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章1

どっちかっていうと性能じゃなくて迷惑度がSランク(1)

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 TS転生受付嬢、クラリーネは自身についてを簡単に話し、透たちの信頼への担保代わりだと自分のスキルについて打ち明けた。

 クラリーネ……彼と呼ぶべきか彼女とするか判断に迷うところだが、いったん彼女としておこう。
 彼女のスキルは、<サイキック>。
 効果範囲内であれば、条件を満たすことで相手のステータス・思考・24時間後までの未来が見れる、という効果を持つ。

 ステータスに関しては、隠蔽されていても裏まで確認可能。
 スキルが成長すると、Lv1で24時間、Lv2で一週間、Lv3が一ヶ月程度になることが分かっているそうだ。

「つまり、私たちのステータスもしっかり見えてるから、代わりに自分のも明かしておくって話ね」

「そうだな。そこの少年――勝宏だったか。そいつのステータス画面がバグってるのも確認済みだ」

 こちらの世界で受付嬢を始めたのは、手っ取り早く冒険者たちから情報収集ができると考えたかららしい。
 確かに、彼女のスキルは戦闘向けではない。
 ステータスまでは分からないが、スキルだけで言うなら裏方に回った方が力を発揮できそうな効果である。

 相手の未来が予測できるおかげで、冒険者たちがどんな魔物に遭遇するか、どんな危険が考えられるかを事前にアドバイスできることになる。
 それゆえ人気が出てしまい、今では彼女を指名してまで彼女から依頼を受理してもらおうとする冒険者があとをたたないのだそうだ。

「一応昼休憩を貰ってきてるが、飯食う時間も欲しいんでね。本題に入らせてもらう」

「君、受付でちまちま早弁してるじゃないか……あいたっ」

 いらんことを口走ったアルスラッドがクラリーネの肘鉄を食らい、沈黙する。

「こっちが話せるのは「転生の際に神が勝手に選んだスキル」についてと、「種子と呼ばれるスキル」について、それらから推測される状況についてだ。
等価交換といこう。この3つを提供されることと引き換えに、おまえらが俺たちに渡していいと思える範囲の情報を教えてもらおう」

「私が代表で喋っちゃっていいのかしら?」

「うん。俺わかんないし、透今喋れないしな」

 詩絵里の確認に、勝宏が頷く。
 彼女が口を開いた。

「こっちも持ってる情報は断片的なものよ。七つの大罪の名前が付いた「種子」と呼ばれるスキルを、自力で植えつけたり自力で覚醒させようとしたりしてる悪の秘密結社みたいなのが居るってことがまずひとつ」

「ああ、その存在は俺らも知ってる。種子スキルの覚醒を促す連中だ。……だが、植えつける、とはどういうことだ?」

 既にクラリーネたちが持っている情報と被ってしまったか、と思ったが、そうでもなかったようだ。

 詩絵里が、ウルティナの一件をフェイクを交えながら説明する。
 貴族絡みの誘拐事件など、そのままを打ち明けるわけにはいかないのである。

「ほう。連中はスマホ型のアイテムを用いて「種子」スキルを植えつける実験をしていたと」

「そうね……最初のターゲットはとある貴族令嬢だったけれど、妨害したらあっさりうちの透くんにターゲットを変更してきたから、簡単な条件が揃ってれば相手は誰でもいいんだと思うわ」

「……なるほどな。一部、認識を改めなきゃならんところもあるらしい」

 では、こちらから情報を二つ話そう。
 クラリーネが足を組みかえる。

「まず、転生者なら誰でも持ってる、転生時の初期スキルについて。……スーパースキルだのメインスキルだの呼ばれているあれだ。あれは、サブスキルとは違って転生者本人には選べなかっただろう?」

「転生特典チート……あなたでいう<サイキック>、私でいう<解析>のことよね」

「多くの転生者のステータス欄と、追加スキルのポイント交換欄を見ていて気付いたことだ。その「開始時に自分で選ばせてもらえなかったスキル」は、大きく3種類に分類できると考えている。比較的安価なポイントで手に入るスキル、高額なポイントを支払って得られるスキル、そして、ポイントでの取得ができないスキル」

 取得できないスキル、という話は、リファスから聞いていた話と一部合致する。

 無論、その情報も詩絵里には共有していたが、第三者から同じ意見が得られると心強いものだ。

「取得できないならさぞ高性能で特殊なスキルなんだろうと思いたくなるが、確認できる限りでは、どれもなぜかたいしたスキルじゃない」

「一部の取得できないもの、チートと呼ぶにはお粗末なスキル……ここまではおおむね、こちらの聞いたものと、話は合ってるわね」

「だが、情報収集しているうちにあることに気付いた。それらの取得できないスキルを転生時に引きあてたやつらは皆、ステータス欄の表記が特殊なんだ」

 そこで、現在ステータス欄が文字化けしている勝宏が反応する。

「俺みたいに、文字化けしてるとか?」

「違うな。成長先のスキル名称が、初期スキルと異なる名称になっているんだ」

「うそ、変わるものなんじゃないの?」

 詩絵里が驚愕の声を上げた。
 彼女もまた、成長先のスキルが異なる名称で表示されている転生者なのだ。

「変わらないよお? 僕の場合<イレギュラー>っていうスキルだけど、成長させても<イレギュラーLv2>とかになるだけで、名前自体はそのまんまさ。たぶんルイーザちゃんもそうだと思うよ」

 話としては、こうだ。

 たとえば、最初に得たチートスキルが<博識>だとして、それを成長させると<賢者>というスキル名称に変わってしまう……というのが、詩絵里の認識。

 しかし、クラリーネたちの認識では、転生者の大多数は、最初に得たチートスキルが<博識>だとすると、それを成長させても<博識Lv2>というスキル名称にしかならないのだそうだ。

「勝宏、詩絵里。おまえらのスキルはそれに該当するはずだ。勝宏のものは見た目が変わるから誤魔化されがちだが、実質ただの身体強化魔法。詩絵里のものはちょっと高性能なだけの鑑定魔法だろう」

 確かに、その点は透も以前から気になっていた。

 ルイーザの何気ない世間話によってスキルが成長することを知ってからは、成長後に真価を発揮するものなのだろうと考えていたが……。

「成長させることで、スキルが「似た能力の別の何か」になる……といっても、結局もとの能力の上位互換だし、成長進化させてようやく他の転生者が得ているようなチートスキルと同等のチートを得られる程度でしかない」

 おまえらがさっき遭遇した、「チートをもらって転生したら、人間ではなく魔物になった件」のやつも、もとはそういうスキルだったな。
 何気ない様子で、クラリーネが口にする。

「では、どうしてクソみたいな効果しか持たないそれらが、後天的に取得できない仕様なのか。俺たちはこれに関して、「神々のマーキング」なのではないかと考えている」

「……マーキング?」

「このゲームには、勝ち残る以外におそらく何らかの目的がある。ろくな目的じゃないだろうがな。その目的に使う「何か」の候補に選ばれている人間が、目印がわりに「後天的に取得できないスキル」を植えつけられている……というのが俺らの認識でな」

 嫌な予感とともに、散らばっていたピースが少しずつ繋がっていく。

「さて、俺の話は一旦ここまでだ。もうひとつの情報の前に、そっちの話を何か教えてもらおうか」
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