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50 プロポーズ

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「な、何を突然言い出すのだ!?」

 お父様は顔を真っ赤にして狼狽えているし、セアラもお父様が吹き出したお茶を拭きながらも頬を赤く染めている。

 これはもう一押し必要かしら?

「お母様が亡くなってもう十七年経っているのでしょう? それに私だってお母様と呼べる人が欲しいですわ。その点、セアラならば気心も知れているし、お父様だってセアラの事を気に入っているのでしょう?」

 私が指摘をするとセアラは顔を真っ赤にして俯いてしまったし、お父様はそんなセアラから顔を反らして「ゴホン、ゴホン」と意味のない空咳を繰り返している。

 エイブラムさんはそんな二人の姿を呆気にとられた顔で見比べている。

「い、いや待て、アリス。私と結婚すると言う事はこの国の王妃になると言う事だぞ。今は貴族でもないセアラがそんな重責を担うなど…」

 …あらあら

 お父様ったらそんなにセアラが大切だったのね。

「お父様。今まで王妃がいなくてもやってこられたのですから、セアラがたとえお飾りの王妃となっても問題ないと思いますわ。それに先程何でもお願いを聞いてくださるとおっしゃったではありませんか」

「それはただの言葉のあやだ。それに私はセアラをお飾りの王妃になどさせんぞ!」

 言い終わった後でお父様は「しまった」と言うような顔で手で口を塞いでいるけれど、時既に遅し。

 セアラはますます顔を赤くしちゃってるし、エイブラムさんはお父様とセアラを見ないようにそっぽを向いてしまったわ。

 そんなにセアラが好きだったのなら、さっさと結婚すればよかったのに…。

 コーデリアが言い寄って来ていたから、セアラにプロポーズ出来なかったのかしら?

 それともお互いの気持ちを確かめ合う事も出来なかったのかもしれないわね。

 けれど、今の一連の流れでお互いに好意を持っている事がわかったはずなんだから、さっさとプロポーズすればいいのにね。

 お父様は私とエイブラムさんをチラリと恨めしそうな目で見たけれど、ハァとため息をついて椅子から立ち上がった。

 そして後ろに立っているセアラに近付くと、顔を覆っているセアラの両手をそっと引き剥がした。

 セアラは真っ赤な顔をしながらも、どこか嬉しそうな瞳をお父様に向けているわ。

「セアラ、この申し出は君にとんでもない負担を強いてしまうかもしれない。だけどきっと私が君を守ってみせる。だから私と結婚してもらえないだろうか?」

 公開プロポーズなんて羞恥の極みみたいな事、良く出来るわねぇ。

 なんて、私がけしかけたようなものなんだけれどね。

 私とエイブラムさんが固唾をのんで見守っていると、セアラは意を決したようにコクリと頷いた。

「こんな私でよろしければ陛下のお側にいさせてください」

 セアラが返事をした途端、「わっ!」という声があちこちで上がった。

 いつの間にかこの四阿の周りには沢山の人が取り囲んでいた。

 お兄様に宰相に文官に護衛騎士に…

 どうやら皆、この四阿に近付いて来た時に、私達のやり取りを聞いて陰に隠れていたみたいね。

 私とエイブラムさん以外にも人がいたと知って、お父様もセアラも茹でダコのように真っ赤な顔になっているわ。

「陛下、おめでとうございます。セアラ様の養子縁組先については私にお任せください。きっと引く手あまたでしょうがね」

 宰相が良い笑顔で請け負ってくれているわ。

 まあ、王族と繋がりを持ちたい貴族は大勢いるでしょうね。

 宰相に任せておけば、きっと釣り合いが取れるような貴族を選んでくれるわ。

「父上、おめでとうございます。私も久しぶりに母上と呼べる方が出来て嬉しいですよ。アリスの事は私に任せて父上は母上を大切になさってください」

 あらあら、お兄様ったら。

 やけに喜んでいると思ったら、お父様の分も私に構うつもりだったのね。

 これは早急に手を打たないと、私とエイブラムさんの仲が進展させられないわ。
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