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第6章
第94話
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最後に珍しい魚のチヌ(クロダイ)を釣り上げ、リカルドはそれまでの退屈だったのが嘘だったかのように元気になっていた。
チヌの入ったバケツを振りながら、ケイの家に向かって海岸からの道のりを歩いていた。
ケイと並んで歩くリカルドの後ろには、2人の兵が武器を装備して付いてきている。
リカルドは今日ほとんどお忍びできたので、護衛を連れて来ていない。
なので、この島に駐留しているカンタルボス兵の隊長に頼み、急遽護衛をつけて貰うことにした。
リカルドなら怪我をするようなことがあるとは思わないが、念のためだ。
「いやー、良かった。なにも釣れなかったら妻に何を言われるか」
「あそこまでの強さを誇るリカルド殿も、奥方には勝てませんか?」
元気になって貰えて良かったが、つい漏らしたであろうリカルドの言葉に、ケイは引っかかりを覚えた。
まるで、リカルドが王妃のアデリナの尻に敷かれているようにも聞こえるではないか。
そのため、ケイはつい聞いてしまった。
「う、うむ。……その言い方だとケイ殿も?」
「……頭が上がりません」
思った通りの反応をしたリカルドに、良いことが聞けたと思っていたケイだったが、どうやら聞き方を間違えてしまったらしい。
「リカルド殿も」と聞いてしまったため、ケイも同じようなものだとあっさりバレてしまった。
自国の王の意外な話に、後ろの2人は聞いてしまって良いのだろうかという表情をしている。
「ガッハッハ、やはりどこの家庭もそんなものですな」
「そうですね。ハハハ……」
ほとんど一般人と変わりないケイと、一国の王のリカルド。
身分は違っても、どこの家庭も同じような状況だということがおかしくて笑うしかなかった。
リカルドの方は自分だけでなくて良かったからなのか、安心が混じった笑いのようだ。
強くて有名な2人でも、妻には勝てないということを知り、後ろの2人は思わず吹き出しそうになるのを我慢していた。
ケイの家の近くには花壇がある。
春になった今、色とりどりの花が咲いてとても眺めがいい。
その景色をのんびり眺めるために、美花に頼まれたケイが東屋を建てた。
そこで女性たちが、お茶会という名のおしゃべり会を良く開いている。
この島の女性にとって、憩いの場所だ。
「あら? 帰ってきたと言うことは、何か釣れたのかしら?」
ケイたちが戻って来たのを気付いたのか、東屋にいた女性たちの一人がリカルドに問いかけてきた。
聞いてきたのは、カンタルボス王国王妃のアデリナである。
東屋で綺麗な花を見ながら、美花の作ったケーキと紅茶を堪能し、美花とその嫁の2人と色々と話をしていた。
その近くには、この島に駐留する女性兵の内の2人が護衛についている。
急遽この島に来たのは、実はリカルドだけではなかった。
最初、リカルドは一人でこの島に来るつもりだった。
それを、女性の勘とでも言うのだろうか、アデリナにバレたらしい。
黙っているから自分も連れて行くように言われたリカルドは、断ることができずに一緒に来ることになったのだ。
「フフフ……、見よ! デカイのが釣れたぞ!」
妻に問いかけられたリカルドは、自信満々にバケツに入ったチヌを見せた。
「まぁ、スゴイ! ……1匹だけなの? 私や子供たちの分は?」
「えっ? いや……」
アデリナからしたら、質より量だったのだろうか。
チヌしか入っていないバケツに、首を傾げてリカルドに問いかけてきた。
昼から3時間近く釣りに行っていたのに、1匹だけですとは言いにくいのか、リカルドは変な汗を額に掻き始めた。
「こちらがリカルド殿が釣った魚ですよ。アデリナ様」
何と言って良いか分からなくなっているリカルドに、2人の話を近くで聞いていたケイは、咄嗟に機転を利かせた。
ケイはリカルドに付き合って釣ったのは全部で4匹。
アデリナと子供3人と同数。
同じ男としたら、奥さんにいい格好したい。
折角この島に来てくれたリカルドに、助け船を出すことにした。
「まあ! あなたすごいわね!」
「あ、あぁ……」
ケイの援護によって、リカルドは助かったとでも言いたげな表情だ。
そんな表情したら、アデリナにバレるだろうがと文句を言いたいところだが、ケイはそれを我慢する。
今日自分が釣った分を提供するだけで、丸く収まるなら大したことではない。
ケイは自分の釣った魚が入ったバケツを、リカルドが釣ったことにすることにした。
「ケイ様は何匹釣りましたの?」
「私は4匹です。しかし、干物にするのでもう捌いて魔法の指輪に入れております」
アデリナの問いにリカルドは一瞬固まる。
ケイからすると、アデリナは素直に信じていないようにも見える。
しかし、今更嘘ではリカルドの面目が立たない。
嘘には真実を混ぜると効果的なものだ。
真実が混ざれば、目が泳がないようにもできる。
美花にも通用する方法を取って、ケイはアデリナに説明した。
ちゃんと捌いた魚を4匹出して。
「リカルド殿が釣った魚は、御夕飯にでも料理人にでも捌いてもらえばよろしいのでは?」
「そうですわね。もっとゆっくりしたいところですけど、子供たちに心配かけ過ぎるのは良くないわね」
リカルドは、あわよくば1泊するつもりなのが見え隠れする。
しかし、当初の予定通り夕方にはケイの転移で送ることを、アデリナの方は受け入れているようだ。
「美花殿。妻の相手をもう少し頼みますぞ」
「はい」
帰る時間まで美花たちとのんびりするアデリナを東屋に置いたまま、リカルドは駐留兵から現状の報告を受けるという理由をつけ、この場から離れて行った。
「助かりましたぞ! ケイ殿!」
ケイも一緒に付いて行ったのだが、誰もいない所で何度も感謝されたのはちょっと嬉しかった。
チヌの入ったバケツを振りながら、ケイの家に向かって海岸からの道のりを歩いていた。
ケイと並んで歩くリカルドの後ろには、2人の兵が武器を装備して付いてきている。
リカルドは今日ほとんどお忍びできたので、護衛を連れて来ていない。
なので、この島に駐留しているカンタルボス兵の隊長に頼み、急遽護衛をつけて貰うことにした。
リカルドなら怪我をするようなことがあるとは思わないが、念のためだ。
「いやー、良かった。なにも釣れなかったら妻に何を言われるか」
「あそこまでの強さを誇るリカルド殿も、奥方には勝てませんか?」
元気になって貰えて良かったが、つい漏らしたであろうリカルドの言葉に、ケイは引っかかりを覚えた。
まるで、リカルドが王妃のアデリナの尻に敷かれているようにも聞こえるではないか。
そのため、ケイはつい聞いてしまった。
「う、うむ。……その言い方だとケイ殿も?」
「……頭が上がりません」
思った通りの反応をしたリカルドに、良いことが聞けたと思っていたケイだったが、どうやら聞き方を間違えてしまったらしい。
「リカルド殿も」と聞いてしまったため、ケイも同じようなものだとあっさりバレてしまった。
自国の王の意外な話に、後ろの2人は聞いてしまって良いのだろうかという表情をしている。
「ガッハッハ、やはりどこの家庭もそんなものですな」
「そうですね。ハハハ……」
ほとんど一般人と変わりないケイと、一国の王のリカルド。
身分は違っても、どこの家庭も同じような状況だということがおかしくて笑うしかなかった。
リカルドの方は自分だけでなくて良かったからなのか、安心が混じった笑いのようだ。
強くて有名な2人でも、妻には勝てないということを知り、後ろの2人は思わず吹き出しそうになるのを我慢していた。
ケイの家の近くには花壇がある。
春になった今、色とりどりの花が咲いてとても眺めがいい。
その景色をのんびり眺めるために、美花に頼まれたケイが東屋を建てた。
そこで女性たちが、お茶会という名のおしゃべり会を良く開いている。
この島の女性にとって、憩いの場所だ。
「あら? 帰ってきたと言うことは、何か釣れたのかしら?」
ケイたちが戻って来たのを気付いたのか、東屋にいた女性たちの一人がリカルドに問いかけてきた。
聞いてきたのは、カンタルボス王国王妃のアデリナである。
東屋で綺麗な花を見ながら、美花の作ったケーキと紅茶を堪能し、美花とその嫁の2人と色々と話をしていた。
その近くには、この島に駐留する女性兵の内の2人が護衛についている。
急遽この島に来たのは、実はリカルドだけではなかった。
最初、リカルドは一人でこの島に来るつもりだった。
それを、女性の勘とでも言うのだろうか、アデリナにバレたらしい。
黙っているから自分も連れて行くように言われたリカルドは、断ることができずに一緒に来ることになったのだ。
「フフフ……、見よ! デカイのが釣れたぞ!」
妻に問いかけられたリカルドは、自信満々にバケツに入ったチヌを見せた。
「まぁ、スゴイ! ……1匹だけなの? 私や子供たちの分は?」
「えっ? いや……」
アデリナからしたら、質より量だったのだろうか。
チヌしか入っていないバケツに、首を傾げてリカルドに問いかけてきた。
昼から3時間近く釣りに行っていたのに、1匹だけですとは言いにくいのか、リカルドは変な汗を額に掻き始めた。
「こちらがリカルド殿が釣った魚ですよ。アデリナ様」
何と言って良いか分からなくなっているリカルドに、2人の話を近くで聞いていたケイは、咄嗟に機転を利かせた。
ケイはリカルドに付き合って釣ったのは全部で4匹。
アデリナと子供3人と同数。
同じ男としたら、奥さんにいい格好したい。
折角この島に来てくれたリカルドに、助け船を出すことにした。
「まあ! あなたすごいわね!」
「あ、あぁ……」
ケイの援護によって、リカルドは助かったとでも言いたげな表情だ。
そんな表情したら、アデリナにバレるだろうがと文句を言いたいところだが、ケイはそれを我慢する。
今日自分が釣った分を提供するだけで、丸く収まるなら大したことではない。
ケイは自分の釣った魚が入ったバケツを、リカルドが釣ったことにすることにした。
「ケイ様は何匹釣りましたの?」
「私は4匹です。しかし、干物にするのでもう捌いて魔法の指輪に入れております」
アデリナの問いにリカルドは一瞬固まる。
ケイからすると、アデリナは素直に信じていないようにも見える。
しかし、今更嘘ではリカルドの面目が立たない。
嘘には真実を混ぜると効果的なものだ。
真実が混ざれば、目が泳がないようにもできる。
美花にも通用する方法を取って、ケイはアデリナに説明した。
ちゃんと捌いた魚を4匹出して。
「リカルド殿が釣った魚は、御夕飯にでも料理人にでも捌いてもらえばよろしいのでは?」
「そうですわね。もっとゆっくりしたいところですけど、子供たちに心配かけ過ぎるのは良くないわね」
リカルドは、あわよくば1泊するつもりなのが見え隠れする。
しかし、当初の予定通り夕方にはケイの転移で送ることを、アデリナの方は受け入れているようだ。
「美花殿。妻の相手をもう少し頼みますぞ」
「はい」
帰る時間まで美花たちとのんびりするアデリナを東屋に置いたまま、リカルドは駐留兵から現状の報告を受けるという理由をつけ、この場から離れて行った。
「助かりましたぞ! ケイ殿!」
ケイも一緒に付いて行ったのだが、誰もいない所で何度も感謝されたのはちょっと嬉しかった。
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