慟哭の先に

レクフル

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思い出の村

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 目の前には私がいた頃の村が存在していた。
 
 私達が住んでた家が修復できればそれだけで良かったのに、村全体が修復されてそこに存在していたのだ。

 けれどそこには誰もいなくて、それは当たり前なんだけど、綺麗な村のままヒッソリと静かにあるだけの状態は寂しく感じられて、それでも私にはその一つ一つが彩り鮮やかに見えてくる。

 あれはもう12年以上も前の事なのに、昨日までの事のように、私の中にある記憶が次々と思い出されていく……


「エリアス! ここの家のおばさんはね、お菓子を作るのが凄く上手だったんだ。希少な砂糖が手に入るといっぱいケーキを作って皆に配ってくれてて、それが凄く楽しみで……」

「そうなんだな……」

「この家には私より大きいお兄ちゃんが住んでいて、よくディルクと戦いゴッコをしてたんだ。私も入れて欲しかったんだけど、女はダメだって言われて。でも優しかったんだ」

「そっか」

「あ、そうだった! ここにいつもお爺さんが座っててね、いつも何も言わずにニコニコしながら皆の様子を見ていたんだ。私が作った泥団子をあげたら、嬉しそうに受け取ってくれてたんだよ」

「うん」

「あそこに住んでるおじさんはね、スッゴく強かったんだ! いつも村の周辺に出没する魔物を討伐してくれててね、キングボアを討伐したときは村がお祭りみたいになって、キングボアの肉で村中の皆でバーベキュー大会とかして、それが凄く楽しかったんだ」

「楽しそうだな」

「うん! あ、それとこの家がお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家でね、二人は私とディルクにスッゴく優しかったんだ。お母さんに怒られたらね、すぐにお祖父ちゃんの所に行ってに庇って貰うんだ。そしたらね、ふふ……お祖父ちゃんがお母さんに怒られちゃって」

「アシュリー達が可愛いかったんだろうな」

「それでここに……この家にお母さんとお父さんとディルクと私の4人が住んでて……お母さんはね……あの頃はすごく優しかったんだ……お父さんが私をよく肩車してくれて……私を可愛がってくれていて……お母さんは少し焼きもちをやいたり、し、て……」

「いい家族だったんだな……」

「うん……」


 まるで目に見えてるように、あの頃の思い出が次々と浮かんでくる。思い出の中にいる人達は皆が笑顔で優しくて……


「最後に見たのは……私は母に抱き上げられて、その肩越しに……皆が……兵士達に拘束されて……兵士に村人の命を助けるように懇願したお祖父ちゃんが……首を跳ねられてて……」

「分かった。アシュリー、分かったから」

「私を捕まえに来た……兵士、に……皆……」

「アシュリーは悪くねぇ! 何にも悪くねぇ!」

「でも……! 私、が……ここにいた、から……! 生まれてきたから!」

「アシュリーっ!」


 涙が溢れてくる。ここにはいない人達の生きてきた様子が、ハッキリと脳裏に浮かんでくる。それは鮮明に、私に訴えかけているようにも思えてきて……


「ごめんなさい……! ごめんなさい! お母さん! お祖父ちゃん、お祖母ちゃん……っ! 皆……ごめ……な、さ……」

「アシュリー、ひとまず戻ろう! 魔力も切れてるから帰るぞ?! な?!」

「エリアス……」


 私の返答も待たずに、エリアスは私抱きしめたままニレの木の元まで帰ってきた。
 エリアスはニレの木を背にして座り込む。

 涙が出て止まらない私をエリアスは膝にのせて抱きしめてくれる。ニレの木の魔力が優しく私に足らない魔力と癒しを与えてくれる。

 
「ごめん……エリアス……」

「謝る必要なんかねぇ……アシュリーは何も悪くないから。俺の為に生まれて来てくれた。だからこれは俺の責任でもある」

「だけど……」

「俺、アシュリーの全部を貰うって言ったろ? だから一人で傷つかないでくれ。俺にも背負わせて欲しいんだ」

「エリアス……」

「落ち着くまでここでゆっくりしような」

「うん……」


 一人じゃなくて良かった。エリアスがいてくれて良かった。だけど今は優しい言葉に返す言葉が見つからなくて、ただエリアスに甘えてしまう。

 暫くの間そうやって、私はエリアスの胸に顔を埋めていた。エリアスは私を抱きしめながら、背中や頭を撫でてくれる。

 少しして、この場所とエリアスに癒されて、涙は少しずつ無くなっていく。


「少し落ち着いてきたか?」

「うん……もう大丈夫……」

「無理はしなくていい。すぐに切り替えられるもんでもねぇのは分かるからな」

「うん……ありがとう」

「礼も必要ねぇって。俺、嬉しいんだ。こんな時にアシュリーの傍にいられる事がな。少しでも力になってやれるかも知んねぇ事が嬉しくってな」

「少しじゃない……エリアスがいてくれる事が凄く心強くて……いてくれて良かった……」

「そっか。良かった」

「うん……」

「あの、な……どう思うか分かんねぇんだけどな? あの村、使いたいんだけど、どうかな?」

「え? 使う? 何に?」

「あぁ。俺が各地に孤児院作ったり、村自体を孤児院みてぇにしてんの、知ってるか?」

「うん。エリアスは親を無くした子供を引き取ってるの、知ってる。働き口を無くした人達に村全体で子供を育てるっていう仕事の斡旋もしてるよね。もしかして、そんな村にする為?」

「よく知ってくれてんだな。今もまだ孤児ってのはあちこちにいるんだよ。で、俺は今ロヴァダ国を立て直すのを手伝ってんだけどな。ロヴァダ国にはまだ奴隷制度があってな。その殆どが子供なんだ」

「そうなんだ……」

「子供だけってのは、大人になる前に殆ど皆死んでしまうからなんだ。それほど酷い扱いを受けててな。あと、親が亡くなった場合も、問答無用で奴隷とされてた」

「それは酷い……」

「あぁ。で、今回も多くの子供や成人前の子がいてな。ロヴァダ国は孤児院なんか無かったから、簡易的に王城の一角を孤児の収容施設としてたんだ。けど、やっぱり設備とかが整ってないから、ちゃんと孤児院作んなきゃなって思ってたところだったんだ」

「その子達をあの村に?」

「嫌か?」

「ううん! 使って欲しい! あのまま誰も住まない状態で放置するより、誰かに使って貰った方が絶対良い!」

「そっか。良かった。ありがとな」


 エリアスはニッコリ笑って私を見る。
 
 やっぱりエリアスは凄い。私はあの家をそのままにしたくなくて、ただそれだけの思いで村を修復させただけだった。

 けど、エリアスはちゃんとそれを活用しようと提案してくれた。あの村にまた活気が戻るなんて、こんなに嬉しいことはない。

 きっと辛い思いをしてきた子供ばかりだろう。

 私も力になれる事があるかも知れない。

 そう思うと嬉しくなってきて、さっきまでの悲しい気持ちはなくなっていたんだ。




  
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