エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第2章

第29話

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「えっ? ダンジョンに?」

「そう」

 ほとんど美花のおかげだが、昨日の釣りはまあまあの釣果だった。
 干物にしようと捌いた斜めになった網に乗せていると、美花が急にダンジョンに行ってみたいと言い出した。

「連れてってくれないかな?」

「う~ん……、連れて行くだけなら大丈夫だけど……、何しに行くの?」

 今のケイに、この島で脅威になるような魔物はいない。
 刀を持っているということは、美花もある程度の実力はあるとは思う。
 見に行くだけなら構わないが、中に入りたいとなると話が変わってくる。
 まだどれほど戦えるか見ていないので、ダンジョンに行って良いよとは言いづらい。
 
「私はもっと強くなりたい!」

「なるほど……」

 ド直球な返事が来た。
 その勢いに、ケイは若干気圧された。
 とは言ってもどうしたものか。

「ケイもダンジョンで戦って強くなったんでしょ?」

「ま、まぁ……」

 ケイがどう返すか考えていると、美花は追撃のように話しかけてきた。
 間違いではないため、返答に困る。
 ダンジョン内に入ると、ケイでもちゃんと警戒していないといけない。
 そうなると、拠点付近の畑への注意を割いている訳にはいかない。
 どの野菜も、種は魔法の指輪の中に保管しているので作り直せばいいのだが、せっかく実った物を魔物に喰われるのは腹が立つ。
 別にダンジョンで鍛えたいというのは構わないのだが、外の魔物と比べるとかなり危険な魔物が出たりする。
 せっかく救った命なのだし、話し相手がいなくなるのは寂しい。
 
「もしもの時のことを考えると、1人で行かせるわけにはいかないな」

「え~……」

 どうするか悩んだケイは、先程考えたことをちゃんと説明して美花を止めた。
 それに対し、美花は不満そうな声を出した。

「じゃあ、ケイはいつダンジョンに入っているの?」

「収穫が終わって、冬の間かな……」

 5月の上旬から中旬に全ての野菜の収穫が終わり、下旬から少しずつ寒くなっていき冬になる。
 6月から9月に入るまでは寒いため、拠点にこもりっきりになってしまう。
 ダンジョンが見つかるまでは、木を削ったりして小物雑貨を作ったり、魔力の操作を色々試したりしていたが、体が鈍って仕方がなかった。
 ダンジョンが見つかってからは、ちょうどいい訓練期間だと思うようになった。

「……半年待たないとだめなの?」

 たしかに半年待ってくれというのは酷だろう。
 美花は完全に不満そうだ。

「別に訓練はダンジョンじゃなくてもできるだろ?」

「西にいる魔物を倒して時間を潰せって言うの?」

 西にいる猪と鶏の魔物は、放置しているが数が増えないように調節している。
 今では完全にケイの家畜のようなものだ。
 そうなると、色々な虫が蔓延る森ゾーンで戦えばいいのだが、そんなに強い魔物は存在しないため、訓練になるか疑わしい。

「魔闘術だっけ? あれが使える?」

「……使えない」

 父の憲正に剣術指導を受けてきたが、15歳になってようやく魔闘術を教わり始めた。
 まだ全然完成には遠い。
 使えると嘘を言っても、「見せてみろ」と言われたら簡単にばれてしまう。
 仕方がないので、美花は素直に答えた。 

「じゃあ、半年で使えるようにがんばろう」

「……えっ!? 教えてくれるの?」

 魔闘術が使えるなら1人で行かせてもよかったのだが、使えないのなら許可できない。
 それなら練習するしかないと思って言ったら、ケイが思っていた以上に食いついてきた。

「……そりゃ、強くなるなら使えた方がいいでしょ?」

「普通魔闘術は他人に簡単に教えたりしない!」

「そ、そうなんだ」

 一定の実力がある者が指導を受け、魔闘術使えるようになった者は平民出身でも職を優遇される。
 日向内でも蹴落とし合いが起きるのだから、他の国ならもっと他人に教えるようなことはしない。
 それを簡単に教えてくれるというケイに、思わず美花は語気を強めてしまった。

「じゃあ、早速始めましょ!」

「う、うん」

 美花に勢いに、ケイは少し押され気味に魔闘術の練習を開始することになった。



「あ~……、難しい」

 魔闘術の訓練として、ケイから魔力を細かくコントロールする練習を言い渡された美花は、疲労から集中力が切れ、大の字に寝転んだ。

「反復練習しかないからね。夕食の用意するから休んでて良いよ」

 魔力を細かくコントロールするのは地道に練習するしかない。
 それができてから部分的、そして全身へと至っていく。
 同じ練習をずっとしているのは、性格的に向き、不向きがある。
 昼から初めて、日が暮れ始めるまでずっとやっていられるなら、美花は向いている方だろう。
 ケイがコツとか教えれば、本当に半年で使えるようになるかもしれない。
 練習で疲れている美花はそのままに、ケイは夕飯の用意を始めた。 

「キュウ火をつけといて」

“こくっ!”

「……えっ?」

 側で交わされたやり取りに、横になって聞いていた美花は思わず体を起こした。
 ただの小さい毛玉のキュウが、どうやって火をつけるんだと気になった。

“ポッ!”

「っ!?」

 木がくべられた竈に近付くと、キュウは口から小さな火の玉を吐いた。
 火の玉は小枝にあたり、竈の木に少しずつ燃え広がっていった。

「…………ケセランパサランて魔法使えるの?」

 小さいとは言え、キュウの魔法に驚き過ぎた美花は、真顔になりながらケイに尋ねた。

「練習したからかな?」

「…………え~?」

 練習したからといって、そんなことでこんな魔物が魔法を使えるようになるのだろうか。
 ケイの軽い答えに、なんとなく納得いかない声をあげた美花だった。

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