エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
57 / 375
第4章

第57話

しおりを挟む
 魔物の様子が最近おかしいので、ケイは美花と共に今朝から探索に出かけることにした。
 ケイたちの息子のレイナルドとカルロス、それと最近はご意見番のような立場のルイス・アレシアの夫婦も見張りの塀まで見送りに来てくれた。

「ルイスたちもわざわざ見送りに来なくてもよかったのに……」

「いや、我々は朝早いですからお気になさらず」

 村の食事は理由がない限り、家族とか関係なくケイが建てた食堂で食べるようにしている。
 朝食はパン食が基本となっているので、担当のアレシアは朝が早く、ルイスも大体午前中にチーズ作りをおこなっているため、朝は別につらくない。
 なので、見送りくらいたいしたことではない。

「レイ! もしもの時にはお前がみんなを守れよ」

「……縁起でもないことを言うなよ父さん」

 ケイのあまりにも急な発言に、レイナルドは一瞬固まった。
 確かに、この異変の原因が強力な魔物だった場合、ケイたちが怪我を負う可能性もある。
 しかし、ケイはこの島で一番強い人間。
 そんなケイにもしものことがあった場合、レイナルドがどうこうできるとは思えない。
 そんなことを考えると、いきなり不安にかられた。

「まぁ、その可能性も考えとけって話だ。カルロスもだぞ」

「…………あぁ」「…………う、うん」

 ケイの言葉に、レイナルドとカルロスは躊躇いつつも頷く。
 ケイ自身もこういったことを言うとフラグになりそうで嫌なのだが、もしものこと想像しておけば対処のしようがあったりする。
 1人で無人島生活を始めた時も、人や魔物との遭遇を想定して行動してきたから、子供1人でも生き抜けたと思っている。
 それに、フラグになったとしても、最悪逃げ帰るつもりだ。
 美花も同じような気持ちなのか、ケイがレイナルドに言ったことを黙って聞いていた。

「じゃあ、行ってくる」

「じゃあね」

 見送りの4人に手を振って北西へ向けて歩き出した。
 この島の魔物の腕鶏は北西に分布していて、卵や肉は村の貴重な食料源だ。
 最近では家畜として育てられないかイバンが試している。
 腕鶏とはケイが勝手につけた名前だが、その名の通り危険なのは発達した羽だ。
 鶏のように飛べるわけでもないので、雛の内に羽を切ってしまえば脅威は低い。
 食べる部分は少なくなるが、安定的に卵や肉を手に入れられるので、このまま問題なく進んでいってもらいたい。





◆◆◆◆◆

「…………腕鶏がいないわね」

「……うん」

 腕鶏たちが縄張りにしていた場所へ着いたケイと美花だが、数日前にきた時と様子が変わっていた。
 美花が言うように、1匹の腕鶏もいなくなっていて、割れた卵がいくつか散乱している。 
 ケイたちが見たように、南に移動したのだろうか。

「もう少し北へ行ってみようか?」

「小山の方?」

 南に逃げたということは、逆方向に何か原因があるかもしれない。
 そちらの方に言ってみることをケイは提案した。
 美花が問い返してきたように、西側の島の北側には小さな山がある。
 北にある物といったらそれぐらいしか思いつかないし、特に何もないため、村のみんながそっちに行くことはあまりない。
 異変が起きていて誰も気付かないとなると、行く頻度が低い所。
 その条件を考えると、ピッタリの場所ともいえる。

「猪に会うかもしれないから気を付けよう」

「えぇ」

 山といってもたいした高さではなく、1~2時間ほどで登頂できる高さだ。
 その山の西の麓付近には猪の一部が住み着いている。
 放って置くとその猪の群れの数が増えてしまう可能性があるので、ちゃんとみんなで数を調整している。
 そのため、スタンピードが起きるようなことはないと思う。
 猪くらい今のケイと美花なら余裕で倒せる魔物だが、もしかしたら特殊個体が出現した可能性があるので注意が必要だ。
 ケイとも美花はその可能性を心に留め、北の小山へ向かった。

「……ケイおならした?」

「失敬な! してないよ」

 ケイたちは夫婦になってもう20年以上経つ。
 別におならをしたからといって何とも思わないが、不名誉なことには否定させてもらう。

「う~ん、何かちょっと臭った気がしたのよね」

 2人とも嗅覚は普通の人族だ。
 美花が何かに気付いたようだが、ケイは何も感じていない。

「猪の糞でも近くにあるんじゃないか?」

「……かな?」

 猪の魔物は雑食で色々な物を食べる。
 その糞は結構臭い。
 もしかしたら美花はその匂いを感じたのかもしれない。
 そう思った2人は、勘違いだと判断して先を進んだ。

「…………臭うな」

「でしょ?」

 少しずつ山を登って、探知術も行って特殊な魔物が存在しないか確認しているのだが、そんなのは存在しているように思えない。
 それどころか、魔物の気配が全くしない。
 そして何より、微かに嫌な臭いがしてきた。
 この匂いが美花が少し前に言っていた臭いのようだ。

「この臭いは……」

 ケイにはこの臭いに心当たりがある。

「硫黄?」

 温泉地などで嗅いだことのある臭い。
 卵が腐った臭いといった感じだ。

「……ってことは?」

「え? ちょっと……」

 この臭いが硫黄だと判断したケイは、急いで山の頂上へ向かい出した。
 そのケイに離されないように、美花も少し遅れて付いて行った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

処理中です...