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第8章

第176話

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「そこか!?」

 ケイが広げた探知に、僅かに反応があった。
 リカルドへ向けて飛んできた水弾の方角から、見つけることはそれほど難しくはなかった。
 しかし、リッチと同様で、魔力遮断がかなり上手い相手のようだ。
 その反応があった場所へ、ケイは銃を向けて攻撃を放つ。

「おっと! 見つかったか……」

 攻撃が飛んできたことで、それを避けた敵がケイたちの前に姿を現した。 
 その姿はかぼちゃの頭をし、小さなランタンを持った魔物だった。
 かぼちゃといってもオレンジ色をしたかぼちゃのパンプキン種。
 日本の緑色のスクウォッシュ種ではない。

「ジャック・オ・ランタン!?」

 その姿には見覚え見覚えがある。
 前世のゲームなどで見たジャック・オ・ランタンという魔物だ。

「苦戦しているな? エルベルト」

「助力頼む。アンブロシオ」

 ジャック・オ・ランタンはリッチの側に降り立ち、気安く声をかける。
 そのやり取りから、お互い知った仲のようだ。

「もう一体隠れていたのか?」

 リッチを探し出しただけで、ケイは他にいないか探すことを怠った。
 そのせいでリカルドに無用なダメージを受けさせることになってしまい、僅かに表情を歪めた。

「所詮は2対2になっただけだろ?」

「そうかな?」

 リカルドの強気な発言に対し、そう言い返したジャック・オ・ランタンことアンブロシオの魔力量は、リッチことエルベルト同様にかなりのものを感じる。
 その事に気が付いたケイが、リカルドへ警戒するように警告しようとした。

「ハッ!!」

 ケイのがリカルドへ警戒するように言おうとした時、アンブロシオのランタンに膨大な魔力が込められる。
 そして、その魔力が地面に向けて放出されると、そこには大きな魔法陣が出現した。

「っ!?」

「スカルドラゴン……だと?」

 その魔法陣から出現したのは、5m近い大きさをしたドラゴンの骨だった。
 アンデッド系でもかなり危険な種類の魔物の出現に、ケイとリカルドも目を見開いた。

「ガァーッ!!」

「まずっ!?」

 ケイたちが驚いているなんてことはお構いなしに、スカルドラゴンはブレス攻撃の態勢に入った。
 口の中に集められた魔力を見て、ケイはリカルドを守るように前に立ち塞がり、両手に魔力を集め始めた。
 そして、スカルドラゴンによって吐き出された火炎攻撃に対し、分厚い魔力障壁を張って待ち構えた。

“ボッ!!”

「ぐっ!」

 火炎攻撃の威力自体はケイが張った障壁によって防げたが、咄嗟に張った障壁だったため、火炎の熱は完全には抑えきれず、かなりの高温が突き出した両手に襲い掛かる。
 軽い火傷を負い、ケイは僅かに表情を曇らせる。

「すまんケイ殿」

「お気になさらず」

 魔力で障壁を張ることで、魔法などの攻撃を防げるケイとは違い、獣人のリカルドは躱すことでしか対抗手段がない。
 力任せに武器で吹き飛ばすということもできるが、こういったブレス攻撃ではそれも通用しない。
 ケイの咄嗟の判断で庇ってもらったことに、リカルドは感謝の言葉を述べる。
 エルベルトとアンブロシオだけなら、ケイだけでもなんとかできるかもしれないが、更に魔物を出されては結構きつい。
 リカルドの力を借りないと勝てないかもしれないので、助けるのは当然のこと。
 そんな打算も内心あったので、感謝してもらう必要はない。

「こっちも忘れるなよ!」

 スカルドラゴンに目がいっているケイたちに対し、エルベルトがアンデッド軍団を出現させて襲い掛からせてきた。

「このっ!!」

「くそっ! 厄介な……」

 スカルドラゴンという面倒な魔物を相手にしなくてはならないというのに、雑魚の相手をさせられることにケイとリカルドはイラ立ちを覚える。
 数を増やされてもたいした脅威にはならないが、手間が増える分時間を奪われる。

「ガァーッ!!」

「っ!?」

 アンデッド軍団を相手にしていたら、スカルドラゴンがまたブレス攻撃をしてくるような素振りを見せた。
 ケイが周囲のアンデッドを倒してリカルドの側で魔力障壁を張ったのだが、先程と違い、スカルドラゴンは巨大火球を発車してきた。
 
“ボンッ!”

「くっ!?」

 仲間であるはずのアンデッドたちも吹き飛ばしながら迫ってきた巨大火球が、ケイの張った障壁に衝突すると、大きな音と共に爆発を起こした。
 さっきのこともあり、ケイは強度を高めた障壁にしていたのだが、かなりの衝撃がケイを襲った。

「ハッ!!」

 スカルドラゴンの攻撃をケイが防いだ事で巻き上がった煙が治まると、そこにはまたもエルベルトがアンデッドの魔物たちを呼び寄せて待ち構えていた。

「無限ループかよ……」

 思わずケイは愚痴をこぼす。
 これでは、魔物を出している張本人のエルベルトとアンブラシオに攻撃をする暇がない。
 まるで、ジリジリ甚振られているかのようだ。

「俺が雑魚を引き受けます。リカルド殿はスカルドラゴンの方を……」

「了解!」

 敵の2体に気付かれないように、ケイたちは小声で短い会話を交わす。
 あのスカルドラゴンの1撃は面倒だ。
 まずはあれを倒しておきたい。
 リカルドなら、気を付けていればブレスなどの攻撃を躱すことぐらい難しくない。
 なので、スカルドラゴンの始末をリカルドに任せることにした。

「ハッ!!」

 またも数多くの魔物がケイたちへ迫り来る。
 それに対して、ケイは広範囲の火炎魔法を放って一気に雑魚を消滅する。

「今です!!」

「よしっ!!」

 ケイの火炎魔法によって、スカルドラゴンへまでの真っすぐな道ができた。
 その瞬間、ケイはリカルドへゴーサインを出す。
 リカルドもたいした打ち合わせもしていないのに、そうなる事が分かっていたかのように行動を起こした。
 できた直線を使って、一気にスカルドラゴンへと距離を詰める。

「ガァーッ!!」

「フンッ!!」

 スカルドラゴンも抵抗するためか、火球をリカルドへと放つ。
 しかし、魔力を溜める時間が短かったからか、先程よりも威力の弱い火球でしかなかった。
 例え、先程のような高威力の巨大火球の場合だったとしても、リカルドの身体能力をもってすれば避けることなど造作もない。
 迫り来る火球を躱し、上空へと跳び上がったリカルドは、ハンマーを頭上へ振りかぶった。

「私を忘れていませんかっての!」

「っ!?」

 落下と共にスカルドラゴンの脳天へ攻撃を加えようとしていたリカルドだったのだが、武器を振り下ろすその前にアンブロシオが割り込んで来た。

「くらえ!!」

「チッ!」

 割り込んで来たアンブロシオは、ランタンから炎を出してリカルドへと攻撃をした。
 その炎が迫り、リカルドは舌打ちと共に振り上げていたハンマーを下ろし、振り回した強風でその炎を吹き散らす。
 その攻防をしたことにより、スカルドラゴンへ攻撃をするタイミングをずらされたリカルドは、一旦後方のケイの側へと戻るしかなかった。

「……面倒な奴らめ!」

 邪魔をされたことでイラ立つリカルドは、眉間にシワを寄せて呟く。

「我々の連携は完璧だ」

「潜り抜けることはできない」

 リカルドが悔しそうな顔をしていることに、エルベルトとアンブロシオは愉快そうな声をあげる。
 たしかに、奴らの連携はなかなかのものだ。
 ただ、ケイはそれよりも気になることが浮かんだ。

「……もしかして、お前ら魔族か?」

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