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42 爆発

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 御者が正気を取り戻したのを見てお祖父様がもう一度問いかけた。

「ここは公爵邸だ。何があったんだ? アルフレッドはどうした?」

 お祖父様に矢継ぎ早に質問されて御者は両手で頭を抱えてしばらく考えていたが、やがて一つずつ思い出すように話しだした。

「アルフレッド様を王宮までお送りして、馬車留めに馬車を置きに行ったのですが…。その後はどうしたのかがわかりません。…誰かに声をかけられたような…?」

 御者の言葉に僕は驚愕した。

 王宮でこのような事態に陥るなんて、すぐそこまでマーリンの手が伸びているようだ。

 馬車の中の血を調べていたシヴァが僕とお祖父様の側に来て告げた。

「安心しろ。これはアルフレッドの血じゃない。何かの獣の血だ」

 その言葉に僕はひとまずほっとしたが、同時にまた別の疑問が持ち上がる。

 これが父上の血でないのなら、父上は一体何処に消えてしまったのだろう。

 そこまで考えて僕は御者の言葉に疑問を持った。

 王宮まで父上を送ったと言うが、ここは王宮からかなり離れた公爵領だ。

 父上が王宮に向かったのは朝食を終えて僕と話をした後だから、そんなに時間は経っていない。それなのに王宮までの往復が出来るものなのだろうか。

 僕は側に浮いているアーサーに声をかけた。

「ねぇ、アーサー。馬車でも王宮までこの時間で往復出来るものなの?」

 僕の言葉にアーサーは虚を付かれたようにはっとした。

「そうだ! アレクシスとアルフレッドがいるからつい昔の感覚に陥っていたが、ここは王都ではなかった。この短時間で王宮まで往復出来るはずがない」

 そう言い終わるとアーサーはありったけの声で叫んだ。
 
「シヴァ! アレクシス! そいつから離れろ! 罠だ!」

 御者の側にいたシヴァとお祖父様は一瞬キョトンとした顔をしていたが、ハッと気づいて御者から離れた。

 途端に馬車や御者の体が不自然に揺らいで形がいびつになっていく。

 揺らいでいた形がだんだんと元の形を取り戻した時にはそこにはみすぼらしい辻馬車と見知らぬ男に変わっていた。

 男の胸の辺りに黒いもやが浮かんでいる。

「チッ、アーサー、余計な事を言うんじゃないよ。馬車諸共シヴァを吹き飛ばそうと思っていたのに…。せっかく準備したんだから予定どおり吹き飛ばすことにしようかね」

 黒いもやはそう言うなり、チカチカと点滅を始めた。

 見知らぬ御者は自分の胸の辺りのもやを払いのけようとするが、手は空を切るばかりでもやは無くならない。

「アレクシス! ジェレミー! 伏せろ!」

 シヴァが僕とお祖父様に覆いかぶさるように飛びかかってくる。

 それと同時にカッともやが一層強く光ったと同時に大きな爆発が起きた。

 御者と馬車が吹き飛び、馬車の破片がパラパラと降ってくるが、僕とお祖父様は大きくなったシヴァの体に守られて無事だった。

 僕の懐にはいつの間にかアーサーが潜り込んでいた。

 ペーパーナイフの体なんだから、怪我なんかするはずないんだけどね。

 釈然としないまま、シヴァの体の下から這い出ると、辺りは酷い惨状だった。

 あの御者の体は吹き飛ばされて辺りに肉片が散らばっている。

 むせ返るような血の匂いに思わず吐きそうになったがグッと堪える。

 母上とお祖母様がこの場に居なくて本当に良かったよ。

 お祖父様もシヴァの体の下から出て来て辺りの惨状を見て愕然としていた。

「アーサー、一体どういう事だ? 何故こんな事になっているんだ」

 アーサーは僕の懐から出てくるとお祖父様に今朝、父上に打ち明けた昔話を告げた。

 お祖父様はアーサーが元この国の国王であったこと、そして封印した筈の魔女に狙われている事を打ち明けられて絶句していた。

「お祖父様。父上は大丈夫でしょうか」 

 父上が乗って行った馬車を装ってシヴァを襲撃しようとしていたという事は、父上にも何かを仕掛けていないとも限らない。

「アルフレッドは王宮に向かったのだろう。王宮には特別な結界が張ってあるから、王宮にいれば大丈夫だと思うが…」

 こちらの現状を連絡しようにも早馬を送るくらいしか手立てがない。

 これが前世の世界ならば電話一本で済む話なのに、何も出来ないのがもどかしい。

 シヴァは吹き飛ばされた御者の体を浄化魔法を使って清めた。

 バラバラに壊れた辻馬車もクリーン魔法で一掃させる。

 お祖父様は使用人に先程の辻馬車を運用している商会に使いをやり、亡くなった御者の家族を探すように命じていた。

 いくら操られていたとはいえ、我が家の犠牲になった事に変わりはない。

 もし奥さんや子供が居るのならば、面倒を見るつもりなのだろう。

 それにしても封印されていてもなお、これだけの事をしでかしてくれるのだから、封印が解けたら一体どうなってしまうのだろうか。

 僕はお祖父様と共に屋敷の中に戻りながら、迫りくる恐怖に身震いをした。

 
 

 
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