エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
176 / 375
第8章

第176話

しおりを挟む
「そこか!?」

 ケイが広げた探知に、僅かに反応があった。
 リカルドへ向けて飛んできた水弾の方角から、見つけることはそれほど難しくはなかった。
 しかし、リッチと同様で、魔力遮断がかなり上手い相手のようだ。
 その反応があった場所へ、ケイは銃を向けて攻撃を放つ。

「おっと! 見つかったか……」

 攻撃が飛んできたことで、それを避けた敵がケイたちの前に姿を現した。 
 その姿はかぼちゃの頭をし、小さなランタンを持った魔物だった。
 かぼちゃといってもオレンジ色をしたかぼちゃのパンプキン種。
 日本の緑色のスクウォッシュ種ではない。

「ジャック・オ・ランタン!?」

 その姿には見覚え見覚えがある。
 前世のゲームなどで見たジャック・オ・ランタンという魔物だ。

「苦戦しているな? エルベルト」

「助力頼む。アンブロシオ」

 ジャック・オ・ランタンはリッチの側に降り立ち、気安く声をかける。
 そのやり取りから、お互い知った仲のようだ。

「もう一体隠れていたのか?」

 リッチを探し出しただけで、ケイは他にいないか探すことを怠った。
 そのせいでリカルドに無用なダメージを受けさせることになってしまい、僅かに表情を歪めた。

「所詮は2対2になっただけだろ?」

「そうかな?」

 リカルドの強気な発言に対し、そう言い返したジャック・オ・ランタンことアンブロシオの魔力量は、リッチことエルベルト同様にかなりのものを感じる。
 その事に気が付いたケイが、リカルドへ警戒するように警告しようとした。

「ハッ!!」

 ケイのがリカルドへ警戒するように言おうとした時、アンブロシオのランタンに膨大な魔力が込められる。
 そして、その魔力が地面に向けて放出されると、そこには大きな魔法陣が出現した。

「っ!?」

「スカルドラゴン……だと?」

 その魔法陣から出現したのは、5m近い大きさをしたドラゴンの骨だった。
 アンデッド系でもかなり危険な種類の魔物の出現に、ケイとリカルドも目を見開いた。

「ガァーッ!!」

「まずっ!?」

 ケイたちが驚いているなんてことはお構いなしに、スカルドラゴンはブレス攻撃の態勢に入った。
 口の中に集められた魔力を見て、ケイはリカルドを守るように前に立ち塞がり、両手に魔力を集め始めた。
 そして、スカルドラゴンによって吐き出された火炎攻撃に対し、分厚い魔力障壁を張って待ち構えた。

“ボッ!!”

「ぐっ!」

 火炎攻撃の威力自体はケイが張った障壁によって防げたが、咄嗟に張った障壁だったため、火炎の熱は完全には抑えきれず、かなりの高温が突き出した両手に襲い掛かる。
 軽い火傷を負い、ケイは僅かに表情を曇らせる。

「すまんケイ殿」

「お気になさらず」

 魔力で障壁を張ることで、魔法などの攻撃を防げるケイとは違い、獣人のリカルドは躱すことでしか対抗手段がない。
 力任せに武器で吹き飛ばすということもできるが、こういったブレス攻撃ではそれも通用しない。
 ケイの咄嗟の判断で庇ってもらったことに、リカルドは感謝の言葉を述べる。
 エルベルトとアンブロシオだけなら、ケイだけでもなんとかできるかもしれないが、更に魔物を出されては結構きつい。
 リカルドの力を借りないと勝てないかもしれないので、助けるのは当然のこと。
 そんな打算も内心あったので、感謝してもらう必要はない。

「こっちも忘れるなよ!」

 スカルドラゴンに目がいっているケイたちに対し、エルベルトがアンデッド軍団を出現させて襲い掛からせてきた。

「このっ!!」

「くそっ! 厄介な……」

 スカルドラゴンという面倒な魔物を相手にしなくてはならないというのに、雑魚の相手をさせられることにケイとリカルドはイラ立ちを覚える。
 数を増やされてもたいした脅威にはならないが、手間が増える分時間を奪われる。

「ガァーッ!!」

「っ!?」

 アンデッド軍団を相手にしていたら、スカルドラゴンがまたブレス攻撃をしてくるような素振りを見せた。
 ケイが周囲のアンデッドを倒してリカルドの側で魔力障壁を張ったのだが、先程と違い、スカルドラゴンは巨大火球を発車してきた。
 
“ボンッ!”

「くっ!?」

 仲間であるはずのアンデッドたちも吹き飛ばしながら迫ってきた巨大火球が、ケイの張った障壁に衝突すると、大きな音と共に爆発を起こした。
 さっきのこともあり、ケイは強度を高めた障壁にしていたのだが、かなりの衝撃がケイを襲った。

「ハッ!!」

 スカルドラゴンの攻撃をケイが防いだ事で巻き上がった煙が治まると、そこにはまたもエルベルトがアンデッドの魔物たちを呼び寄せて待ち構えていた。

「無限ループかよ……」

 思わずケイは愚痴をこぼす。
 これでは、魔物を出している張本人のエルベルトとアンブラシオに攻撃をする暇がない。
 まるで、ジリジリ甚振られているかのようだ。

「俺が雑魚を引き受けます。リカルド殿はスカルドラゴンの方を……」

「了解!」

 敵の2体に気付かれないように、ケイたちは小声で短い会話を交わす。
 あのスカルドラゴンの1撃は面倒だ。
 まずはあれを倒しておきたい。
 リカルドなら、気を付けていればブレスなどの攻撃を躱すことぐらい難しくない。
 なので、スカルドラゴンの始末をリカルドに任せることにした。

「ハッ!!」

 またも数多くの魔物がケイたちへ迫り来る。
 それに対して、ケイは広範囲の火炎魔法を放って一気に雑魚を消滅する。

「今です!!」

「よしっ!!」

 ケイの火炎魔法によって、スカルドラゴンへまでの真っすぐな道ができた。
 その瞬間、ケイはリカルドへゴーサインを出す。
 リカルドもたいした打ち合わせもしていないのに、そうなる事が分かっていたかのように行動を起こした。
 できた直線を使って、一気にスカルドラゴンへと距離を詰める。

「ガァーッ!!」

「フンッ!!」

 スカルドラゴンも抵抗するためか、火球をリカルドへと放つ。
 しかし、魔力を溜める時間が短かったからか、先程よりも威力の弱い火球でしかなかった。
 例え、先程のような高威力の巨大火球の場合だったとしても、リカルドの身体能力をもってすれば避けることなど造作もない。
 迫り来る火球を躱し、上空へと跳び上がったリカルドは、ハンマーを頭上へ振りかぶった。

「私を忘れていませんかっての!」

「っ!?」

 落下と共にスカルドラゴンの脳天へ攻撃を加えようとしていたリカルドだったのだが、武器を振り下ろすその前にアンブロシオが割り込んで来た。

「くらえ!!」

「チッ!」

 割り込んで来たアンブロシオは、ランタンから炎を出してリカルドへと攻撃をした。
 その炎が迫り、リカルドは舌打ちと共に振り上げていたハンマーを下ろし、振り回した強風でその炎を吹き散らす。
 その攻防をしたことにより、スカルドラゴンへ攻撃をするタイミングをずらされたリカルドは、一旦後方のケイの側へと戻るしかなかった。

「……面倒な奴らめ!」

 邪魔をされたことでイラ立つリカルドは、眉間にシワを寄せて呟く。

「我々の連携は完璧だ」

「潜り抜けることはできない」

 リカルドが悔しそうな顔をしていることに、エルベルトとアンブロシオは愉快そうな声をあげる。
 たしかに、奴らの連携はなかなかのものだ。
 ただ、ケイはそれよりも気になることが浮かんだ。

「……もしかして、お前ら魔族か?」

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...