仕事を解雇されたら、愛する彼女に監禁されました

れん

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終、

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ツムを連れて、夜道を歩く。

首輪に鎖をつけて歩くのは充分ハードだって言われそうだけど、明るい時間帯にしなかっただけ優しいほうだと思う。

「どこに行くの?」
「んー、もうすぐつくよー」

彼にとっては何度も何度も行き来した馴染みのルートだから、もう気づいていると思う。
目的地に近づくにつれて、顔が強ばってきてる。

「俺の、アパート……?」

彼がずっと帰りたがっていた場所に到着。
予想外だったみたいで、口をあけてポカーンとしているけど、そんなに意外かな……。

「そうだよ。はい、鍵」

鍵を渡すと、こちらをじっと見て開けて良いのかと訴えてくるので頷いてあげた。

ツムは顔に出さないようにしているけど、戸惑いが隠しきれずにおかしな顔をしている。

震える手で必死に鍵を穴にさして解錠し、扉を開ける。

「なんだ、これ……」

ツムの手から鍵が滑り落ち、床にぶつかってカシャリと乾いた音を立てる。

彼が愛用していた靴も、冷蔵庫も、レンジも、テレビも、テーブルも、ベッドも、本棚も、洗濯機も、なにもない。

まっさらな、生活感が抜け落ちた空間を見た彼は目を見開いて、膝から崩れ落ちた。

「驚いた?」
「これ、は……アヤメが、やったのか?」

「うん。そうだよ?」
「どうして、こんな……」

「だって、いらないでしょ? 退去手続きも終わってるし、ガスや電気、水道も今月末で止まる。ツムの家はアヤメの家。ツムが帰るのはアヤメの家だから。ツムだけの家は必要ないでしょ? ツムは、アヤメの傍にいればいいんだよ。ずっと、ずーーっと、ね?」

床に座りこむ彼の頭を撫でながら、この部屋の不要性を説明する。

「部屋にあった物はレンタル倉庫に全部しまってあるから、安心してね。月の家賃が10分の1になるし。ツムを追い詰めてアヤメを犯そうとしたあいつから慰謝料もたっぷり搾り取るつもりだから、ツムは安心してアヤメに……あれ? ツムたん?」

ツムの様子がおかしいことに気づいて話を中断し、名前を呼んでみる。

「あ、はは……」

乾いた笑い声をあげるだけで、返答なし。私が犯されそうになった話にも無反応……私の話、聞こえてないみたい? 刺激が強すぎて、処理が追いつかなくなっちゃったかな?

「おーい、ツム? 聞いてる? ……ちょっと、驚かせすぎたかな」

こういうときは無闇矢鱈に刺激したり、声をかけるよりも自然復旧するのを待つ方が良いんだっけ。

「ほら、ここにはもう用はないから、帰ろ? アヤメとツムのお家に」

リードを引っ張って立つよう促すと、ツムは素直に立ち上がる。

来た道を無言で歩き、大人しく従う彼をベッドに寝かせ、着ていた……あの男に汚された服を袋に詰める……この服、結構気に入っていたのに、もう着れなくなってしまった。その分もきちんと倍額請求しないと。

シャワーで入念に身体を清め、彼を抱き枕に眠りにつく。酒の影響か、ツムたん抱き枕の癒し効果か。ストンと意識は落ちていった。


ーーーー

後日、私を犯そうとした上司は強姦未遂で逮捕された。

それをきっかけに内部調査が行われ、ツムの不当解雇に関しては暴力を振るったツムも悪いとされたが、そこに至る過程が悪質であることや周囲の人間も加担したことから芋づる式に何人も処分されることとなった。

「あのさ……紡君、もう戻ってこないの?」
「はい?」

「紡君のことを悪く言ってた人、みんな処分されたから……人手が足りないし、頼れる仕事ができる人に復帰してほしいなって……」
「……はぁ、またですか」

処分されずに残った人たちからはツムに戻ってきてほしい。恋人の私から彼を説得してほしいと言われたのはもう何度目だろうか。

「彼はもう別のところに就職してるんです。それに関して、私からどうこう言うことはできませんよ……それに、今更戻ってきてくれなんて、都合が良すぎます。彼がどれだけ追いつめられていたか、わかりますか?」
「そ、それは、その……」

意地悪をしている訳じゃない。私はきちんと助けてほしいと声をあげた。その声を無視したのは彼らだ。自業自得としかいえない。

「彼にいてほしかったのなら、もっと大事にするべきだったんです。もう、遅いんですよ」

彼が追い詰められているのをみていたくせに、自分が攻撃の的になりたくないからと彼を切り捨てたんだ。彼に戻ってきてほしいのも、上司陣の仕事を押しつけるためだろう。

なんて厚かましいんだろうか。
元上司以上の屑さに吐き気がする。

私がツムをそんな人たちの生け贄にするはずがない。今更すり寄ってきても、もう遅い。

「それと、私も退職することになりましたので。残った有休はしっかり消化させていただきます。労働者に権利ですからね。残ったみなさんでがんばってください」
「そ、そんな! 仕事、終わらないじゃない!!」
「知りませんよ、そんなの。性犯罪にあった私をこそこそ裏で嗤うような人達と一緒に仕事なんてしたくないですし」
「あ、あ……」

気づかれていないと思ったのか、顔を青ざめさせて黙り込んだ。

私もこんな屑達の尻拭いをするつもりは微塵もない。
退職金に迷惑料をプラスして、会社と元上司からも慰謝料を請求している。

少しでもダメージを負わせたい。

額が少なくても、訴えられることは社会的に小さくないダメージになる。会社の看板には大きな傷になるだろう。

「仲良しな人たちでがんばってください。私たちでもできた仕事です。私達よりも優秀で、チームワーク抜群なみなさんならきっとできますよ。それでは、お先に失礼します」

そう言って、職場をあとにする。
色々な思い出もある職場だったけど、今はもうどうでも良い。

職場を出て、ペットカメラの画面を見ると、彼は部屋の片づけや掃除をしてくれていた。

「うんうん、今日もお仕事がんばってるね~」

彼の新しい職場は私の家。
仕事は家事と私の癒し担当だ。

「今から帰るからね、ツムたん♪」

帰ったら、何をしよう。何をしてもらおう。
あれこれ考えるだけで顔がにやけ、足取りも軽く、私は家路についた。



終わり
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