エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第12章

第315話

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「オシアス!」

「あっ! おかえりなさいケイ様! ラウル様!」

 転移魔法で魔人大陸に戻ってきたケイとラウル。
 流れ着いた人族を保護していた村の近くに戻ると、村の門の近くにオシアスが立っているのが確認できた。
 どうやら数人の兵と主に周囲の魔物を狩ってきた帰りらしい。
 戻ってきたケイたちを確認すると、目を輝かせて近寄ってきた。

「……随分お疲れのようですね?」

「思ったより面倒な相手だったんでな」

 自作の回復薬やラウルの回復魔法で怪我は治療済みなのだが、服は着替えるのを忘れていた。
 ボロボロの服装を見たオシアスは、苦労したのだろうと感じ取った。
 その視線で自分の身なりに気が付いたケイは、新しい服を魔法の指輪から取り出して着替えることにした。

「ケイ様たちほどの実力者でも苦戦するとはよほどの相手だったのですね?」

「まあな、魔族が2人もいた」

「っ!!」

 指導を受けていたし、この村まで来る間の魔物との戦闘姿を見ていたから、ケイがとんでもない実力者だということは分かったいた。
 しかし、やっぱりスタンピードを止めるのは苦労したのだろうと思っていたが、どうやら違ったようだ。
 まさかの魔族という言葉を聞いて、オシアスは目を見開いた。

「魔族が、しかも2体……?」

「あぁ、その内1体はかなり強くてな……」

 魔族の恐ろしさは魔族の間でも恐れられている。
 かなり昔に1人の魔族が出現し、倒すのに相当苦労したという話が広がっていた。
 それに、数年前にドワーフの国にも出現したという話も聞いている。
 その時は、ケイとリカルドの協力もあって抑えられたと伝わっているが、最初の内は魔人たちは誰も信じていなかった。
 獣人の王であるリカルドはともかく、エルフがそんなに強いということは知られていなかったからだ。
 魔族1人でもかなりの脅威だというのが伝えられているというのに、それが2人となると相当大変だったのだろうと、オシアスは今更ながらに無茶な頼みをしたものだと思った。
 それと同時に、ケイの実力は多少なりとも知っているつもりではいたが、毎回魔族を倒してしまうまでの実力だとは思わず、まだまだ実力の一端だけしか知らなかったのだということに改めて思い知った。

「まぁ、何とか倒せたから、あの人族たちは大陸に戻していいぞ」

「畏まりました。この度はありがとうございました」

 元々、人族を元の大陸に戻すために問題解決をしたのだ。
 その問題は取り除けたので、もう返してしまって良いだろう。
 人族たちにも魔族の討伐を伝えたら、元の地へ帰れると喜んでいた。
 魔人大陸の魔物の強さを肌で感じ、とてもではないが暮らせないと思い知ったようだ。
 後はオシアスたちが、人族たちの乗って来た船を修理するなり、新しい船を提供するなりして送り返せば済む話だ。
 エナグア魔人王国の国王に問題解決の報告をして、ケイたちはドワーフ王国へ向かうことにした。

「あっ! ケイ様!」

「何だ? 手短に頼む!」

 エナグアに戻ると聞いて、オシアスは転移しようとするケイたちを止めてきた。
 他の人間に見られないように早々に退散したいところだが、オシアスもそれを分かっているだろう。
 そのため、何かあるにしても端的に求めた。

「一目でもラファエルに会っていって頂けますか?」

「あぁ! そうだな。どんな成長をしているか確認していくよ」

 昔別れる時、また来るといって数年経ってしまっている。
 もしかしたらラファエルが自分のことなんて忘れている可能性も考えられる。
 しかし、魔人大陸に次来るのもいつになるか分からないため、ケイは約束を守るためラファエルに会っておこうと考えた。
 かなり魔力操作の才があったように記憶しているが、どこまで強くなっているか確認してみたい。

「じゃあ、またな!」

「はい! またお会いしましょう!」

 また何かあれば魔人大陸にまた来ることもあるだろう。
 そのため、ケイはオシアスに再会を約束するような挨拶を交わして転移の扉をくぐろうとした。
 その言葉の意味をちゃんと理解したオシアスは、嬉しそうにケイの背中へ挨拶を返したのだった。





「ラファエルってじいちゃんが言ってた天才君だろ?」

「あぁ」

 以前エナグアの問題を解決した時に一緒に過ごしていた時、オシアスと共に魔力の操作を教えてあげたラファエル。
 魔人族では天才と言って良いだろう。
 ラウルの問いに対し、ケイは頷きを返す。

「俺より強いの?」

「う~ん。流石にそこまでは行かないかもしれないな」

 3、4歳にしてはかなり魔力を掴むが早かったが、やはりエルフの血を引くラウルの方が上かもしれない。
 しかも、ラウルは獣人の血が濃いため、素の状態の身体能力だけでも魔人族以上の力を有している。
 そのため、ラファエルは恐らくラウルには届かないだろう。

「俺は結構疲れているし、お前が相手してくれ」

「えっ? 俺も転移で結構魔力使ってんだけど?」

「ハンデとしてはそれで丁度良いくらいじゃないか?」

 祖父であるケイに天才と言われるほどの人間だ。
 孫の身としては、そのラファエルと言うのがどれほどの強さか気になる。
 しかし、自分が相手をするとは思わず、ラウルはまさかのケイの言葉に驚いた。
 たしかに魔族と戦って数時間程度しか経っていないので、ケイの魔力はたいして回復していないだろう。
 しかし、自分もケイの骨折を治したり、かなりの距離を転移してきたため魔力を結構消費している。
 そんな状態で天才とか言っている人間と戦わせようなんて、相変わらず厳しい祖父に迷惑する。
 それが分かっているのか、ケイはラウルの困り顔が楽しそうだ。

「それで負けたら恥ずいだろ。明日にしてくれよ」

「それはそれで面白いからダメだ」

「面白いのはじいちゃんだけだろ!」

 一応男子たるもの、負けるのは嫌だ。
 しかも、もしも負けて魔力を使ったからなどと、みっともない言い訳をしたくない。
 せめて明日にしてほしいところだ。
 しかし、ケイはその提案を受け入れず、このまま直行する気満々だ。
 孫が負けて何が楽しいというのだろうか。
 自分の祖父ながら、ドSな扱いにラウルはイラッと来た。

「まぁ、だいぶ経っているから、忘れられているかもしれないけどな……」

「門前払いになったら面白いな」

「……やっぱり血のつながった孫だな」

 ラファエルと別れて数年経つ。
 もしかしたら、会いに行っても兄のオシアスのように自分のことを覚えているとは限らない。
 そうなったら、ケイとしてはちょっとショックかもしれない。
 ラウルとしては、ショックを受ける祖父の顔が見てみたいという思いから、忘れられていればいいと腹黒い笑みを浮かべた。
 さっきの報復とばかりのラウルの笑みに、ケイは同じようなことで面白がるところが自分とそっくりだと感じ、血のつながりを確認したような思いだった。

「魔人大陸のことは魔人に任せるのが一番いい。それを確認するためにも真面目に相手してやってくれよ」

「あぁ、分かったよ」

 今回はともかく、前回のように自分たちの大陸のことはなるべく自分たちで解決してもらいたい。
 そうすれば、他の種族(主に人族)の侵攻には対応できるようになるはずだ。
 昔のままちゃんと訓練していれば、その先頭に立てるだけの才能はラファエルにはあるように思える。
 それを確認するための訓練をラウルにはしてもらいたい。
 魔力の消費のことは気になるが、ケイは自分の方が天才君より上だと思ってくれていると、ラウルは若干嬉しく思っている。
 その期待に応えるためにも、ラウルはちゃんと相手することを誓ったのだった。

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