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大魔法師の憂鬱②
しおりを挟むリヒトは少し落ち着いた表情になり、再びフィンを眺めた。双子に甘えられ、フィンの手からクッキーを食べさせている。
フィンの白く滑らかな指を見たリヒトは、扇情的な気持ちになった。
「(フィン……君のその綺麗な指も全部、俺のものだ)」
フィンは何度見ても可愛いし、いつまでも見てられるくらいに愛おしい。自分が狼でフィンが兎なら、丸ごと骨まで食べてしまうぐらいに好きだと思っている。
でも、フィンはリヒトをそこまで愛おしいと思っているのかと聞かれれば、リヒトは自信を持って頷けなかった。
「俺は、フィンを一生愛し続ける確固たる自信がある。でもフィンはまだそうじゃないと思ってます」
エヴァンジェリンはどんどんネガティブになるリヒトの発言に大きく溜息を吐いた。
「(恋愛のことになるとネガティブなのねこの子……)はぁ。そもそも出会ってまだ1週間よね?これからじゃない。早急なのも時には必要だけど、じっくりと育ててあげたら?」
リヒトはじとっとした目でエヴァンジェリンを見る。
「じっくり……ですか。俺を真っ直ぐに思ってくれる魔法とか、離れられない契約とか、そんなのしか思い付きません。異常かも知れませんが、場合によっては手段を選ばないほど、フィンを愛してます。それはフィンがまだ若くても関係ない。ただ、俺以外の者に気が向く瞬間があったとしたら耐えきれないという話で……」
リヒトのフィンに対する強い愛語りに気圧されたエヴァンジェリンは、一瞬固まり顔を歪ませるも、すぐに咳払いをした。
「貴方がどれだけフィンちゃんを好きかはよく分かったわ。……知らないかもしれないけど、フィンちゃん、案外貴方のために早く大人になりたがってるの。さっきなんて、貴方がちょっといない間に“背を伸ばす方法はないか”なんて聞いてきて」
「背を……ですか?」
「そう。多分あの子160cmぐらいよね?エルフの男の子にしては小さいから、リヒトと歩いてても恋人同士には到底見えないと思ってるのよ」
リヒトの身長は188cm。ハイエルフの中でも大きい身長だ。フィンとはかなりの身長差があるが、リヒトは特に気にしていなかったため、首を傾げる。
「フィンちゃん、付き合ってる貴方が、自分の所為で笑われたり馬鹿にされるのは嫌みたい。普段は明るくにこーってしてるけど、案外そういうところを気にしてるの。それって、貴方のことが好きだからよね?」
エヴァンジェリンの言葉に、リヒトは喉の奥が熱くなる感覚に陥り、言葉を失った。
「……そもそも、運命の恋人なんだから自信持つべきよ!貴方が一方的だと思ってるなら、それは間違い。そこらへんの子供に取られるようなヘマしたら、許さないんだから」
エヴァンジェリンはそう言って優しく笑いかけると、リヒトの額にデコピンをして立ち上がる。
「(取られてたまるか……)」
リヒトはエヴァンジェリンの背を見ながら、自分の額をさすった。
「シエル、ノエル、お風呂の時間よー。フィンちゃんにばいばいしてねー」
エヴァンジェリンは三人の元へ近寄ると、双子にお風呂の号令をかける。
双子はフィンに掴まりながら悲しそうな表情を浮かべた。
「「えー」」
リヒトはエヴァンジェリンの横に行くと、フィンを見下ろし微笑んだ。フィンは安心したように微笑み返し、目を細める。
「帰ろうか」
「うん!」
リヒトがフィンに手を伸ばそうとすると、双子が頬を膨らませて通せんぼをした。
フィンは目を丸くし、「ありゃりゃ」と呟いて困ったように笑う。
「「あげなーい!ふぃんをとるなー!」」
双子はぶーぶーと口を尖らせ、だむだむと地団駄を踏みながらリヒトに抗議する。
リヒトは「またか」と呟きため息を吐くも、フィンが双子に対して口を開く。
「ごめんね、シエル君、ノエル君。ちょっと耳を貸して」
「「なあにー?」」
シエルとノエルは嬉しそうに耳を同時に差し出すと、フィンは二人にしか聞こえない声で話を始める。
「実はね、リヒトは僕がいないと眠れないんだ。内緒だよ?……お兄ちゃんが眠れないのは、かわいそうだよね?だから僕はリヒトと帰らなきゃ」
一瞬、フィンが大人の表情をしたのを見逃さなかったリヒト。もちろん、リヒトもエヴァンジェリンも、フィンが何を言ったのかは聞こえない。
双子はフィンの言葉に、使命感を背負ったように生き生きとした表情で大きく縦に頷いた。
あっさりと引いた双子に。リヒトとエヴァンジェリンは目を合わせ首を傾ける。
「「またあそんでくれるー?」」
「もちろん!」
「「ふぃんだーいすき!」」
双子はフィンに抱き付くと、それからはエヴァンジェリンに手を取られてそのまま部屋を後にする。
「フィンちゃん、いつもありがとね」
エヴァンジェリンが満面の笑みでお礼を言うと、フィンは照れ笑いを浮かべた。
「いえいえ、楽しかったです!クッキーもおいしかったです。また遊びに行きますねー!」
フィンはぺこっとエヴァンジェリンに礼をすると、自然にリヒトの手を掴んだ。
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