エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
298 / 375
第12章

第298話

しおりを挟む
「案内役は彼にしてもらいます」

 ドワーフ王国の北に位置する魔人の国エナグアへ到着して王との謁見を済ませると、一人の青年を紹介された。
 その青年の顔を見て、ケイは懐かしそうに目を細める。

「おぉ! 久しぶりだな?」

「お久しぶりです。ケイ様……」

 案内役として紹介された青年は、ケイに向かって恭しく頭を下げる。
 昔よりも大人になったその青年に、時の速さをケイは感じた。

「まさかオシアスが案内役とはな……」

 以前この国に来た時、ケイが世話になった兄弟の兄であるオシアスだった。
 その当時は、亡くなった両親の代わりになろうと懸命に弟の面倒を見る少年という印象が強かったが、今では立派な青年として頑張っているようだ。
 話では、王城内で宰相の補佐をする仕事をしているということを聞いている。

「私の方から立候補させてもらいました!」

「……そうか。お前も20歳を過ぎたのか……」

 身長が少しだけ伸びただけのように思っていたが、よく見てみればちゃんと青年としての顔立ちに変わっている。
 魔人大陸では魔物が危険なため、10代の内は町から出て遠くに行くことは禁止されている。
 しかし、案内役に立候補したとなると、数日町から離れることになる。
 つまり、20歳を過ぎていないと立候補すらできないということだ。
 15歳だったオシアスがいつの間にか20歳を過ぎたということに、ケイは時の速さを感じた。

「魔人大陸のことをもっとよく知るいい機会だと思いまして……」

 折角町の外に出る資格を得たというのに、軍に入っていないオシアスでは出る理由が存在しない。
 魔人大陸は、魔物の強さもあって行き来出来ないため、他の町や村とはいまいち情報のやり取りができていない。
 そのため、書物だけでは正確な情報が分からないため、今回ケイの案内と並行して自分の目で外の現状を把握しようとオシアスは思っている。

「大人になったな……」

「孤児の私がこうして王城で働けるのもケイ様のお陰ですので……」

 案内だけでなく他にも国のために働こうとするオシアスに、ケイは感慨深そうに呟く。
 自分のことをケイに認めてもらえたかのような思いがして、オシアスは照れくさそうに頭を掻く。

「俺は図書室の閲覧ができるようにしただけで、そこから先はお前の努力によるものだ」

「そう言ってもらえると自信になります」

 一通り再会を懐かしんだ後、孫のラウルのことをオシアスに紹介して、早速人族が流れ着いたと言われるところへ案内してもらう準備を始めた。
 久々の再開はオシアスだけではなかった。
 他にも、以前ケイが指導をした兵たちにも再会出来、短いながらも色々と話すことができた。
 特に、オシアスの弟のラファエルは、ケイに再開できて大はしゃぎしていた。
 前回は3歳で、言葉もしっかり喋れないほどだったのが、今では普通にしゃべるようになって背も少し大きくなっていた。
 しかし、所詮はまだ子供。
 一緒に遊んであげたら、夕方には疲れて眠ってしまった。
 そして、翌日、

「ラファエルは大丈夫か?」

「バレリオ様が面倒を見てくれているので……」

 ケイたちの案内で、オシアスは数日ここを離れることになる。
 そうなるとラファエルを1人家に残すことになってしまう。
 そのため、ケイは残して行くことを心配したのだが、どうやらバレリオが面倒を見てくれることになっていたらしい。
 バレリオはもう軍からは現役を退いており、後任にエべラルドが隊長の座に就いたという。
 軍を抜けて奥さんと共に過ごしており、息子が成人して軍に入ったため暇を持て余している状況だ。
 ラファエルが孫のように思えるのか、しょっちゅう面倒を見てもらっているらしい。
 それならば安心だと出発しようとしたのだが、

「……馬で行くのですか?」

「えぇ……、何か問題でも?」

 3頭の馬が用意されているのを見て、ラウルは疑問に思う。
 ケイから使うなと言われているので、転移を使う訳にはいかない。
 しかし、それでも馬で行くことになるとは思ってもいなかった。

「何日くらいかかるのですか?」

「2週間くらいでしょうか?」

「時間がかかり過ぎる。……お前魔闘術の訓練はもうしていないのか?」

 目的地までは相当な距離がある。
 そのために馬を用意してくれたのだろうが、さすがに時間がかかり過ぎる。
 ラウルの質問に答えたオシアスに、ケイはツッコムと共に問いかける。
 以前一緒に暮らしていた時、オシアスとラファエルには魔闘術を使えるように指導していた。
 弟のラファエルははっきり言って天才だが、オシアスもちゃんと訓練を続けていればある程度の実力になっているはずだ。
 ならば、馬に乗って走るよりも、自身の足で走った方が速いはず。
 そう思いケイは問いかけた。

「いえ、おこなっておりますが……」

 ケイたちが言いたいことは分かる。
 魔闘術で身体強化して、馬以上の速度で時間を短縮しようというのだろう。
 以前教わった通り、もしもの時の事を考えて魔力操作の訓練は続けていた。
 しかし、魔闘術で移動するにはこの大陸の魔物は危険すぎる。
 魔物の出現に注意しながら移動するなら、馬で移動した方が安全だ。

「お前の言いたいことは分かる。だからお前は戦闘に関わらなくていい」

「えっ?」

 オシアスがどうして馬を用意したのかは、ケイにはなんとなく分かる。
 今の仕事内容は事務処理をすることが多いため、オシアスは魔物と戦ったことがないはず。
 だから、恐らく魔物を探知しながら進むとなると足が鈍くなると考えているのだろう。
 たしかにここの大陸の魔物は危険なのでしっかり注意をしないといけないが、ケイたちからすると探知しながらの移動はお手の物だ。
 そのため、ケイはオシアスに魔物のことを気にする必要が無いと言い放つ。

「俺とラウルが前後でお前を挟み、もしも魔物が襲い掛かって来たら俺たちが始末するから大丈夫だ!」

「そうです!」

 魔物の存在を気にしながら進むと足が鈍るなら、魔物のことなど気にしなければいい。
 オシアスが1人でそれをやったとなれば、即魔物の胃袋の中に入ることになるだろうが、ケイとラウルが同行する以上そんなことにはならない。
 探知と戦闘をしながらでもオシアスの速度に遅れをとることは無いだろう。
 そのため、ケイとラウルは自信満々にオシアスのことを見つめた。

「…………そうですね」

 2人に言われてオシアスは最初迷った。
 現在軍の隊長になったエべラルドでも、1人で魔物を狩りに出るのは危険だ。
 ケイに教わったことで魔闘術を使える者は多くなったが、それでもこの大陸の魔物は強力だ。
 昔ほどの恐ろしさが無くなったとはいっても、それはいまだに変わらない。
 それなのに、ケイとラウルはなんてことないように言っているように思える。
 しかし、よく考えたら納得した。

「ケイ様を私が心配する方が間違っていますね」

 そもそも、ケイがエナグアの軍の者たちを指導した人間。
 教え子のエべラルドと比べることも間違っているし、そのエべラルドに劣る自分がケイの強さをどれだけ知っているのか分からない。
 ラウルのことはまだあまり分からないが、ケイの孫が普通のはずがない。
 考えていると、自分が心配するだけ無駄に思えてきた。
 そのため、オシアスはケイたちのいうことに従うことにした。

「んじゃあ行くか?」

「うん!」

「はい!」

 馬を厩舎に戻し、ケイ、オシアス、ラウルの順で列を作り、魔物の探知と制圧は主にケイがやり、案内役のオシアスの身の安全を計るのはラウル。
 そう言った役割分担をした後、3人は人族が流れ着いたという大陸の北東の村へ向かってエナグアを出発したのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...