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本編
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焦った顔のジョイ殿下と、ぽかんとしたジョスリン殿下の姿は一瞬で消え、見知った王城の一室へと変わった。
「……いいの?置き去りにして」
「もちろん。俺を苛立たせたのだから、帰りの足くらい苦労して探せばいいんだよ」
「そうだね……普通、他国の先王、現公爵で既婚者を口説かないよね……」
僕もちょっとうんざりしてきた所だったので、いっか。
行きは転移で連れていったけど、護衛も侍従や侍女も一緒にいるし、なんとかするでしょう。
父に報告をすると、ハァ……と頭を抱えていた。
「皇女殿下は……周囲の男性に甘やかされて育ってきたらしい。グロリアス殿、申し訳ない。あの方にはグロリアス殿を思い出す暇も無いくらいに学業をお勧めしようと思う。シオンも不快だったろう。しばらく休み、事業は皇女殿下が学園に行っている時間にしなさい」
「そうします、お父様。ありがとう」
そうして暫く、僕とグロリアスは皇女様に会うこともなく、日中少しだけ仕事をしては大半を家でゆっくりしたり、いちゃいちゃしてはたまに抱き潰されて寝込んだりして過ごす、幸せな日々を送っていた。
ジョスリン殿下は学園に通いだし、ジョイ殿下は帝国へ戻っていった。最後まで妹君を心配していたけど、正直なところ、ジョイ殿下は絶妙に妹君に甘い。いても居なくても、ジョスリン殿下の態度は殊勝になることはない。
学園には同じ年頃の貴族令息が多く通っている。父は何人か令嬢を選び、婚約者のいるジョスリン殿下に男子生徒を近付けさせないよう通達している。同じ学年に僕の弟、ディオンもいるのだが、彼にはそのお目付け役を。
先日会ったディオンは『命令だから仕方ないけど、かなりキツイ』と言っていた。うーん、可愛い弟が温度のない遠い目をしていたから、心配だ。
でも、ディオンは次期国王。立太子予定の王子だ。それにグロリアスとの仲もなかなか良いし、もちろん、『救世主』と呼ばれる僕とも仲が良い。お父様譲りの精悍な顔立ちに、最近はめきめきと筋肉をつけて、自信もついたのか、頼もしくなった。ここで帝国の皇女をディオンが上手く転がすことが出来れば『うちの王子は頼もしい』と支持が高まるかもしれない。
弟にマルッと投げてしまうようで申し訳ないが、どうか上手いこと誘導し、早い所、僕のグロリアスのことは忘れてくれないかなぁ、と期待していた。
僕の作った運動施設は、各地で大人気となっていた。
この世界は、あまり子供向けの遊ぶものが無い。だだっ広い草原を走り回るのも、魔物の出る危険性を考えれば推奨されないし、かといって、街中は馬車も通るし人攫いもいる。
だから、その運動施設は敷地を壁で仕切って、子供が飛び出していかないようになっていて、見通しやすいため迷子になることもない。安心して遊ばせられるし、疲れてくれて助かると、多くの声が寄せられていた。
国内全ての主要都市に、作り終えた。あとは上手く運用されているか、だ。
それはもう各地の管理人の仕事になるのだけど、たくさんの子供の笑顔が見たくて、一番近い運動施設へ見学をしに行くことにした。
「あれ……?」
「……妙だな。もっと活気があると想像していたが……」
なんだか心なしか、前より人が減っている気がする。施設の隅では、コソコソと井戸端会議をしている奥様方がいるけれど、その表情は険しく、とてもじゃないが盛り上がっているようには見えない。
同じく転移してきたグロリアスも、眉間に皺を寄せていた。
「あのう……シオンさまー」
「はい。どうしたのかな?」
「その、えと……っ、アバズレって、なに?」
ピキリ。
小さな子から、あるまじき単語。
グロリアスが僕の肩を抱きしめて隠し、少年に向かって優しく諭した。
「それを君に教えたのは、誰かな?どうして、シオンに聞こうと思ったの?」
「ママたちが、話してたの。“シオンさまはアバズレで、ここで遊ぶとアバズレになる”って。ぼくは、ここ大好きなのに、もうだめだって」
「え……」
「アバズレって、悪いことなの?シオンさま、すごい人なのに、悪いことしたの?」
地面が歪むような、立ち眩みがした。
グロリアスから殺気が立ち上る。少年は怯え、駆け出していった。
「……いいの?置き去りにして」
「もちろん。俺を苛立たせたのだから、帰りの足くらい苦労して探せばいいんだよ」
「そうだね……普通、他国の先王、現公爵で既婚者を口説かないよね……」
僕もちょっとうんざりしてきた所だったので、いっか。
行きは転移で連れていったけど、護衛も侍従や侍女も一緒にいるし、なんとかするでしょう。
父に報告をすると、ハァ……と頭を抱えていた。
「皇女殿下は……周囲の男性に甘やかされて育ってきたらしい。グロリアス殿、申し訳ない。あの方にはグロリアス殿を思い出す暇も無いくらいに学業をお勧めしようと思う。シオンも不快だったろう。しばらく休み、事業は皇女殿下が学園に行っている時間にしなさい」
「そうします、お父様。ありがとう」
そうして暫く、僕とグロリアスは皇女様に会うこともなく、日中少しだけ仕事をしては大半を家でゆっくりしたり、いちゃいちゃしてはたまに抱き潰されて寝込んだりして過ごす、幸せな日々を送っていた。
ジョスリン殿下は学園に通いだし、ジョイ殿下は帝国へ戻っていった。最後まで妹君を心配していたけど、正直なところ、ジョイ殿下は絶妙に妹君に甘い。いても居なくても、ジョスリン殿下の態度は殊勝になることはない。
学園には同じ年頃の貴族令息が多く通っている。父は何人か令嬢を選び、婚約者のいるジョスリン殿下に男子生徒を近付けさせないよう通達している。同じ学年に僕の弟、ディオンもいるのだが、彼にはそのお目付け役を。
先日会ったディオンは『命令だから仕方ないけど、かなりキツイ』と言っていた。うーん、可愛い弟が温度のない遠い目をしていたから、心配だ。
でも、ディオンは次期国王。立太子予定の王子だ。それにグロリアスとの仲もなかなか良いし、もちろん、『救世主』と呼ばれる僕とも仲が良い。お父様譲りの精悍な顔立ちに、最近はめきめきと筋肉をつけて、自信もついたのか、頼もしくなった。ここで帝国の皇女をディオンが上手く転がすことが出来れば『うちの王子は頼もしい』と支持が高まるかもしれない。
弟にマルッと投げてしまうようで申し訳ないが、どうか上手いこと誘導し、早い所、僕のグロリアスのことは忘れてくれないかなぁ、と期待していた。
僕の作った運動施設は、各地で大人気となっていた。
この世界は、あまり子供向けの遊ぶものが無い。だだっ広い草原を走り回るのも、魔物の出る危険性を考えれば推奨されないし、かといって、街中は馬車も通るし人攫いもいる。
だから、その運動施設は敷地を壁で仕切って、子供が飛び出していかないようになっていて、見通しやすいため迷子になることもない。安心して遊ばせられるし、疲れてくれて助かると、多くの声が寄せられていた。
国内全ての主要都市に、作り終えた。あとは上手く運用されているか、だ。
それはもう各地の管理人の仕事になるのだけど、たくさんの子供の笑顔が見たくて、一番近い運動施設へ見学をしに行くことにした。
「あれ……?」
「……妙だな。もっと活気があると想像していたが……」
なんだか心なしか、前より人が減っている気がする。施設の隅では、コソコソと井戸端会議をしている奥様方がいるけれど、その表情は険しく、とてもじゃないが盛り上がっているようには見えない。
同じく転移してきたグロリアスも、眉間に皺を寄せていた。
「あのう……シオンさまー」
「はい。どうしたのかな?」
「その、えと……っ、アバズレって、なに?」
ピキリ。
小さな子から、あるまじき単語。
グロリアスが僕の肩を抱きしめて隠し、少年に向かって優しく諭した。
「それを君に教えたのは、誰かな?どうして、シオンに聞こうと思ったの?」
「ママたちが、話してたの。“シオンさまはアバズレで、ここで遊ぶとアバズレになる”って。ぼくは、ここ大好きなのに、もうだめだって」
「え……」
「アバズレって、悪いことなの?シオンさま、すごい人なのに、悪いことしたの?」
地面が歪むような、立ち眩みがした。
グロリアスから殺気が立ち上る。少年は怯え、駆け出していった。
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