトがサインした書類を持つと、早速手続きを始める。
「今日は残業だ」
はぁっと大きく溜息をしたエリオットだったが、その顔は笑顔だった。
「にしてもリヒトのやつ……フィン君に対する変わりようがえげつないなぁ。こりゃアレクにチクるしか無い」
エリオットは再び悪い笑みを浮かべるのであった。
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