【短編】弱音を吐けない英雄サマは、今夜も僕を抱きにくる

「いやぁ、美味しそうな幼虫だったから、つい……」
「つい、で普通の人は幼虫なんぞ食わんのよ」

 垂らした釣り竿の先。
 餌の幼虫に引っ掛かったのは、仕入れ用の魚、ではなく、ただの冒険者だった。

 ただの冒険者の君、ラディ。
 ただの漁師の僕、フォルタ。

 最初はそんな出会いだったのに、いつの間にか君は、名のある冒険者になって、そして国同士のいざこざにも巻き込まれていった。
 たまに街に帰ってくる君は、その辛さを忘れるように、失くしたものを補うように、僕を抱く。

 好きも愛してるも、友情の形すら失くなってしまった冷えた関係。
 抱くだけ抱いて部屋を出ていく君の手を、僕はまだ、掴めていない。
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