エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第12章

第316話

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「よう! バレリオ!」

「おぉ! ケイ殿!!」

 エナグアへ戻ったケイとラウルは、そのまま元戦闘部隊の隊長だったバレリオの下へと向かった。
 自宅付近に道場を開設して、子供に武術を教えているという話だった。
 そこでケイの目的の人物であるラファエルが指導を受けているという話なので、人に聞いた道を進んでようやく道場を発見することができた。
 道場の敷地内へ向かおうとしたところで、丁度玄関が開いてバレリオに会うことができた。
 ケイが軽い挨拶をすると、バレリオの方も覚えていてくれたらしく、すぐにケイに握手を求めてきた。

「もう……6年だっけか?」

「えぇ! お懐かしい限りです!」

 エナグアの前回問題を解決してからだいぶ時間が流れている。
 とは言っても、段々と年数を数えるのが面倒になってきたためか、ケイにとって1年はだいぶ短い時間になってきていて、6年といってもたいした時間に感じない。

「ちょっと老けたか?」

「ケイ殿はお変わりないようでうらやましいですな!」

 戦闘部隊を脱隊したからなのか、バレリオは皺が増えて老けたように感じる。
 魔人は人族より少し長生きすると言われているが、ケイからするとたいした差でもなく、やはりエルフの自分は他の種族の成長とは違うのだと思わされる。
 バレリオの言うように、自分は他と違って20代から変わりない見た目なのが、ケイとしては良いのか悪いのかどちらとも言えない。
 妻の美花のように、大切な人を見送ることの辛さには慣れないからだ。

「ケイ様!!」

「おぉ! ラファエルか? でかくなったな!」

 バレリオに案内されて道場内に入ると、そこには少年が剣を振って稽古をしている最中だった。
 その少年は、素振りの途中でありながら、入ってきた人間を見てすぐに気付いたのか、素振りを中断してケイへと駆け寄ってきた。
 オシアスに似たその少年の顔に、ケイもすぐに誰だか分かった。
 以前の舌足らずだった話し方も改善され、身長も年相応にかなり伸びていた。

「6年だから今は10歳か……」

 体や言葉遣いは成長しているようだが、笑顔の方は昔と変わることがない。
 昔を思い出して、ケイは思わずラファエルの頭を撫でた。
 4歳くらいだったのが6年でだいぶ成長したようなので、ケイとしても懐かしい限りだ。

「オシアスにも久しぶりに会ってし、お前にも会っとこうと思ってな」

「そうですか。約束通りまたお会いできてうれしいです」

「あ、あぁ……」

 たしか前回別れる時にまた来ることを約束していた。
 完全に忘れていたケイとは違い、ラファエルの方はその約束を覚えていたようだ。
 喜んでくれているが、何とも言いにくい返事をするくらいしかケイにはできなかった。

「キュウも久しぶり!」

“コクッ!”

 ケイの肩に乗っているキュウとも久しぶりだ。
 そのため、ラファエルはキュウにも挨拶をする。
 キュウの方もラファエルのことを覚えていたのか、頷くことで返事をした。

「ケイ殿。そちらお方は?」

「あぁ! 紹介が遅れたな。俺の孫のラウルだ」

 懐かしい顔ぶれに、ケイはバレリオに尋ねられるまでラウルのことを忘れていた。
 そのことに気付き、ようやくケイはラウルを2人に紹介することにした。
 ラウルもケイが自分を言われるまで忘れられていたことに気付き、非難染みた眼を送っていた。

「孫!? さすがはエルフのケイ殿。随分大きなお孫さんがいるのですな……」

「お孫さん!?」

「どうも! 祖父がお世話になっております」

 ラウルを紹介された2人は、あまりのことに驚きの声をあげた。
 ケイの見た目が若いから、孫と言われてもいまいち納得できないのかもしれない。
 むしろ、兄弟と言ってもらった方がしっくりくるような感じだ。

「ラファエルの実力を確認しようと思ったんだが、ちょっと俺は戦闘で魔力を使いまくったあとでな。代わりにこいつが相手するから、全力でぶつかっていいぞ」

「そうですか……」

 昔のようにケイに指導してもらえるのかと思ったが、相手がラウルになると聞いて、ラファエルはなんとなく残念そうに呟く。
 完全に獣人の姿のラウルに、魔力操作ができないと思っているかもしれない。
 昔ケイが指導した通り、ずっと訓練を重ねていたとしたら大抵の相手はたいしたことがないと思っているかもしれない。
 ラファエルはそれで人を見下すことはないだろうが、自分より上の人間に会えないことでやや天狗になりかけているかもしれない。

「見た目は獣人だからって甘く見るなよ。ちゃんと俺の血も受け継いでいるんだ。実力は相当なものだぞ」

「わ、分かりました!」

 獣人は魔力を使わなくても強いのだが、ラウルはケイの血を引き継いでいる。
 身体能力に加えて、更に魔力を使えるということが予想されると、ラファエルは自分でも気付かないうちに勝てると思い込んでいたことを恥じた。
 ケイの言葉で気を引き締めたラファエルは、まっすぐにラウルへと体を向けた。

「ラウルさん。よろしくお願いします!」

「あぁ! じいちゃんが認める才能がどんなもんか楽しみにしているよ」

 油断しているうちにさっさと倒してしまおうという思いがラウルにはあったのだが、ケイの一言でラファエルの意識が変わってしまった。
 余計なことをして迷惑な祖父だと思いつつ、ラウルは頭を下げてきたラファエルに言葉を返した。
 ケイが褒めるほどの才能の持ち主だ。
 きっとこの若さでかなりの実力があるのだろう。
 ラウルとしても、なんとなく楽しみな気分になってきた。

「念のため、ここが壊れないように強化しておこう」

 このまま全力で戦うとなると、バレリオの道場に被害が出てしまうかもしれない。
 場所を借りるのだから、ケイはせめて道場を強化しておくことにした。

「ハッ!!」

 魔力を一気に放出して、ケイは道場の強化を図る。
 ケイの魔力に包まれた内部は、決着が付くまではもつはずだ。

「あぁ……、魔力切れ寸前できつい」

 せっかく少し回復したのと残っていた魔力を使ってしまったため、ケイは魔力切れ寸前になってしまい一気に疲労度が増した。
 そのまま座り込み、ここからは大人しく観戦することにした。

「ケイ殿、大丈夫ですか?」

「すまん。バレリオが審判役をやってくれ!」

「……分かりました」

 辛そうなケイに心配になり、バレリオが問いかける。
 少しすれば落ちくと思うが、この状態で審判をやるのはかなり辛い。
 そのため、ケイはバレリオに審判役を任せることにした。

「それでは!」

「「………………」」

 ラウルとラファエルは、お互い少し離れた所に立ち開始の合図を待つ。
 両者が持つのは訓練用の木剣で、ルールとしては負けを認めさせれば勝ちで、相手を死に至らしめなければ何でもありといったところだ。
 開始の合図を前にして、戦う2人はお互い無言で木剣を構えたのだった。

「始め!!」

「ハァッ!!」

 開始の合図と同時に、お互い魔闘術を発動する。
 そして、先に動いたのはラファエルの方で、床を蹴り、ラウルとの距離を一気につめた。
 魔闘術を発動する速度も、それによって一気に距離を詰める速度もかなりのものだ。

『この年でこれはたしかに天才かもな……』

 その速度に、ラウルは内心驚きを覚えつつも感心していた。
 これほどスムーズに魔力を使えるようになるには、きっと地道な訓練をおこなってきたのだろう。
 天才という言葉で片付けるのは良くないが、ケイの言いたいことも分からないでもなかった。

「速い!?」

 ラウルの胴を狙った横薙ぎが当たると思っていたのに、何の感触も感じないことに驚く。
 それもそのはず、ラウルが一瞬のうちに後退して横薙ぎを躱していたのだ。

『まぁ、魔人にしてはだが……』

 ラファエルに実力と才能はあるのは分かった。
 しかし、魔力の操作に長けた人種それがエルフだ。
 地の濃さは4分の1とはいえ、魔力を操る才はラウルも祖父のケイから受け継いでいる。
 しかも練度という意味では、年齢的なこともあってこちらの方が上だ。
 これが全力なのかも分からないので、ラウルはもう少しラファエルの動きを見ることにした。

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