エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第231話

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「思ったより減っていないな……」

 突如現れた巨大蛇を倒す目前まで来た頃、その様子を見つめる男が現れていた。
 離れた場所から戦闘状況を眺めると、蛇が倒される寸前の状態になっている。
 これほどの時間でここまで痛めつけたのには感心するが、予定よりも死人や怪我人が少ない。
 そのことに、男は若干の不快感を示す。

「でも、これだけの数なら何とかなるか……」

 先程浮かんでいた不快感もすぐに消え去る。
 どんな策も、全て自分の思った通りに上手くいくなんてことはなかなかないものだ。
 むしろ、そう言った時は敵の罠にハマっている可能性がある。
 そう考えると、この程度の誤差は想定内だ。

「やれっ!!」

「ハッ!!」

 男の短い指示により、部下らしき男は持っていた松明の火を、ある線に近付ける。

“ドンッ!!”

「「「「「っ!?」」」」」

 蛇に群がり攻撃を続ける美稲の剣士たち。
 刀の切れ味を利用して、小さくできた傷に集中して攻撃をしている。
 時折蛇が目から光線を放って攻撃してくるが、その攻撃にも慣れた彼らには通用しなくなっている。
 その光線は魔法の一種なのだが、蛇は魔力のコントロールが上手くないのか、魔力を目に溜めるまでに僅かなタイムラグがある。
 剣士たちはその兆候を察知して回避行動に移っているので、蛇のその攻撃が当たることはもうないだろう。
 あとはこのまま蛇が死ぬまで攻撃を続ければ討伐完了といったところだろう。
 そう思って、ケイだけでなく美稲の剣士たちも心に余裕ができていたのかもしれない。
 その余裕を打ち壊すように、巨大な音が響き渡る。

“ドガンッ!!”
 
「なっ!?」

 突然鳴った音の方角にケイが目を向けた瞬間、蛇とその側にいた剣士たちに向かって巨大な球が飛んで来て、爆発を起こした。

「大砲だと!? 何を考えている!? 坂岡源次郎!!」

「何って? 魔物の退治に来たに決まっているだろ?」

 運よくその爆発の側にいなかった八坂は、弾が飛んできた方角を見て怒りをあらわにする。
 蛇と戦っている場所から離れた崖の上から巨大な砲筒数台が、こちらへ向けられている。
 そして、上重の右腕と呼ばれるほど信頼を得ている坂岡源次郎と、剣術部隊の面々が集まっていた。
 明らかに美稲の剣士たちを巻き込むことを意図した攻撃に、八坂はこのようなことをする理由を尋ねるが、源次郎は悪びれもしない態度で答えを返してきた。

「やれ!!」

「「「「「おぉっ!!」」」」」

 源次郎の声が響くと、出で立ちからいって浪人らしき者たちが樹々の陰から大勢姿を現し、こちらへ向かって攻め込んで来た。

「ギャッ!?」「ぐわっ!?」

「やめろ!!」

 浪人たちの狙いは、蛇の攻撃と先程の砲撃によって動けなくなっている者へのとどめを刺す事らしく、怪我人へ迫ると数人がかりで斬り殺しにかかった。
 魔闘術を使っていない所を見ると、浪人たちが強いとは言えない。
 怪我を負っている者たちは魔闘術を使えるが、動けなくなっている者が集団で攻撃されれば使えた所で対応しきれない。
 一人また一人と、美稲の剣士たちは浪人たちに斬り殺されて行った。
 
「っと、退け!」

「っ!?」

 ある程度の人間を斬り殺すと、浪人たちはすぐさまこの場から離れて行く。
 怒りに任せて浪人たちを追いかけようとした八坂だが、その行動に違和感を覚える。

「くっ!?」

“ドガンッ!!”

 予感は的中し、八坂はその場から飛び退く。 
 すると、浪人たちが離れたのを確認した源次郎たちが、またも大砲を放ってきて、またも数人の剣士が怪我を負った。

「魔物と一緒に殺してしまえ!!」

「坂岡!! こんなことしてタダで済むと思うなよ!!」

 源次郎は、明らかに美稲の者たちを殺すという発言をした。
 しかし、こんなことが知られれば、剣術部隊を管理する役割でもある上重もただでは済まない。

「大丈夫だ。ここから誰も帰しはしない!!」

“スッ!!”

 八坂が源次郎に忠告するが、源次郎の方はどこ吹く風といったところだ。
 そして源次郎がそのまま手を上げると、さらに多くの浪人たちが現れて、生き残っている美稲の剣士たちに向かってゆっくりと迫って来た。

「なっ!? ここまでの数を……」

 どうやら八坂たちは完全に包囲されていたようだ。
 2発目の砲撃で、蛇の方はもう絶命している。
 しかし、町から離れた場所での戦闘。
 見ている者はここにいる者たちだけ。
 ここで八坂の者たちを一掃してしまえば、誰も源次郎たちの悪行を知る者はいなくなる。
 これが源次郎たちが動き出した理由のようだ。

「おいっ!!」

「んっ? おやっ? ケイではないか?」

 ケイが源次郎へ声をかけると、源次郎もケイに目を向ける。
 初めて会った時のような礼節を持っているような表情はどこへ行ったのか、崖の上からというのもあってかかなり上から見下すように話しかけてきた。

「お前もこちらに来るか? 殺した分だけ褒美を出すぞ?」

「ふざけてんのか? 奴らを止めろ!!」

 急にいなくなったことを根に持っているのだろうか、とてもイラつく提案をしてきた。
 その提案に対し、ケイは眉間にしわを寄せながら浪人たちの歩みを止めるように声を張り上げる。

「冗談だろ? この数の包囲を相手ではお前でも太刀打ちで出来まい? 死んで後悔しろ」

「お前……、久々にムカついたわ……」

 流石に堪忍袋の緒が切れた。
 やっていることは、冒険者の中にもいるクズと同じことだ。
 気に入らない奴を誰も見ていない所で殺して、魔物の仕業にしようという魂胆。
 前世の日本人としての倫理観がそう思わせるのか、そんなことを平気でしようとする奴らが勝つのは気に入らないことこの上ない。

「んっ?」

「全員殺す!!」

「「「「「っ!!」」」」」

 ケイの呟きは届かず、源次郎は首を傾げる。
 それに対し、ケイは殺気をこめた魔力を放出させる。
 その殺気を感じた浪人たちは、恐怖に足が止まった。

「殺るぞ! キュウ!」

【うん!!】

“パパパパパパパパ……!!”

 イメージはマシンガン。
 2丁の銃を抜いたケイは、包囲する浪人たちへ向かって弾丸を連射する。
 威力よりも手数。
 この状況を打開するには、まず1人でも多くの浪人を殺して、怪我をしている八坂の部下たちの回復を待つ。

「痛え!!」「この野郎!!」

「チッ! 雑魚のくせに1発2発じゃ死なねえか?」

 ケイの攻撃で、あっという間に浪人たちの4分の1が怪我負う。
 しかし、それですぐに戦闘不能という訳にはいかず、怪我の痛みでケイへの恐怖よりも怒りが勝り、美稲の剣士たちを斬りかかりに走り出した。

「落ちるなよ? キュウ!」

【だいじょうぶ!】

 マシンガンでは殲滅は難しい。
 怪我人をかばいつつ浪人たちの数を減らすには、動き回るしかない。
 そう判断したケイは、ポケットの中からケイの肩へと移ったキュウに一言忠告した。
 アンヘル島では、いつもこの位置でケイと一緒に狩りをしていた。
 今更この場所から落っこちるようなへまをするつもりはない。
 なので、キュウは自信ありげに答えを返す。

「もらったー!!」

「くっ!?」

 ケイの弾が手に当たって血を流しながらも、その浪人は褒美に目がくらんでいるのか、両足を負傷して動けないでいる美稲の剣士に襲い掛かる。

「させるかよ!」

“パンッ!!”

「へぷっ!?」

 手に持つ刀を振り下ろす。
 それだけで褒美がもらえるはずだった男だが、音と共に飛んできたケイの弾丸が脳天に風穴を開き、奇妙な声と共に崩れ落ちて動かなくなった。

「す、すまん! 助かった!」

「誰か! 彼を!」

 ケイに救われた剣士は感謝の言葉を述べるが、ケイはそれどころではない。
 一から十までいうこともなく、ケイはその場から移動する。

「このガキャー!!」「死ねー!!」

「ガキって……」

““パンッ!!””

 浪人2人が、ケイの背後から斬りかかる。
 それを消えるように躱して、今度はその2人の背後にケイが回り込む。
 そして、ケイは両手の引き金を引き、左右の銃から音が同時に聞こえるよに弾が飛び出る。
 2人の浪人の頭から血が噴き出るのを確認する事無く、ケイは次へと移動した。

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