メサイアの灯火

ハイパーキャノン

文字の大きさ
上 下
263 / 405
神世への追憶編

第二次エルヴスヘイム事件9(レアンドロの勇姿とノエルの気遣い)

しおりを挟む
 このお話の中盤でちょこっと出て来ますけれども大体、1フェスティル=5・45ユーロ位だと考えて下さると有り難いです(異世界間での兌換紙幣問題の為に、為替も中々安定しません)。

 ちなみにそれでも“管理通貨制度”に移行していないのはエルヴスヘイムでは人間界よりも金融業界が発達していないためと、所謂(いわゆる)“世界恐慌”を経験した事が無いからです(危機にあったら制度や法律に整備したり頼ったりするのではなくて、皆で力を合わせて頑張ろう、乗り切ろうとするのがエルフ流な為に、金融業界を始めとする各業界で“破滅危機”が極めて起こり難いのですね)。

 そう言う事で御座います。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
ーーーーーーーーーーーーーー
 不可思議と魔法の大地であるエルヴスヘイムにも実は、れっきとした“科学技術”が存在していてエルフ達の生活基盤やインフラ等を支えていた。

 “自然法力学”とも呼ばれているそれは人間界で言うところの“量子力学”に“錬金術”や“魔法呪術”の要素を取り入れ、それを更に進化発展させたモノで単に建築や化学のみならず医療や金融、飲食業界等様々な分野で応用が利く、極めて普遍的で便利な“基軸力学”とでも言うべきモノであったのだったがその関係上、彼等の世界にも人間界で見る事が出来る様な、様々な機械やコンピュータが幾つか出現し始めていてエルフ族を日夜、補佐していたのだ。

 そんな彼等の技術の一つに“セルフレジ”と言うのがあったがかつて自分が来た時にはまだどの街の店舗でも見掛けなかった技術の進歩に蒼太は改めて目を見張ると同時にある種の悩みを抱える事となってしまった。

 それは“お金”に関するモノであったが“自然法力学”が発達する遥か以前よりこのエルヴスヘイムにも“フェスティル”と呼ばれている、所謂(いわゆる)一つの“貨幣”と言うモノが存在していて、古い歴史のあるそれは真鍮と青銅、及び“秘密の手法”で生成された“特殊アルミニウム”等を決められた比率で混ぜ合わせて形作られており、これがこの世界での基軸通貨となっていたのである、ところが。

 この“フェスティル”は長い間、エルヴスヘイムが人間界に対して閉鎖されていた関係上、今の人間の貨幣価値(特に円やユーロ)に換算して幾ら位の価値を持っているのかが、全く解ってはいなかった、その為。

 フォルジュナを始めとするエルフ達は最初、“アイリスベルグ”に貯蔵してある自分達のフェスティルの大半を、蒼太達に分け与えようとしていたのであったがこれは蒼太側が丁重にお断りした為に(“道中に必要な路銀分だけ用意していただければ自分達はそれで構わないから”と、蒼太達はお断りを入れたのである)“それならば”と、フォルジュナは更に蒼太達にある“マジックアイテム”を貸し与えようとしてくれたのだ。

 それは人間界で言う所の“クレジットカード”であって、要するに“それを使って道中の路銀の足しにして下さい”との彼女達の好意であったのであるモノの、これも蒼太達は“そんな事は出来ません”とやんわりとしかし、ハッキリとしたお断りを申し入れた、彼等は彼等で“フォルジュナ達が金銭的にかなりの無理をしているのではないか?”と気に掛けていた為だったのであるモノの、それだけではない。

 蒼太達自身も然る事乍ら、特にダーヴィデ達伯爵連中が強烈に反対していた、曰く“ただでさえ豪華な装備品の数々を授けていただけた、と言うのにその上更に助けを請う程にまで弱っている人々から路銀まで徴収した、とあっては末代までの恥となる!!!”との事であり、また“それに金ならば我々とても蓄えはそれなりにあるから何とかなるであろう”との言葉であって、それを蒼太がフォルジュナに伝えた結果、“ではこう致しましょう”と彼女が改めて提案して来た、それはー。

 彼等の持っている資産やクレジットカードをこのエルヴスヘイムでも使える様に“錬金術”を掛けて改良する、と言うモノでありそれが済んで一段落した時点を以て漸くにして蒼太達一行の旅の準備は万端となった訳である、そしてー。

 それぞれがエルフ達から与えられた武器や防具、そして戦闘服を装着して回復・治療用のアイテムを買い揃えるのに更に1日の猶予をもらい、晴れて彼等はアウディミアの本拠地がある、と言われている“極北星下の禁足地”へと向けて、長い旅路に就いた、と言う次第であったのだ。

 ちなみに、“幻の揺蕩う新緑地”に召喚されたカッシーニ邸はそこに仕えるメイド達共々、フォルジュナ達アイリスベルグのエルフ達が保護してくれる運びとなり此処に蒼太達の後顧の憂いは絶たれたモノの、蒼太にはもう一つの心配事が残っていた、それこそがー。

「レアンドロ、アソコ見て?金色の蝶々が飛んでいるわ!!!」

「ああノエル、こっちには白銀の花が咲いているよ。綺麗だねぇ!!!」

 実戦経験のまるでない(ついでに言えば緊張感もない)ノエルとレアンドロのペアを連れて行く事であったのだが幸いな事に、とでも言うべきか、これまでの所は道中は特に大きな問題も無く、至って順調に推移していた。

 基本的に平和なエルヴスヘイムにあって、モンスターの襲来はそれ程の頻度で発生するモノでは決して無かったがそれでも途中で何度かスライムやゴブリンの幼体やお化けミミズ、そして魔物化した吸血コウモリ等の群れに出くわしてはその都度その都度、蒼太達が二人を守るように円陣を組みつつ戦闘を熟し、モンスター共の集団を撃退していったのである。

「・・・うふふふ、うふふふふふふふっ。あなた❤❤❤」

「・・・・・?なにさ、メリー」

「格好いいよ?まるで昔の物語に出て来る“白の魔法使い”みたい・・・」

 旅の合間に皆の目を盗んで彼の腕に自らのそれを絡めつつ、メリアリアがソッと告げて来るがまさしくこの時の蒼太の出で立ちは“白の魔法使い”そのものであった、と言って良かった、着込みとしてミスリルで出来た白銀の長鎖帷子を装備した上から純正法力を練り込んで編まれた“白精のローブ”を身に纏い、また右手には“長老の木”の太枝より切り出して形成された“白き導き手の杖”を握り締めた今の彼は名実共に“白き風の導き手”であったのだ。

「だけどエルヴスヘイムって本当に平和なのね?感覚を研ぎ澄ましてみると余計にハッキリとするわ、だって人間界にいた時よりも全然歪みって言うのかな。“邪気”そのものを感じないもの!!!」

「そうですわね・・・。って言うかメリアリアさん、狡いです!!!」

「どさくさに紛れて何をやっているんだ!!!」

 とそんな愛妻淑女(メリアリア)の言葉を聞いたアウロラとオリヴィアとが自らも蒼太に抱き着きつつも頷いて見せるが確かにここ、エルヴスヘイムは平和と言えば平和であって黄金色の太陽は煌々と照り付け、青空は何処までも澄み渡っており、時折吹き抜けて行く風が蒼太達を優しく癒してくれた。

 草原に草花は咲き乱れてそよぎつつ、木々は森林に青々と茂ってそこら中から新鮮な空気と霊気とが発出されていたのだ。

 アイリスベルグを出てから既に3日、蒼太達はそれでも確かに、光り輝くエルフ達の世界を満喫出来ていたのであったが、そんな彼等の一時の安らぎと言うか静かなる旅路を見事なまでにぶち壊しにしてくれたのが、他でも無いノエル達だったのでありしかもそれが金銭的価値観の相違によって引き起こされて来たのである。

 その日の夕方。

 “逢魔が時”の来る少し前に、漸くにして到着した二つ目の街“カッサリア”にて蒼太達はその日の宿を求めて街中の探索を開始した、ちなみにエルフ達の街や集落と言うのは基本的には巨大な木々の生い茂っている大森林の奥地か中心部分にあるモノなのであるがここは“オウンガルズ”と同様に、平地のど真ん中に形作られている人間界のそれに近い大型の城塞都市であったのだ。

 分厚い鉄筋コンクリートで固めた城壁で四方を覆い、その中に木や漆喰、またはベトンで家を建てて生活を営むスタイルはエルフ達の中ではまだまだ異端であったが蒼太達にとってみれば非常に慣れ親しんだモノであり、宿屋や酒場、商店街等もあっという間に見付かった為に先にシャワーを浴びて野宿の汚れを清めた一行はそのまま、夕暮れ時の迫る街の中を食事とショッピングの為に出歩いていた、そんな最中。

 “事件”は起きた。

「商品のバーコードをスキャンして下さい」

「お金を入れて下さい」

 その店は所謂(いわゆる)、“エルヴスヘイム”での“化粧品メーカー”の直売所であったらしく、各種美容液やらクリーム等の様々な自社製品がそこかしこに展示されていたのだが、その内の数点をノエルが取ってお会計を済まそうとした所、数カ所あるキャッシャーの奥にはいずれも店員の姿は無く、代わりに何台かの“セルフレジ”が置かれていたのだ。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「・・・セ、セルフレジ!!?」

「こ、こんな所にまでもIT革命の波が押し寄せて来ようとは・・・っ!!!」

 ノエル達ペアにくっ付いて散策していた蒼太やメリアリア達花嫁組が驚くやら呆れるやらで互いに顔を見合わせているとー。

「な、なにぃっ!!?コイツ、僕からお金を取ろうと言うのか!!!」

 一番遠くのキャッシャーから知った人物の声が響き渡って来た、誰あろうレアンドロその人であるモノの、“何事か!!?”と思って見に行った蒼太達は思わず、“やっぱり黙って帰っておけば良かった”と全員が後悔する程の恥辱と心苦しさとに苛まれる事となったのである。

「なんだ、コイツ。僕を誰だと思っているんだ?ルクセンブルク大公家のレアンドロだぞ?」

「レアンドロ、頑張って!!!」

 そこに出来ていた人だかり(エルフ達)を掻き分けて前面に躍り出た蒼太達一行が見たモノは、セルフレジと格闘しているレアンドロと、固唾を呑んでそれを見守っているノエルの姿だったのだ。

「・・・・・!!!」

「・・・・・!!?」

「レ、レアンドロさん・・・?」

「な、何をしているんだ?一体・・・!!!」

「君、何者か知らないが隠れてないで出て来たらどうだ?正々堂々、話を付けようじゃないか!!!」

「商品のバーコードをスキャンして下さい」

「レアンドロ、しっかりね!!!」

「・・・・・」

(ほ、本当にしっかりしてくれよ?レアンドロ。君は一体、何をやっているんだ・・・!!?)

 目の前で繰り広げられつつある光景に、いっそある種の戦慄すら抱いてしまった蒼太の気持ち等どこ吹く風で、レアンドロはセルフレジに向かって真正面から対峙して見せる。

「商品のバーコードをスキャンして下さい」

「さっきからそればっかりだ。姿も見せずに接客するなど、巫山戯(ふざけ)るにも程がある!!!」

「・・・・・」

「商品のバーコードをスキャンして下さい」

「いい加減にしたまえ、こうすれば君の気が済むとでも言うのか!!?」

 よくよく省みてみれば。

 このレアンドロ対セルフレジの攻防は、非常に滑稽極まりないモノだった、いやレアンドロからしてみれば彼なりに、問題の解決の為に全力で取り組んでいたのであろうが蒼太達にとってはそのナンセンスさに些か以上にドン引きしてしまっていたのであるモノの、ノエルと同じで“Going my way”と言えば聞こえは良いがそんな自分を取り巻いている状況等は少しも感知する所では無いレアンドロは画面を睨み付けつつも赤外線にバーコードを当ててみた、すると。

 “ピッ”と言う音と共にパネルに商品名と幾つかの数字が投影されてまたもレアンドロを困惑させる。

「な、なんだこれは。一体これが何だって言うんだ!!?」

「お支払い方法を、選択して下さい」

「よろしければ、お金を投入して下さい」

「巫山戯るなよ?君。よろしい訳が無いじゃないか、姿も見せずにいい加減にしろ!!!」

「レ、レアンドロ・・・ッ!!!」

「あっ。ソー君!!!」

「ああっ!!?蒼太じゃないか、良いところに来てくれたな!!!」

 堪らなくなって思わず、声を掛けてしまった彼に反応し、ノエルとレアンドロが一瞬、彼に向き直る。

 が。

「君、いい加減にしたまえ。そんな接客が世界の何処にあるって言うんだ、早くそこから出て来てちゃんと謝罪をしたまえ。そうすれば許さない事も無いぞ!!?」

 次の瞬間には再び、視線を画面に移して怒声を発し、相手を(つまりはセルフレジを)威嚇し続けるがそうだったと、この時になって漸く蒼太は理解した、恐らくの話ではあるモノの、生まれてからこの方レアンドロは対面接客ばかりを受けて来たのであり所謂(いわゆる)“セルフレジ”が置かれているような場所や店舗での買い物をした事が無かったのだと思われる。

 況してやここはエルフの世界だ、まさか現実的にも最先端技術の一つであるAI式セルフレジが自らの目の前に設置されている、等とは夢にも思わなかったのであろう。

「レ、レアンドロ。レアンドロってば・・・!!!」

「止めてくれるなよ?蒼太。聞けば女性の声をしているが、そんな事は問題じゃない。ちゃんと姿を見せて接客をしないとはこの店は客を舐めているのか?いい加減にこの機械の中から出て来るが良い!!!」

「レアンドロ、油断しないでね!!?」

「・・・・・っ!!!」

 その声のする方に、蒼太は遂に怒りの眼差しを向けた、レアンドロは生まれてこの方、王侯貴族であったからまだ仕方が無いにしてもノエルは明らかにこの機械の仕組みを知っている筈である、それなのに意味不明な煽りを行い続けて一体、どうしようと言うのであろうか。

「ノエルさん、何を・・・っ!!?」

「ノエル、見ていてくれよ?僕の勇姿を。僕は必ずこの店の従業員に、接客の何たるかを教えてみせる!!!」

「レアンドロ・・・ッ。うん、待ってる❤❤❤」

(“待ってる❤❤❤”、じゃねーよっ!!!)

 やるかたない憤懣を暴発させたかった蒼太であったがとにかく今はそれどころではない、レアンドロを冷静に諭さなければならなかった。

「と、とりあえずレアンドロ。一旦、落ち着こう?先ずはその機械にお金を払ってみてくれ・・・!!!」

「バカな、蒼太。君はこれだけおちょくられた挙げ句にまだ“金を払え”と言うのかい!!?」

「と、とにかく先ずはお金を入れて・・・。ああ、そうか。君は少量の現金(キャッシュ)以外はカードしか持っていなかったんだっけね、先ずは“お支払い方法”の画面に戻って。それで“カード”を選ぶんだ!!!」

「く・・・っ!!!」

 “そうしないと話が先に進まないから!!!”と言う青年からの、必死の説得が奏効したのだろう、レアンドロは渋々ながら言われた通りに画面を操作し、“カード挿入画面”にした後で挿入口へとカードを入れた、すると。

「暗証番号を、入力して下さい」

「ふふ、その手には乗らない。そうやって僕から個人情報を盗み取る気だろ?その位の罠、僕にだって解るぞ!!!」

「・・・・・」

 “良いから早くしてくれよ、もう・・・”と蒼太は殆ど泣きたくなりながら思った、既にエルフ達の中には驚愕を通り越して流石にその滑稽な姿に“クスクス・・・”と笑い出している人もおり、このままではレアンドロが異世界で“ドンキホーテ”になってしまう可能性すらあったのだ。

「蒼太、僕はこんな三流店の仕掛けた罠なんかに嵌まらないぞ?見てくれたかい、ノエル!!!」

「ええ、見たわ?レアンドロ。貴方の勇姿、確かに見届けたわ!!!」

「・・・・・っ。ああ、もうっ。本当に!!!」

 いてもたってもいられなくなった蒼太はレアンドロに“退いてくれ!!!”と告げると自ら現場に乗り込んで行っては懐から財布を出し、そこから更に一枚の“ブラックカード”を手に取ると、レアンドロと機械の間に割って入って後は無言で、ただひたすらに“取り消しボタン”を連打する。

 すると。

「最初から、やり直して下さい」

「ほらな?見たか蒼太、遂にこのなんちゃって詐欺師従業員は音を上げたぞ!!?」

「お手上げなのはこっちの方だよ、全く!!!」

 吐き捨てるようにそう言うと蒼太は目の前に置かれていた化粧品やクリームにチラリと目をやって“商品はこれで全部?”と彼に尋ねる。

「ああ、これで全部だよ?だけど蒼太、此処(ここ)の店は止めた方が良い。従業員の質が悪いよ!!!」

「ちょっと黙っていてくれ、頼むから!!!」

 心の底から自分の身を案じてくれているのであろうレアンドロに対して何とか、込み上げてくる恥ずかしさや怒りを抑えながらそれだけ言うと、蒼太はカード決済で商品を残らず買い取ってみせた。

「そ、蒼太。大丈夫なのかい?こんな店でカードを使ったりして・・・!!!」

「・・・大丈夫、問題無いよ。この前フォルジュナ様にカードの機密情報防御能力も強化してもらっているからね。それよりも」

 蒼太は排出されて来た領収書を見ながらレアンドロに告げた、“今回は僕が建て替えておいてあげるけれども、代金は後で請求するからね?”とそう言って。

「どれどれ、しめて32000フェスティル?それってどれ位だろう・・・」

「このカードを使った場合のエルヴスヘイムと人間界の金銭的価値の為替レートは“金本位制”準拠で動いているんだ。だからざっと見て、今の金の価値をフェスティルに変換させて、それを更に相場に直すと凡そ174500ユーロになるね・・・」

「うわぁ、結構な買い物をしたな。でも可愛いノエルの為だ、それ位何て事無いさ!!!」

「ソー君、さすがね!!!」

 “あとこれも買って!!?”とノエルが続けて持って来た化粧品の数々をまた“ピッ”、“ピッ”、“ピッ”と赤外線に勝手にスキャニングさせる、すると。

「お支払い方法を、選択して下さい」

「・・・あのね、ノエルさん。貴女(あなた)いい加減に」

「ま、待ってくれ。蒼太!!!」

 すると何事かを言い掛けた青年に対してレアンドロが口を挟んで来た。

「今度は僕にやらせてくれ。なぁに、やり方は今ので何となくは解ったよ!!!」

「・・・・・」

 “まったくもう・・・!!!”とぶつくさ言いつつそれでも蒼太がその場を離れると代わってレアンドロが画面に入力を試みる、が。

「僕は現金(キャッシュ)で行く・・・!!!」

「えっ?」

「・・・・・っ!!!」

 これには蒼太はおろか、ノエル自身も“それ程の額を持ち歩いていたのか!!?”と内心で驚いたがレアンドロは彼等が何か言う前に“こんないかがわしい店で僕はカードは使いたくない!!!”と言い切って財布に手を突っ込むと先程と同じ程度の金額を金銭投入口へと半ば強引に押し込んだ、しかし。

「投入金が不足しています。お金を投入して下さい」

「なにぃっ!!?」

 今度はレアンドロが驚く番だった。

「コイツ・・・。今までの分だけでは飽き足らず、僕から更に金をふんだくろうと言うのか!!?」

「おかしいな?基本固定相場制な筈なんだけど・・・。だけどもしかしたなら異世界間だから紙幣自体の価値が色々と上下しているのかもね、何しろ“金とフェスティル”を基準とした“金本位制”で為替レートが動くからね。人間界との相場は常に変動しているんだ、だからさっきよりも割高になっているのかも知れないよ?」

 蒼太の言葉に“なるほど・・・”と漸くにして冷静さを取り戻したレアンドロは残りの現金を投入して商品を買い取り、それらをノエルへと引き渡してみせた。

「やったよノエル。見たまえ、僕だってやればちゃんと出来るだろう!!?」

「ええっ。凄いわレアンドロ、私見直しちゃったぁ~っ(≧▽≦)(≧▽≦)(≧▽≦)」

「・・・・・」

「・・・ノエル!!!」

「信じられません、プリンセスがあんな事を・・・!!!」

「何故、わざわざ彼氏を笑い者にするような真似を・・・?」

 そう言って周囲の皆の目を他所に、二人で抱き合って喜び続ける彼等の姿を見て、どうにも腑に落ちなかった蒼太はその日の夕食の後で自身と同じ意見、憤慨を抱いていた花嫁達と示し合わせてノエルに詰問する事にした、議題は勿論、メリアリア達が言っていた様に“何故レアンドロをフォローしてあげなかったのか”と言う事に関してのモノであり殊に彼女の人の良さや優しさ、暖かさを知る蒼太達一行にとっては、どうしても先程のノエルの態度は納得出来かねるモノであったのである。

「どうしたの?ソー君、それにメリアリアちゃん達も・・・」

「・・・ノエルさん」

 その場が軽い緊張感に包まれる中で蒼太がまずは切り出した、“どうして先程はレアンドロをフォローしてあげなかったのか?”とそう問い詰めて。

「レアンドロは、まあ仕方が無いでしょう。彼はあれでも由緒ある血筋の出です、今まで一度も、セルフレジの置かれている様な店舗での買い物等して来なかったのは容易に想像が付きます。が・・・」

「問題は貴女(あなた)よ?ノエル・・・!!!」

 そこまで蒼太が言った時、メリアリアが言葉を拾って質問を続けた。

「貴女は今までの買い物で、何度となくセルフレジを使って来た筈よね?日本にいる時からそうだったんだもの、エウロペ連邦にいる時だってキャッシャーに並んだ事はあったでしょうに・・・!!!」

「どうしてあんな、レアンドロさんを笑い者にするような真似をなされたのですか?いいえ、それどころか自分自身さえもそう言う立場に立たされておいででしたけれども・・・!!!」

「正直に申し上げまして、貴女の行動は見ていてとても滑稽でした、それだけでは無くてどうにも違和感が拭えませんでした。何故、プリンス共々敢えて狂演者のような真似を為されたのですか?」

「・・・・・」

 するとそれを聞いたノエルは不意に真面目な顔になって蒼太達に質問を返した。

「じゃあソー君達はあの時。私がレアンドロに真実を教えて指導してあげるべきだった、とでも言いたいの・・・?」

「そうです。まあ、確かにタイミングは難しかったかと思われますけど。それでも本人の為を思うのであれば・・・!!!」

「私はそうは思わないけどなぁ~・・・っ!!!」

 すると蒼太の話している途中で珍しく、ノエルがやや強めに声を挙げて割り込んで来た。

「私はね?ソー君。彼氏と共に歩んであげたいの、それはね、どっちかが先生でどっちかが生徒、と言う関係では決して無くて。どちらも同じ目線に立って物事を同じように見据えて行きたいんだぁ~・・・っ( ・_・)( ・_・)( ・_・)」

「・・・・・」

「ソー君やメリアリアちゃん達の言っている事、解るよ?確かに本当なら私はあの時、レアンドロを止めてあげるべきだったのかも知れない。でもレアンドロ、私に言ったの。凄い良い顔で言ったの、“僕が買ってくるよ”って、“君を輝かせてあげるね”って。それは今から思えばくさい台詞だったかも知れないけれども、少なくともあの時の彼は本気で私の事を思っていてくれたんだ~・・・っ( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」

 “だからね?”とノエルは続けた、“私思ったの”とそう言って。

「“この人と共にあろう”って、喜びも悲しみも、恥ずかしい事や栄達だって同じ目線に立って受け取ろうって。だから敢えて私も何も知らない振りをしたの、だってあのまま行っていたら私が先生みたいになって。その結果せっかくやる気になっているレアンドロの心意気を、そして何よりその面子(メンツ)をぶち壊しにする事になっていたでしょう?それは避けたかったのよ・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ゴメンね?ソー君、メリアリアちゃん。それにアウロラちゃんにオリヴィアちゃんも。本当は皆の言っている事の方が正しいのかも知れない、だけど私はレアンドロに本当の意味で立派になって欲しい。何でもかんでも自分で出来る様になって欲しいのよ!!!」

 “その為には”とノエルは少し寂しそうに、しかし覚悟を秘めた様に微笑んだまま、口から言葉を紡ぎ続ける。

 “私は、バカのままでも良いの・・・”とそう告げて。

「レアンドロが真に立派な人になってくれるのならば、私はどうなっても構わないわ。その為には全身全霊を掛けて私はあの人に寄り添い続ける、私なりに一生懸命にね。・・・ただそれだけの話よ」

 “さてと、と!!!”とそこまで話した直後にいきなり、ノエルは普段のテンションに戻って言った。

「ソー君ゴメンねぇ~?余計なお金を払わせちゃってぇ~っ。私が補償しても良いんだけれども、だけどレアンドロの顔を潰してしまうからそれは出来ない相談なのよぉ~っ(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「アハハハッ。そう言う訳だからぁ、お休みなさいねソー君、メリアリアちゃん。それにアウロラちゃんにオリヴィアちゃんも。また明日ぁ~っ(//∇//)(//∇//)(//∇//)」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

(ノエル、貴女は間違っているわ?決して完璧な人じゃない、決して完璧な答えじゃない。だけれども・・・!!!)

(だけれども!!!良く解ります。貴女の気持ち、そしてその覚悟も・・・)

(この人の為ならば、己の全てを掛けて厭わない。その思いは、間違いじゃない・・・!!!)

 元気よく手を振りながらその場を後にするノエルの言葉を聞いた蒼太はそれ以上何も言えなくなってしまい、また彼の花嫁達も全員が、自身の夫に対する真なる思いの丈を、叫びを心の底から、そして何より魂の底から改めて感じ取っては強く噛み締め続けていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】女騎士レイノリアは秘密ではない恋をしている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:193

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:391

時翔る嫁 双子令嬢と身代わりの花婿

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:68

美貌の魔法使いに失恋するための心構えについて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:63

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

【短編】わかたれた道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

パスコリの庭

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:27

処理中です...